第413話 おばけヤギはコアリクイの夢を見るか
「もがもが」
「おうアリたろう。どうしたどうした」
「もが」
「何? ガラドンが稽古をつけてもらいたがっている?」
「もがー」
「おお、だがそこまでのレベルではないというわけだな。アリたろうが稽古をつけるので、見ていてくれというわけか。よし!」
午前の仕事を終えた後、アリたろうとガラドンを見に行ったのである。
仕事を終えた仲間たちも、ワイワイと見物にやってくる。
思いの外ギャラリーが多いので、ガラドンは驚いたようだ。
そして、目の前にいるアリたろうに「めええ」と不満げな鳴き声をぶつける。
気持ちは分かる。
俺を指名したのに、目の前には見知った先輩がいるわけだからな。
「めえ、めえめえ」
「もが、もがもが」
「めえー!!」
おお、ガラドンが怒っている怒っている。
この間、外で盗賊どもを蹴散らしてからちょっと自信をつけたものな。
自分が強いのだと気付いたのだ。
彼はまだ若いので、増長するのも仕方ない。
だが、その増長を俺が止めてしまっては意味がないのだ。
圧倒的に強い存在に叩きのめされたのでは、仕方ないなとなってしまうからな。
比較的ポジションが近いと思っている相手にやられてこそ、身の程を知るというものだ。
「まあまあガラドン。アリたろうに勝てないと、俺が稽古をつける段階にはならないぞ。お前は今まで、生来のパワーだけで生きてきた。で、そのパワーをこの間実感したわけだ。だがな、ここに技巧を極めたコアリクイがいる。レベルキャップを超えると種族の差なんぞ大したことが無くなる……。じゃあ、ファイト!」
「めええー!!」
「もがー!!」
構えた二匹が、うわーっと気合を入れる。
そして激突した。
質量では圧倒的にガラドン。
だが、アリたろうはこれを、速度と勢いとパワーで補う。
これによって、体格的に劣るアリたろうが……。
「うおーっ!! コアリクイがガラドンをふっ飛ばした!!」
フックが歓声を上げた。
「めええ!?」
ガラドン、今度こそめちゃくちゃに驚いたな。
空中で慌てて体勢を立て直し、地上に降りる。
自慢のパワーを技巧で上回られた気分はどうだ。
世界には、幾らでも強いやつがいるのだ。
なお、世界の強いやつは勇者村に集結しているが。
あれ?
世界の広さを見るためには、村の外に出なくていいのではないか?
「めええ!!」
「うおお、ガラドンが仕掛けた! 一瞬姿が消えたあーっ!!」
「もが!」
「アリたろうがいなしたぜ! とんでもねえコアリクイがいたもんだ!」
「がらどんー! ありたろー! がんばえー!!」
マドカの声援が送られる。
隣のビンは、難しい顔をしてこの戦いを見つめている。
勇者村四天王第二位として二人の成長は見逃せないのだろう。
今のところ、ひたすら力で攻めるガラドンと、これを技でいなすアリたろうという状況である。
だが、アリたろうの技はそれだけではない。
力を補う術を幾らでも知っているのだ。
アリたろうが、ガラドンの攻撃を捌くこと七回。
ついにガラドンが肩で息をし始めた。
体力の配分が甘めだ。
ここでアリたろうが、ガラドンの頭を真っ向からぶん殴った。
「んめえええっ!?」
頭からつんのめるガラドン。
それどころではなく、地面に頭がめり込んでしまった。
「め……めえええ」
「もが」
ガラドン、降参。
アリたろうの勝ちである。
技で力をいなし、最後は力で粉砕したな。
「ガラドン、分かったか。技だ。お前に必要なのは技だぞ」
「めえー」
力の理論は伝わりやすいな。
ガラドンが完全に理解した。
大一番が終わったと、村の衆はわいわいと感想を言い合っている。
弁当を広げ、やれ小さくても技が勝つだの、力で決めたんだからやっぱりパワーが大事だとか。
こういうのも、村の娯楽だな。
アリたろうによる、ガラドンへの指導が始まった。
技の使い方を教えているな。
角を使って敵の攻撃をいなすやり方だ。
ガラドンくらいの強さになると、角はまず折れないのだ。
折れたとしても、戻せる。
再生能力がある古代種の上位モンスターみたいなもんだ。
だから、角は使い放題というわけだね。
「よーし、お前らと同じくらいの強さで殴るから、受け流してみろ」
「めえ!」
「まおもやるー!」
マドカも!?
「あ、いや、マドカは加減が……」
「つあーっ!!」
「うおーっ、衝撃魔法ツアーッを!!」
「めっ、めえええっ!?」
ガラドン、これを必死になりながら角で受け流す。
おお、いいぞいいぞ。
命がけの訓練だ。
一発で受け流しの技をモノにしたな。
偉い。
「おー! つおい! んじゃあ、またいっくよー!」
「めええ!? めえー!!」
ガラドン、慌てて逃げ出した!
予測不能のやべえ攻撃をしてくる幼女なんか、怖いに決まってるものな。
「あーっ、がらどんにげちゃった!」
追いかけようとしたマドカだったが……。
「マドカ! こっちであそぼ!」
気を利かせたサーラに手を引かれ、「うん! あそぼ!」とその気になるうちの子だった。
二人で手をつないで、炭焼小屋に行ってしまった。
最近は炭焼き体験をするのが流行しているらしい。
マドカがいなくなってしばらくしてから、ガラドンが恐る恐る茂みから顔を出すのである。
な?
世界は広いだろ?
幾らでも怖いやつはいるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます