第412話 隣村の怪物~ガラドンのお散歩

 世界が平和になってから、五年目。

 そろそろ、良からぬ連中が平和に飽いている頃合いであろう。


 国家単位の動きは、俺が直接動いて潰している。

 戦争は俺がかろうじて人である間は起きない。


 だが、小規模な紛争やら賊となるとな……。


 そんなある日の事。

 勇者村に届いたのは、隣の村付近に山賊が現れたという知らせ。

 

 隣の村と言っても、宇宙船村ではない。

 リタとピアがいた孤児院があり、最初は俺の恩人たるブルストとカトリナに辛く当たっていた村だ。

 今ではすっかりフレンドリー。


 なので、山賊が現れて困っているというのなら放ってはおけない。

 俺は片手間で、夕刻すぎにふわーっと隣村を見に行った。


 おっ、でかいヤギ。

 ガラドンだな。

 あいつ、ここまでぶらついているんだな。


 まあハジメーノ王国で敵になる相手はいないだろう。

 なので放任でいい。

 心配なのは、あれをただのヤギだと思って仕掛けるアホがいると……。


 あ、いた。


「ヒャッハー! でけえヤギがいやがるぜー!」


「おかずにしてやるぜー!!」


 明らかに隣村で見たことがなかったような、ガラの悪い連中がガラドンを囲んでいる。

 ガラドン、ふんと鼻を鳴らす。


 あのヤギ、多分相手のレベルが見えているからな。

 俺が見たところ、ガラの悪い連中の平均レベルは11。

 ガラドンが457だな。


 なんというか、大人と子どもどころではない強さの差だ。

 正確には、象VSアリくらいの。


「ヒャッハー! 死ね、ヤギィーっ!!」


 明らかに何かの技を使いつつ、飛びかかった男。

 ゴロツキAとしよう。


『めえ!』


 それを、ガラドンは角で引っ掛けた。

 あ、いかん。

 やり過ぎだ。


「ウッ、ウグワーッ!!」


 あーっ、血煙になってしまった。


 ゴロツキたちの動きが止まる。

 えっ!?という顔だ。


 うむ、理解できまい。

 言うなれば、HPが20くらいの連中に5万くらいのダメージが叩き込まれたようなものだ。

 一撃で文字通り粉々に粉砕されてしまう。


「あーっ、だめだめだめ」


 俺がスーッと降りていった。


『!?』


 ガラドンがびっくりする。

 今、ちょっと血の色に染まった目になっていたところだ。

 悪意を持った相手を粉々にして、自分の強さに自覚的になったのだろう。


 ガラドンはまだまだ若い。

 俺が導いてやらねばな。

 普通の獣みたいな感覚で、弱いものを殺したりしたら大災厄になってしまう。


 というか、新たな魔王が誕生してしまうレベルだ。

 なので、俺は血煙になった男を、


「トキモドール!」


 そいつだけ時間を巻き戻して復活させた。

 ちなみに微細なコントロールができるようになったので、その男の意識だけは殺された瞬間のままキープ。


「よう、ゴロツキくん」


「ヒェッ」


「お前さん、死んだぞ、今」


「ヒィッ」


「お前らも、ガラドンに触れられたら死ぬぞ。こいつ、手加減というものを知らんからな」


「アヒェーッ」


 ゴロツキどもが震え上がった。

 トラウマになったことだろう。

 彼らは物凄い速度で逃げ出した。


 後で聞いたのだが、このゴロツキたちが山賊だったらしい。

 本格的に活動を開始する前に、ガラドンの恐怖にやられて解散してしまったのだとか。


『めえめえ』


「なに、ビンやバインはつっついてもぜんぜん平気だし、アリたろうに至っては軽々と放り投げられる? 自分が強いとは思ってなかった? そりゃあお前、勇者村は魔境だからな。ガラドンとやり合う連中はちょっとしかいないだろ? それに普段はもっと優しく接してるだろうが」


『めえー』


「そうだなあ。お前、悪意に晒されたことほとんど無かったもんなあ。というかいつの間にか強くなったなガラドン」


『め、め』


「アリたろうに稽古つけてもらってるのか! ほうほう」


『めえー』


 ガラドンはこれから、散歩に行くつもりらしい。


「気をつけろよ。今さっき、お前闇落ち仕掛けたんだから気をしっかり持つんだぞ。多分勇者村四天王で、お前が一番ダークサイドに傾きやすいからな」


『めえ!』


 心に刻んだぜ、とガラドンが答えた。

 そして、尻をプリプリ振りながら去っていく。


 俺はガラドンを見送った後、村に帰ったのである。

 色々なことをしながら日々を過ごしていると、山賊の話は全く流れてこなくなった。


 その代わり、あちこちでヤギの姿をした怪物が目撃されるようになったのである。


 曰く、村同士の闘いの最中、巨大なヤギの姿をした怪物が現れた。

 怪物は村人たちを鼻息で吹き飛ばすと、争いのど真ん中をのしのし横断して行った。

 争っていた人々はそれどころではなくなり、村と村は和解した……とか。


 曰く、海上で海賊に襲われた時、ざぶざぶと泳いでやって来たヤギの姿をした怪物。

 それが海賊船にぶつかると、船の方が大きく揺れて転覆寸前になった。

 慌ててヤギに攻撃をしたが、当たっているはずなのに全く効いていない。

 ついには怒ったヤギによって、船を粉々にされてしまったとか。

 

 そんな話がよく流れてくるようになった。

 だが、朝になるとガラドンは村にいるんだよな。


 こいつ、日帰りで世界のあちこちに出張っているのだ。

 きっと、散歩でもしている気分なんだろう。


 俺と目が合ったガラドンは、ちょっとドヤ顔で鼻を鳴らすのだ。

 闇落ちしないように、自分をきちんと保ててるな。


 こうして世界に、新しいガーディアンが生まれたのだ……というお話。


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