第411話 今ビンを鍛える

「どうしたのショート?」


 ビンをじーっと見ていたら、気付かれた。

 うーん、昨夜の未来ビンと比べると、まだまだカワイイお子様である。


「いやな。ビンに話すと未来が変わってしまうだろうし、俺が知った以上は変わったんだろうから言うけどさ」


「うんうん」


「昨夜な」


 ビンに昨夜のちょっとした冒険の話をした。

 劇場版ショートのストーリーである。


 はじめはポカーンとして聞いていたビンだったが、次第に目をキラキラさせ始めた。

 男の子はこういうお話が大好きなんである。


「すごーい!! うちゅうにでたの!? しょーとと、おっきくなったぼくが、うわーってたたかったの!?」


「ああ、そういうことになった。アーキマンもでかくなっててな。ビンと合体してた」


「アーキマン、もうおっきいよ?」


「あ、そうか」


 ビンが呼び出す、念動巨人アーキマンはすでに40mくらいある。

 これを遠隔からコントロールして戦うのがビンだ……と思っていたら、どうやらアーキマンにも意思があり、自らの信念に従って戦うらしい。


 あれ?

 ある意味では今のビン、未来ビンを超えてない?

 どこで未来が枝分かれしたんだろうか。


 不思議だ……。


「それはともかく、念のために今のビンを鍛えておこうと思ってな」


「そうなの? やったー!」


 ビンが大喜びした。

 こういうところは子どもだなあ。

 微笑ましい。


「おとたんどこいくのー! ビンもいくの? まおもいきたいなー」


「マドカも行くのか? メンタルとタイムの部屋でドッカンバトルで訓練だぞ」


「えー! それじゃあまおいかなーい」


 トテトテっと走り去ってしまった。

 マドカは基本的にバトルに全く興味がない。

 割と、女の子らしい遊びが大好きだぞ。おままごととかな。


 おっ、向こうでバインが捕まった。

 サーラにダリアもやって来て、四人でおままごとが始まったではないか。


 バインが助けを求めるようにキョロキョロした。

 三人とも、バインが頭の上がらない女子だからなあ。

 頑張ってくれ、バイン!


「ししょう!! ぼくもいきます!!」


「カールくんもか! よし来い!」


 ということで、こっちは男子チームとなった。

 メンタルとタイムの部屋にやって来て、カールくんにも未来ビンの話をする。


 彼はやはり、ぽかーんと口を開いて話を聞いていた。

 そしてすぐに、「ぼくもそれくらいつよくなります!!」と強い決心を見せたのだ。

 頼もしい!


「今回は、二人がどれくらいやれるようになってるかの確認でもある。ビンはそろそろ、トリマルに勝てそう?」


「どうかなー。トリマル、すっごく強くなってるから」


「あいつ異常に強いもんな。念動力だけだとまあ辛いだろ。なので、ビンには体術を教えよう。体ができてきたら本格的に使えるようになる技術だぞ」


「あい!」


「カールくんは基礎訓練かなー」


「まだぼくはみじゅくですか! やれます!!」


「やれるとは思うんだが、他の天才達と較べてカールくんはじっくりやるタイプだからな。それにまだ子どもだ。だいたいだな、十五歳くらいに一つの完成形になるように計画を立てていくといい」


「ながいです……!!」


「今七歳だっけ。その年で八年後はめちゃくちゃ長いだろうなあ……。だが、俺は妥協しないぞ。無理して体壊したら、一生引きずるからな。魔王がいない平和な時代なのだ。じっくり訓練して強くなろう」


 そういうことになった。


 とりあえず……「ビン、全力で突っ込んでこーい」


「あい!!」


 ビンはアーキマンを召喚する事無く、一瞬で全身に念動力を纏う。

 そして猛烈な速度で飛んで来た。


 視認できるほど濃厚な念動力。なんか金色に輝いていて、このメンタルとタイム部屋の命名元になったアニメそっくりだぜ。

 まさか、本当に体現する奴が出てくるとはなあ。


 しみじみ思いながら、ビンの突進を片手で受け止めた。

 おお、かなりの威力だ。

 これなら、レッサードラゴン程度ならばふっ飛ばされるだろう。


 だが、エルダードラゴンクラスには通用しないな。

 時間を掛けて念動力を練り、アーキマンとして実体化させないと、ビンの火力はまだまだ低い。


「あうあー」


 受け止められて、クラクラになったビン。

 へろへろーっと地面に降りて、ぺたんと尻もちをついた。


「つうじなかったー」


「いやいや、悪くはない。だが、アーキマンにしないと強くないのではまだまだよろしくないな。アーキマンは時間が掛かりすぎる。常時、一瞬でアーキマンレベルの念動力を練り上げて実体化できるくらいに鍛えていこう。そうすると未来ビンを超えられるだろ」


「あい!」


「ししょう! つぎはぼくです!!」


「よし来いカールくん!」


 次は直弟子たるカールくん相手だ。

 本当は分身を出してビンの相手もしてあげたいところだが、アソートの件以降、分身はあまり使わないことにしているのだ。

 それに気のせいか、分身を出せる時間が縮んだ。


 俺の魂の幾らかが分離してあっちにいったせいかもしれない。

 ところで、俺はこうして上の空でも状況を正確に把握することができる。


 カールくんは強くなっているが、じわじわとだな。

 レベルキャップまではもうまだ遠かろう。

 ……そうだ。


 カールくんをガッツリ強くして、ビンの相棒ができるようにするのだ。

 そうすることで、未来ビンみたいに一人で戦う事にはならなくなるだろう。


 間違いなく、未来にはオーバーロード艦隊が攻めてくる。

 戦力を育て、俺が何もしなくても艦隊を壊滅できるようにしておかねばな。


「うわーっ、ししょうがよそみしてるのに、ぜんぜんまほうがあたらないよう!」


「ショートはつよいよねえ!」


 弟子のちびっこたちが、わあわあ言いながら俺を攻撃し続けるのである。

 うむうむ。

 もっと強くなるんだぞ。


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