第417話 勇者村餅つき大会

 ハオさん一族を連れ回し、最後は宇宙船村の採掘体験をやった。

 おお、採掘用のピッケルが宇宙船から採取された特殊鋼を使ったものになってるじゃないか。

 採掘の効率が上がっている。


 だが、それだけに採掘回数や時間は厳しく制限されるようになっていた。


『ショートか。そこの者たちは?』


「おお、鍛冶神! 彼らは俺が米やもちを手に入れるのを大いに手伝ってくれた人々でな」


『なるほど。神からすると、貴重な供物を捧げた信者と同じようなものかも知れんな。大切にするのだぞ』


「おう。末永くお付き合いするぜ」


 ハオさん一族も、鍛冶神にペコリと一礼したり拝んだりしている。

 現存する数少ない古代神の一柱だからな。


 この宇宙船が、ワールディア世界を全体を見渡しても最もヤバい鉱物資源なので、鍛冶神が村長までやりながら管理せねばならないというわけだ。

 その後、ハオさん一族がワイワイと宇宙船を掘削しているのを見る。


 小さい欠片がコロコロと出てきて、これを近くにいたドワーフの鍛冶屋たちに、ネックレスやペンダントに改造してもらうのだ。

 ちょうどいい大きさに鋳物を作るだけなので、簡単らしい。


 だが、ハオさん一族は大喜び。

 いいおみやげができたな。


「ショートさん、とても楽しかったねー! 田舎だとばかり思ってたら、凄いところだったよー」


「勇者村は基本的に田舎なんだ。宇宙船村がおかしいだけだよ。でも、喜んでもらえて嬉しいぞ。ちょっとは恩返しになったらいいんだが」


「ちょっとどころじゃないよー!」


 ハオさん、大感激で俺の手を握ってぶんぶん振るのだった。


「だがハオさん、行楽はここまで。ここからはグルメだぞ」


「グルメ!? いやいやショートさん。ワタシが住んでるところ、世界の美食が集まるセントラル帝国よー? そんなワタシにグルメなんて……」


 勇者村にて駆けつけ冷奴。


「う、うまーい!! 疲れた体に冷えた白いキューブが美味しいねー!! えっ、トウフ!? 大豆を使った!? す、凄いねー。セントラル帝国にも大豆を使って作る同じものがあるけど、もうちょっと舌触りがざらっとしてるねー。作成方法を聞いても……?」


「もちろんだ。それもお礼だからな……!!」


「おー! ショートさん! あなたワタシの友達! 何時までも大切にするよ!!」


「俺もだ! よろしく頼む!!」


 熱くハグする俺たちなのだった。

 そんな後ろで、勇者村一行とハオさん一族が、うわーっと盛り上がっている。


 なんで盛り上がっているのか。

 その理由は簡単だ。


 臼と杵が用意され、みんなで参加しつつもちつき大会が始まったのだ。


「おらおらー!!」


「やるな兄ちゃん! どんどん突け!」


 頑張って杵をガンガン突くハオ一族の若い男を、ブルストがフォローしている。

 若い彼が間違って杵でガツンと叩いても、ブルストはオーガだ。痛くも痒くもない。

 これは理想的な教師だな。


 ハオ一族の男たちが次々に参加し、ハオさんの親父殿がどーれ、と杵を一発叩き込んでから腰をやって退場していった。

 俺は慌てて駆け寄り、回復魔法を掛けてやる。


「慢性化してるな。完全には治らんぞ」


「アイヤー、それでもありがたいよー!」


「アイヤー! うちの父の腰がここ十年で一番伸びてるよー!」


「ハオさんと親父さん、本当にそっくりだなあ……」


 感心しているうちに、もちつきは、ちびっこもちつき大会に移行したようである。

 勇者村のちびたちと、ハオさん一族のちびたちがワーッと出てきて、小さな臼に小さな杵でポコポコやっている。


 ほぼつき終わってるけど、雰囲気を楽しむのは大事だな。


「はいはい!」


「つあつあ!」


 おっ、サーラとマドカがいいコンビだ。

 水をつけてひっくり返すサーラと、上手いことつくマドカ。

 

 これは凄い。

 最もチームワークができており、的確な動きをする。


 女子チームに負けてはいられぬ!と奮起したのは、男の子チームだ。

 ルアブとカールくんの二人が、やはり素晴らしいチームワークを見せる。


「うおおお、まけるかまけるかー!!」


「いくぞいくぞーっ!!」


 いい感じだぞ!

 だが、そのもちはほぼつき終わっているのだ……。


 かくして、みんなでついたもちは、美味しい味付けがされて配膳されるのだ。

 おっ、勇者村の新米夫婦二組仲睦まじく食べているではないか。


 カトリナがシーナをおんぶしたままやって来て、彼らの前にのしっと座る。

 うーん、体型は出会ったときよりもむっちりしてきてるから、実に貫禄がついたなあ。

 それでいて、日々の作業のお陰で全く太っていないのだ。


 二十歳を迎え、カトリナは大人の色気すら身に着けた気がする。

 中身は世話焼きおばちゃんだが。


「これで精力をつけて頑張るのよ!」


「カトリナ、直接的だなあ」


「だって、欲しいでしょ?」


 カトリナが問いかけると、アムトとリタ、フーとピアの夫婦がうんうんと頷く。

 そうかそうか。

 二組の夫婦が、ちびっこもちつきを微笑ましげに眺めているわけだ。


 遠からず、あの風景の中に彼らの子どもが交じることだろう。

 で、その頃にはルアブとカールくんは大人の仲間入りだ。


 十歳にもなれば大人と同じような仕事ができるようになるもんな。


 ちなみに、アムトの弟であるルアブも、貴族の子だったカールくんも、今年で9歳だ。

 体もかなり大きくなった。

 ルアブなんか、体を鍛えてるようで、同年代の子どもの中ではかなり大きい方じゃないか。


 ほんとに、子どもはあっという間に大きくなるなあ。

 俺もアラサーになってるし、時間の流れがどんどん早くなっていく。


 ちびっこたちはもちつきを終え、それも配膳されることになった。

 ハオさん一族もすっかり馴染み、みんなでわいわいきゃあきゃあ騒ぎながら食事を楽しむ。


 時間の流れは早くなっているが……この楽しい時間はゆっくりと過ぎていくのだった。


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