第408話 シャルロッテの報告と、喋りだしたバイン
かくして夕方。
シャルロッテとカールくんが帰ってきた。
市郎氏も一緒だった。
「どうだったのどうだったの?」
「村長が知ってるらしいのに、何も教えてくれなかったのよ! 教えてー!」
カトリナがグイグイ行って、ミーがシャルロッテの手を引いて連れて行ってしまった。
本日のお料理担当は、ポチーナとパメラか。
「ちょっと待ちな! 配膳全部おわって、食事の準備が終わるまでオハナシは禁止だよ!」
パメラの怒声が響き渡った。
本気だ!
奥様方は抜け駆けなしということで、シャルロッテを中心にしながらむずむずしている。
男衆は、「ほんとに女は恋バナが好きだなあ」などと呟くブルストに、みんなでウンウン頷いているのだ。
他人が幸福になることはいいことだが、それはそれとして大盛りあがりする程ではないのである。
俺は村長である。
夫婦が増えると人口や、今後の村の将来にも関わる。
気にしないわけにはいかない。
ただまあ、今回の件はどういう内容なのか知ってるもんな。
なので、カトリナたちの反応を楽しむことにしよう。
気楽な感じで、俺は配膳を手伝っていた。
すると、視界の端でマドカがバインともちゃもちゃお喋りしているではないか。
三歳になるバインは、もう体もかなり大きい。
ビンよりでかい。
だが、まだ言葉を話していなかったのだ。
今までは、マドカやサーラがたくさん話しかけていた。
それをバインはずっと聞いていたわけだが……。
「ばいん! しゃべる!」
「なんだって!?」
マドカがバインを指さして、そんな事を言ったのである。
驚く俺。
バインは難しい顔をしながら、姉貴分であるマドカの後ろにたたずんでいる。
「バイン、しゃべって!」
「むっ」
「まおね、よんさいになったので! おねえさんなので! バインにたくさんおしえたげる!」
「むむっ」
ナイティアに会いに行った時、三歳だと言っていたマドカ。
だが、よく考えたら年を超えていたので四歳になっていたのである。
なるほど、大きくなるはずだ……。
マドカはお姉さんとして、バインを導こうとしている……。
「しゃべって!」
ぺちっ。
あっ!
なかなかスパルタ教育なお姉さんだ。
まあ、このぺちりはバインの頑強な肉体には全く痛痒にもならない。
それが分かってての肉体定期コミュニケーションのようだ。
「マドカ! バインしゃべった?」
おお、サーラもやってきた。
ということで、俺とサーラとマドカを前に、バインのお喋りを聞くことになった。
「むー」
バインが唸っている。
緊張しているのではないか。
「バイン、無理をしなくてもいいぞ。喋るのなんていつでもいいのだ」
「だいじょうぶだよ! バインしゃべれるもん! まおがおしえたから!」
「マドカ、ちゃんとおしえてたもんねー」
「うん! バインやれー!」
姉貴分からの愛のムチ!
バインはふんっと鼻息を荒くすると、口を開いた。
「おなか! へった!」
「おおー!」
「おー」
「しゃべったねー!」
俺とマドカとサーラで、拍手をした。
バインが照れて、頭をポリポリ掻く。
そこに、すごい勢いでブルストがやってきた。
「おいおい!! 今、バインが喋ったのか!? おいおいおい! バイン、いつの間に喋れるようになったんだ! うおー、こりゃあ凄いことだぞ! おいパメラ! バインが喋ったぞ!!」
「なんだって!? バインが!?」
シャルロッテの話の途中で、パメラがこっちに突進してきた。
オーガとミノタウロスの夫婦は、バインを囲んで期待の視線を向ける。
バイン、びっくりしている。
こんな必死な両親を見たのは初めてだっただろうからな。
完全に喋らなくなってしまったぞ。
「ブルスト、パメラ、落ち着け……。バインが今、お腹へったと発言したのは確かだ。つまり、もういつでも発語できる準備は整っているのだ。焦らずにいれば、すぐにパパとママって呼んでくれるぞ」
「そ、そうか……!」
「それもそうだね! いやあ、バイン! 偉い! お腹空いたんだろう? たんとご飯をお食べ!」
「ん!」
バインはパメラに抱っこされ、ブルストも一緒に食卓に戻っていった。
シャルロッテの話で、キャーッと盛り上がっていた奥様方だったが、バインが喋ったという話で、その場は微笑ましい空気に包まれた。
めでたいことがダブルであったな。
いいことは、いいことを連れてきたりするものだ。
本日の勇者村の話題は、シャルロッテとバインが持っていったな。
俺はカトリナからシーナを受け取ると、奥さんにお喋りと食事を楽しんでもらうことにした。
「シーナはいつになったら喋り始めるかなー」
「ぷ」
「まだまだ先だよなあ」
話しかけると、うちの次女はくりくりの目を見開いて、じーっと俺を見上げるのだった。
うーん、世界一かわいい。
「シーナもごはんたべたいねー」
マドカが妹を覗き込む。
「そうだなあ。マドカは生まれた時から食いしん坊だったもんなあ」
「えー。まおくいしんぼうじゃないよー?」
「ハハハ、マドカ以上の食いしん坊はなかなかいないぞ」
「そうかなあー」
首を傾げながら、ご飯をむしゃむしゃ食べるマドカ。
どんどん食べる。
小さい体のどこに、こんな入るのかというくらい食べるのだ。
「シーナもマドカくらい食べるようになったら、大変だ! 村で作れる食べ物をたくさん増やさないとな!」
俺の言葉を理解しているのか、シーナはぱちぱちと瞬きしてから、もにゃもにゃと赤ちゃん語で答えたりしたのだった。
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