第406話 奥様方は興味津々
黙って中継するのはよろしくない。
ということで、俺はアリたろうを通じて市郎氏に連絡を取ることにした。
「市郎氏」
「あっ、村長……!? アリたろうくんの頭上に小さい村長の3D映像頭部みたいなのが浮かんでる……」
「わかりやすいだろ」
「ちょっと不気味ですね」
市郎氏がいるのは俺の実家である。
うちの両親が揃っており、シャルロッテにこっちの世界のルールとかを教えているところだ。
二人とも勇者村によく来るので、シャルロッテとカールくんとは顔見知りなのだ。
「君たちの姿にね、勇者村の御婦人がたが興味津々で」
「ははあ……娯楽に飢えてらっしゃる」
「娯楽は色々あるんだけど、目の前で君とシャルロッテの仲の進展を知らされたからね。みんな色々噂をしてキャッキャ言ってる」
「なるほど……。ちょっとシャルロッテに聞いてきます」
おっ、呼び捨て。
もうかなり仲良しになってるじゃないか。
パタパタ足音がして、シャルロッテがやって来た。
「ええっと、つまりどういうことですか村長?」
「君たちが市郎氏の実家でどういうアクションをするのか見たいって」
「あのー、流石にそれはご勘弁を……」
「だよねー」
ということになった。
俺の後ろで見ていた奥様方も、やっぱりね、という雰囲気である。
ダメ元で頼んでみたらしい。
「じゃ、じゃあ、明日の夜にでも報告会をしますから、それでどうですか?」
シャルロッテの提案を聞いて、奥様方うわーっと盛り上がる。
「やった! みんなでお酒飲みながら聞こう!」
今年二十歳になったカトリナさん、日本に行っても堂々とお酒を飲める年齢である。
シャルロッテはカールくんとともに、日本で一泊して来る予定である。
おそらくは市郎氏の実家で夕飯をごちそうになり、そこに泊めてもらうのだとか。
カールくん、初めての異世界外泊で興奮気味だ。
「だ、だいじょうぶでしょうか! あぶないまじゅうとかでてきたら、ぼくがははうえをまもらないと!」
「カールくん、大丈夫。日本に魔獣はいない。一番危険な動物は北海道のヒグマだし、そこは本州の都会だから出て来ない。まれにツキノワグマが出るけど」
「じゃ、じゃあそのツキノワグっていうのがでたら、ぼくがやっつけます!!」
おお、顔を真っ赤にして力むカールくん。
頑張ってほしい。
だけど、ツキノワグマは出て来ないだろうなあ。
こうして、うちの母のお下がりを着るなどして、地球風のファッションに身を包んだシャルロッテ。
俺の子どもの頃のお下がりを着たカールくんと一緒に、市郎氏とタクシーに乗って出掛けていった。
アリたろうは常に一緒にいるので、俺には状況が分かる。
タクシーの運転手は、コアリクイが当然みたいな顔をして乗り込んできたので、大層びっくりしていた。
「車内でうんことかしないですよね?」
「彼はとても賢いですし、人の言葉が分かるから大丈夫です」
市郎氏の言うことをに、運転手氏は首を傾げた。
「中でうんこしないでくれよ……」
「もが」
ちゃんと返事をするアリたろう。
「おお、本当に分かるんですね。アリクイって賢いんだなあ」
アリたろうが特別なだけだからな。
一応、アリたろうも客席のシートベルトを締めた。
「賢いなあ!!」
運転手氏がめちゃくちゃ感心している。
「それに、爪できちんとシートベルト使えるなんて。器用なんですなあ」
彼はきっと、アリクイという存在を誤解したまま生きていくことであろう。
アリたろうが特別頭が良くて、器用なだけだ。
そしてタクシーが走り出すと、カールくんが窓に張り付いた。
「うわー」とか「おおー」とか「ははうえ、あれ! あれ!」とか叫んでいる。
海乃莉の結婚式で一度こっちには来たはずだが、二回目ともなると落ち着いてきて、周りの風景を見る余裕ができたんだろう。
なお、シャルロッテはガチガチに緊張していてそれどころではない。
伯爵の妾になったときは向こうからのアプローチだったんだろうが、今回は自分から決断したことだもんな。
さて、この辺りで彼らの姿を追うのはやめておこう。
護衛でアリたろうをつけたが、必要は無かったな……。
子どもの遠足に、完全武装した一個中隊をつけるようなものだった。
今のアリたろうなら、重戦車を正面から楽勝で粉砕できるからな。
トリマルのキックを一撃なら受け流せるから、戦車砲程度なら爪の曲線を使って悠々受け流せる。
地球にいる限り、地球上最強生物と言って良かろう。
こうして彼らにすべてを任せ、アリたろうの通信を切る俺なのだった。
「ねえねえショート! ちょっとだけ、ちょっとだけ教えて……! どうなったの?」
カトリナが鼻息荒く聞いてくる。
「そこはもう、大人の礼儀として通信を切って彼らに任せたのだ……」
「えっ!? あ、そ、そうだよね……! うんうん、帰ってきてからの報告会が楽しみだなあ!」
一瞬気落ちしたな!?
影から見ていた奥様方も、不発と知ってちょっとテンションダウンだった。
悪いとは思っていても、ゴシップを愛する気持ちは隠せないのである。
「奥さんたち、出歯亀はダメだぞ……?」
「はぁい」
しゅんとした返事が戻ってくるのだった。
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