第415話 豆料理とおもちについての考察

「ンー」


「うーん。わたしはあまいのがすきかも」


「まおもあまいのすきだなあ」


 マドカとサーラに、新しいおもちの味付けを試してもらっているのである。

 テーマは豆。


 砂漠の王国風の辛い豆か、日本風の甘い豆か……。

 そりゃあ、子どもたちからすると甘いのが好きだよなあ。


 サーラは砂漠の王国出身だが、物心ついてからずっと勇者村にいるから、味覚がこの村なんだな。


「あまいおまめおいしかったよねー」


「ねー」


 やっぱり子ども相手は甘い豆確定だな。

 塩辛い豆の煮込みは……。


「美味い! こりゃあ酒が進むな……」


「美味しいですねえ……。これは凄くいいですよ。砂漠の王国を思い出します」


 ブルストとスーリヤは塩辛い方を絶賛だ。

 二人とも結構な呑兵衛だからなあ。


「大人組には塩辛い方っと。なるほど、なるほど……。鍋を二つ作るのがいいな。使ってる豆は同じだが、味付けだけで全く好みが変わるからな……。そして豆といえば」


「お呼びになりましたか」


「クロロック!!」


 おらが村の畑の賢者、カエル人のクロロックが登場だ。


「大豆を用いた料理などをこちらでも再現するよう、開発を行っていたのですが、つい先日それが実りまして」


「おおっ!!」


 食堂のテーブルの上。

 クロロックと、彼に続く発酵所の面々が、仰々しい仕草で大きな箱を持ってくる。

 箱はちょっと濡れている。さっきまで水の中にあったのだろう。


「ということは……これは……!!」


「そうです。豆腐です。納豆を作成する流れの中で、様々な大豆料理の調理方法を分化させていました。これは黄金帝国で採取できるにがりを使うことができたので、ついに再現可能になりました」


 そこには、やや黄色い豆腐の姿が!

 勇者村の大豆は黄色みが強いからな。


 早速、醤油を掛けて食った。

 美味い!


 異世界で冷奴を食えるとは思わなかったなあ……。


「これは酒飲みチームが喜ぶ……。いや、待て。もちのタレを研究していたんだ。どうして豆腐が出てきたんだ」


「ハハハ、これは失敬。報告と提案を同時に済ませようと思ってしまいました」


 クロロックがカパッと口を開けて喉を膨らませた。

 笑ってる笑ってる。


「本題は、納豆を甘く味付けしたもので納豆もちにすると良いでしょう、と言う提案です」


「そうか、納豆もちはいいな! マドカは納豆好きだし、納豆もちはダブルで好きだろう。それから、豆腐の報告はめちゃくちゃ重要だからな? ではまさか……。おからが取れたか……?」


「ええ。ヤシモが甘辛く味付けして、おからを食べられるようにしてくれました」


「なんたることだ」


 飯の種であり、酒の友でもある。

 さらには、大豆の栄養分がたっぷり詰まっているのがおからだ。


 俺はホクホクしながら発酵所へ向かい、おからを堪能し、これをもらって食堂に戻ってきた。


「おとたん!!」


「うわーマドカ!」


「おもちにつけるやつ、きまったの?」


「あ、済まん済まん」


 すっかり豆腐とおからに夢中になっていた。


「納豆もちというのをクロロックが考えたので、食べよう」


「なっとうのおもち!?」


 マドカが目をくりくりさせる。

 好きなものが二つ組み合わさったものなのだ。

 彼女が興味を抱かないはずがない。


「つくって! おとたんはやくつくって!」


「はいはい」


 俺は調理場に向かうと、夕食の準備中の奥様方に納豆もちの話をした。


「じゃあ、今夜のご飯に出しましょうか!」


 本日のメイン食事担当のスーリヤが手をたたく。

 納豆は甘くしてもいいし、タレで味をつけてもいいし、醤油でしょっぱくしてもいい。


 砂漠の民である彼女からすると、好みの味付けにできる優れた食品なのだ。


「助かる。じゃあそういう方向でお願いします。あ、もちは今から俺がついてくる……。おいサイト! サイト!」


「へいへい」


 最近影が薄くなっていた、勇者パーティ幻の五人目、サイトを呼び出した。

 あらゆる魔法を打ち消す力を持つこの男だが、平時では普通の男である。


「なんですかね」


「暇?」


「大体常に暇ですね」


「もちをつくからこねてくれ」


「うっす」


 そういうことになった。

 臼と杵を用意し、蒸したてのもち米をそこに叩き込む。


「行くぞーっ!」


「うっす」


「ツアーッ!」


「うっす!」


「ツアーッ!」


「うっす!」


「ツアーッ!」


「うっす!」


 俺とサイトの、息の合った餅つきだ。

 このあたり、サイトは空気を読んで合わせてくるのが上手い。

 フィジカルエリートなのだ。


 で、もちをついているとちびっこがワーッと集まってくる。

 動き的にも気になるアトラクションだし、そこで誕生するのは美味しい美味しいおもちなのだ。


 俺が「ツアーッ」っともちをつくと、小さい人たちが「よいしょー!」と叫んだ。

 誰が教えたんだ……!

 この間うちの親が来てたから、きっと彼らだろう。


 小さい人々の「よいしょー!」を聞きつつ、もちは順調につき上がった。

 そしてやっぱり、納豆もちはちびっこたちに大人気だったのである。


 大人たちは、おからや冷奴をつまみにして大いに酒を飲んでいた。

 うーむ、酒の肴もどんどん充実していっているな、我が村は……!!


「それで村長」


「なんだいスーリヤ」


「豆料理についてはどうしましょうね」


「鍋をいくつか用意して行こう。一度に同じ味なら楽だけど、でも大人も子どもも好きなものが食べたいじゃないか」


「そうですね。そのためのちょっとした手間なら、喜んで引き受けますよ」


「ああ。食は我が村の一番の娯楽だからなあ……!」



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