第416話 ハオさん、来る

「ショートさん!」


「おっ、ハオさんじゃないか! どうしたどうした」


「実はねー。家族旅行をしようということになったよー」


「ほうほう、いいじゃないかいいじゃないか。で、どこに行くんだ。……と言っても、俺にコルセンターしてきたことから予想はつく。うちに来るんだな!!」


「そうよ! 行ってもいいかショートさん!」


「他でもない、ハオさんの頼みだ! いいぞいいぞ!!」


 朝イチでそういうことになった。


 ハオさんというのは、俺が世話になっている商人だ。

 セントラル帝国の人で、世界中を旅しては新しい商品を探している。

 主に作物や、食べられる嗜好品が多いな。


 彼から米、そしてもち米を紹介してもらい、勇者村の食生活は劇的に豊かになったのだ。

 この世界で俺が足を向けて寝られない人物の一人である。


「おとたん、だれくるのー」


「ハオさんだぞ」


「はおー?」


「そうそう。そうだな、おもちをくれた人だぞ」


「おもちー!?」


 マドカが目をくりくりさせた。


「まお、おもちすきだよー!!」


「だろ。その大好きなおもちはハオさんがお父さんにくれたんだ」


「おおー! いいひと!!」


 マドカがパチパチと可愛い拍手をした。

 他にも、米ともち米の紹介者だと話すと、勇者村の誰もが歓迎する事を口にした。


 うむうむ、大人たちからすると、米の酒を紹介してくれた恩人だもんな。

 午前中の農作業を終えた後、男どもがわいわい集まってきて、木の板で歓迎の看板を作り始めた。

 女性陣はここに貼る布を作っている。


 ほう、歓迎の文章を刺繍で?

 明日来るそうだから、今日中にやっつける!?


 凄まじい情熱だ。

 俺はというと、ハオさん一家を案内する観光ルートを考えていた。


 まずは勇者村を一周、そして宇宙船村でトラクタービーム射的などで遊んでもらい、宇宙船掘削体験。

 帰ってきたら宴会をし、宿は広場に急遽作ったゲストハウスを使う。


 このゲストハウス、柱を立てた上に大きな布をかぶせ、これを地面に杭で打ち込んだものなのだ。

 だが、これがどうして、でかい空間になる。


 でかいテントみたいだな。

 床には板を張り巡らし、その上に布を敷いている。


 俺とブルスト二人が超高速で仕上げたぞ。


 そしてついに。

 ハオさん一家がやって来る朝になった。


「来たよー!」


 ハオさんが家族を連れてやって来た。

 大家族だ!

 

 ハオさんと、ハオさんの奥さんと(奥さんいたのか)子どもと、ハオさんの兄夫婦と子ども三人と、妹夫婦と子どもと、両親と祖母が来た。

 凄いな!!


 ブルストもこれを見て、「うおーっ」と驚く。

 そして猛烈な勢いで走っていった。


 ゲストハウスを拡張するためだ!

 今回のコルセンターは、食堂に設定した。


 現れたハオさん一家……というかハオさん一族の前に、どどーんと看板が立ち上がる!


『ようこそハオさん!! 勇者村にようこそ! ゆっくりしていってね!』


 そう鮮やかな糸で刺繍されているのだ。

 これを見て、ハオさん一族は「アイヤー!!」と大感激。

 なお、文章は俺が翻訳してセントラル帝国語にしてもらった。だからバッチリ読めるようになっているのだ。


 掴みはバッチリ。

 次に、我が勇者村のちびっこたちが花束を持ってワーッと走ってきた。

 そしてみんなで声を揃えて、


「おもちありがとう!!」


 花束贈呈!!

 これにはハオさん一族、またまた「アイヤー!!」と感激。

 祖母と両親なんか泣き出してしまった。


 素晴らしい掴みじゃないか。

 こうして、ハオさん一族の滞在が始まったのである。


 俺は若い衆を連れ、サイトを伴って宇宙船村へ。

 ハオさん一族の祖母と両親は勇者村でゆっくりするそうだ。


 さて、やって来ました宇宙船村はトラクタービーム射的場。


「やあやあ勇者の旦那!」


「射的場の親父! また設備が豪華になってるじゃん……」


「ええ。射的場を拡張しましてね。雨天でも大丈夫なようにしました! ほら、屋根付き! 屋外タイプは超遠距離コースもありますよ!」


「いいぞいいぞ。こっちははるばるセントラル帝国から観光に来たハオさん一族だ。お手柔らかに頼むぞ……」


「へえ、そんな遠くから!! ということは、初心者コースから行った方が良さそうですなあ!」


 ということで!

 トラクタービームで遊んでみよう!


 ハオさん一族が、わあわあきゃあきゃあ言いながらビームを振り回している。

 おお、ふざけた子どもがハオさんをトラクタービームで持ち上げて振り回している!


 こうなると、安全のためにトラクタービームが止まるようになっているのだ。

 ハオさん、ポトッと落ちた。


「アイヤー」


「おうおう、大丈夫かハオさん。いいかちび、トラクタービームは人に向けたらいけないぞ。いや、人に向けても使うものなんだがな、本来は。ここは射的場だから的に向けるんだ」


「あい!」


 一族の子どもはなかなか物わかりが良い。

 ……と思ったら、俺にトラクタービームを放ってキャハハと笑っている。

 これはふざけているな。


「よーし、言うことを聞かないならこうだぞー。ツアーッ!!」


 俺はツアーッ一閃。

 トラクタービームを指で叩き割った。

 その衝撃が、子どものところまで走る!


 子どもはふっ飛ばされて、ころころと転がった。

 そして立ち上がる。

 青い顔をしている。


「な? トラクタービームを人に向けたら危ないだろう」


 その子は、コクコクうなずいた。

 うんうん、痛くなければ覚えないこともあるよな。


「アイヤー、ショートさんのアルカイックスマイルが怖いねー!」


 ハオさんが冗談めかして言うと、彼の一族はドッと笑うのだった。


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