第410話 未来ビンの来訪

 ぐうぐうと俺は寝ていたのだが、俺の結界みたいなものになんか引っかかったのである。

 つまり、俺が警戒する必要があるレベルの相手が侵入してきたというわけだ。


「なんだなんだ。誰が入ってきたんだ」


 俺は起き上がるが、これは油断できないぞと気を引き締める。

 シュンッを使って瞬間移動した。


 反応がある場所に降り立つ。

 そこには、穏やかな雰囲気の青年がいた。


 彼からは、その佇まいからだけでも凄まじい力を感じるな。

 ただ、彼の纏う雰囲気には禍々しいものは感じない。

 ぶっちゃけ、強さだけなら並の魔王など相手にならない次元だろうが。


「誰だ? 何の用だ?」


「ショートさん! ああ、本当にショートさんだ!」


 だが、彼は俺の話なんか聞いちゃいなかった。


「良かった! これでなんとかなる! 未来を救えるぞ!」


「未来を? ……ということは、もしかしてお前……」


 じーっと青年を見る。

 顔立ちは、どこかしら……フックとミーの面影を宿しているではないか。


「ビンか。タイムスリップして来たな?」


「そう、その通りだよショートさん!! 凄いな、一発で分かっちゃうんだ……。やっぱショートさんは凄いな。ここで対面してても、ビリビリくるもん。ちょっとありえないくらい強い。あの頃の僕はわからなかったんだな」


「うむうむ、日々是修行だからな。俺は日毎にどんどん強くなっているのだ。で、そっちの時代の俺はどうした? もしかしてもう神様になっちゃった?」


「うん。思ったよりも早く神様になって、そうしたら奴らが来た。オーバーロードの大軍勢だ」


「そんなのいるの。劇場版みたいな話じゃん」


 神様になって執務に集中している間に、とんでもないことになったというわけだろう。

 それに、神様は色々勝手が違うようだしな。

 俺はひょっとすると、星の外に出て活動している可能性すらある。


「よし、そのオーバーロードの軍勢をやっつければいいんだな? 手伝おう」


「話が早いなあ……!! 僕は必死に修行して過去に来る力を手に入れたけど……」


「未来からビンが来たなら、その時代がどこにあるのか、大体座標が知れた。今未来へ向かう魔法を作るからちょっと待ってろ……よし、できた」


「もう!?」


「俺の中には膨大な数の魔法がある。これを組み合わせ、化学変化を起こすことで新しい魔法を生み出すんだ。よし、いけるぞ。案内してくれ」


「ああ!」


 ということで、俺は未来のビンとともにタイムスリップした。

 そこはおそらく、十五年くらい後の未来。


 惑星ワールディアを眼下に望む宇宙空間だ。

 そしてワールディアを囲むように、宇宙船団……いや、宇宙戦艦の艦隊が存在していた。

 こりゃあ、ビン一人じゃ分が悪いな。


 恐らくこの時代、何かがあって、ビン以外の戦力がワールディアに存在しない。

 何かの選択肢を誤った時代だな。


「アーキマン!」


 ビンが叫ぶ。

 すると、彼の背後に白銀と青の巨人が出現した。


「アーキマン、インストール!!」


 おお、ビンがアーキマンと合体した!


「俺も負けないぞ。巨大化魔法ビッグナール(俺命名)!」


 俺も巨大化した。

 これは子どもたちを乗せて遊ぶために用意した魔法なんだが、まさかこんな使い道があるとはなあ。

 とりあえず大きさは……ワールディアに悪影響を与えない程度の大きさだから、まあ300kmくらいでいいか。


 一瞬でアホみたいなでかさになった俺。

 宇宙戦艦たちは、これを見て明らかに動揺した。


 それぞれが主砲から、魔法のビームみたいなのをぶっ放してくる。


「みんなショートさんに集中攻撃してる! 僕に任せて! はあっ!!」


 アーキマンが左右に両手をかざす。

 すると、魔法のビームが一箇所にかき集められ、巨大なボールになった。


「みんな無差別に攻撃されたら、手を付けられないところだったんだ! ショートさんが目立ってくれると助かるよ!」


「なんのなんの」


 ビンはビームボールを艦隊に投げ返した。

 向こうはバリアを貼ったようだが、それごと飲み込み、ビームボールが炸裂した。


 俺も俺で、手加減抜きのバビュンで宇宙艦隊の中に飛び込み……。


「右手五本の指からデッドエンドインフェルノ! 左手五本の指からワールドエンドコキュートス! これをふりまわーす!!」


 ひゅんひゅん回転したら、俺の体に巻き込まれて何十隻か爆発し、指先から伸ばした魔法に触れて、二千隻ばかりが蒸発したり、凍りついて動かなくなった。


「よし、これでもう残り半分を切ったじゃないか。宇宙戦艦なんかに頼りやがって、軟弱者め」


 俺はビームを真っ向から受けつつ、目からぞんざいにビームを放って船団を薙ぎ払う。

 もちろん、そこにあった船団は全部蒸発だ。


 そうこうしていたら、残り三隻くらいになった。


『ば……馬鹿な……!! 我々は同志オーバーロードの依頼でこうして大艦隊で攻め寄せたというのに……。ど、どうしてこんな田舎の惑星に、最上級オーバーロードが存在しているんだ……!!』


「知らんがな」


 俺は逃げる船をデコピンで粉砕した。

 ビンも船を幾つも破壊したようだ。


「ショートさんの戦い方は容赦がないねえ……!」


「手加減が面倒くさいだけだぞ。じゃあこれで一件落着だな? 俺は元の時代に戻るので。さらば!」


「話が早いなあ!」


「あまり未来のことを知ったら楽しみが無くなるだろ。ま、この時代は任せた。勇者村四天王をかき集めて守ってくれよ」


 縮小した俺は、ビンの肩をポンと叩いた。


「ああ、がんばるよ!」


 大きくなったビンも、爽やかな青年だなあ!

 だが、まだまだ強さは俺には及ばない……。

 いや、もしかすると、うちの村のビンはこの時代のビンよりも強くなる可能性もある。


 未来は多分、分岐するのだ。


 俺はこの時代に別れを告げ、元の時代に戻った。


 いやあ……未来で結構時間を使ってしまった。

 一時間は掛かったぞ。


 戻ってきたら、シーナがカッと目を見開いて迎えてくれた。

 マドカより勘が鋭くない? うちの次女。


「なんでもないよ。なんでも。……あ、お腹へったのか! ミルクあげないとなあ……」


 こうして、俺は何事も無かったかのように日常生活に戻るのだった。

 劇場版みたいな話は、たまーにでいいのだ。たまーに、で。


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