第414話 もち米、実る

 勇者村はまあまあ常夏というか、そんな感じの気候である。

 ということで、冬が必要ないタイプの作物は常に実る。


 土地はたっぷりの肥料を加えて、常に栄養を蓄えさせているから、ガンガン作物を作れる。

 連作」障害など無い。

 というか無くなった。


 勇者村の土地が神気を纏い、通常の土地とは違うものになったというのもあるだろう。

 だが何より、肥溜め管理人による地道な肥料の作成が実ったという方が大きい。


 神がかり的な力で一時的な実りを得ることはできよう。

 だが、それを維持し続けることは日々の努力と、その繰り返ししかない。


 そして、繰り返しは素晴らしい実りをもたらしてくれるのだ。

 このように……。


「もち米の収穫だーっ!!」


 うおおおーっと歓声が上がる。

 今日ばかりは、男も女も無い。

 みんなで収穫だ。


 水を抜かれた田に、村のみんながワーッとやってくる。

 そしてバリバリ稲刈りをするのだ。


 後から続くメンバーが、稲をぐるっとまとめておく。

 よく干す。

 乾季だからすぐ干せる。


 そして米をバリバリ分離して、残った稲は藁として加工に使う……。


「おもちが食べられるねえ。あの不思議な食感と、ショートが言う色々な料理の仕方! 挑戦してみたかったんだよねえ」


 カトリナが楽しげである。

 いやあ、実にあれですな。

 勇者村の仲間たちは、食の冒険に対してとても寛容だ。


 俺が紹介する、一見してゲテモノと取られてもおかしくないようなものでも、パクパクと食べる。

 美味いものは美味い、と評価して、偏見というものを持っていないのだ。

 これはすごい。


 まあ、彼らが一番好きなのは、生まれ故郷で食べていたものだったりはするのだが。


 なので、フックとミーの家族が食べる用にコーリャンは栽培されているし、アキムとスーリヤの家では豆がお気に入り。

 彼らが食事当番になると、それぞれの故郷の趣向が凝らされた料理が出てきて、これがまた美味しくて楽しい。


 もちはこの延長線上で、いわば俺の故郷の料理というわけだ。

 俺の主観上、思い入れのある料理をメインで見ているところがあるが、実は多国籍な様々な料理が勇者村の食卓には上がっているのである。


 なお、ワールディアにアレルギーというものはない。

 地球よりももっと魔法的な世界なので、生理学が全然違うんだな。


 第一、地球だと寿命があらかじめ定まっているなんてのは話にもならないだろう。


「おもち! がんばるよー!!」


 マドカが気勢を上げる。

 稲を千歯扱きにかけて、ちびっこたちが「おりゃー!」と引っ張るのだ。


 勇者村の総力戦である。

 毎月何かの収穫期があるので、毎月総力戦とも言えよう。


 お陰様で、勇者村の食生活は常に豊かだ。

 ちびっこたちもどんどん戦力になっていっている。


 ちょっと上のお兄さんお姉さんの活躍を、赤ちゃんたちがじーっと見つめているのだ。


「あうばー、うばー」


 ダリアが千歯扱きの動きを、エアで真似している。

 すぐにマスターしてしまうかも知れん。


「おーもーちー!」


 バインが叫びながら、米を掃き集めて行く。

 一度だけ食べられたおもちは、ちびっこたちを虜にしたのである。


 すごいパワーでどんどん稲から米を分離しているぞ。


 頼もしい光景に俺は大満足だ。

 これから精米し、そいつをガッツリ蒸してもちを作れる状態まで持っていく必要がある。

 実に手間暇が掛かるのだ。


 ……ということで。

 おもちが食事として出てくるのは、まだまだ先。

 本日はスーリヤを中心とした奥様チームが、豆料理を出してくれるのだった。


 豆のスープと、煮豆が主食。

 味付けは砂漠の王国流だが、勇者村には砂漠を超越した種類の香辛料が存在する。


 こいつをパクパクいただいていると、ちびっこたちがおもちの歌とやらを歌いだした。

 おもちーおもちーはやくたべたーい、みたいな内容だ。


「いつの間に合唱を……! 誰が考えたんだろう」


 俺の疑問はすぐに晴れた。

 ニコニコしながら、カトリナがマドカを指し示すのだ。

 そうだった。


 勇者村一のおもちフリークであるマドカ。

 シーナの名前がおもちになりかけたくらいには、おもちが好きなのだ。


 マドカが考えたおもちの歌は、ちびっこたちの間に瞬く間に広がったらしい。

 主に、千歯こきのお手伝いをしている時に歌っていたとか。


 正しく農作業の歌ではないか。

 こうして文化というのは生まれていくのだ。


 俺が感動しながら豆のスープを食っていたら、ハッとする。


「この豆のスープ、香辛料をちょっと増やしたら、もちを入れてもいけるんじゃないか……? 雑煮の豆スープバージョンだ」


 主役は豆だから、もちが入ることで味がぼやけてしまう可能性もある。

 砂漠の王国の料理と考えると、もちは不純物かも知れない。


 だが、料理とは常にローカライズされるものなのだ。

 やろう、やってみよう。


 今年のもちは、砂漠の王国風豆スープのニュー雑煮でスタートするのだ。


 いや、子どもには甘いもちの方が受けるな。

 甘味も用意しておくか。

 だけど、アキムもスーリヤもあんこは駄目なタイプだしな……!


 俺は豆料理を食いながら、今後のもちの献立について頭をフル回転させるのだった。


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