第404話 西方は熱く燃えている……か?

 カトリナの凄腕世話焼きおばちゃんパワーを見せられたところで、確か彼女は今年で二十歳だったはず……と思い至る。


「ん? どうしたのショート、私のことじーっと見て。惚れ直しちゃった?」


「末恐ろしい……じゃない。常に俺はカトリナの事は大好きなのだ」


「なんか言いかけた事は聞かなかったことにしてあげます。うふふ、嬉しい」


 ちゅっとキスしてくれるカトリナなのだ。


「あっ、おかたんがぶちゅっとした! まおもやる! おとたんこっちきーてー」


「はっはっは、お父さんモテモテで困っちゃうなあ」


「んおー」


 おっと、抱っこしていたシーナがもだもだと暴れた。

 マドカにキスしてもらうのはちょっと待ってもらい、シーナをカトリナに預けねば……。


「あっ、おうちついた! みんなにおはなししてくるねー!」


「あっマドカ!」


 神の鳥が勇者村の上空まで来たので、マドカがぴょーんと飛び降りたのである。

 そして全身から魔力を放ち、これを翼のようにしながら滑空する。

 凄い力押しだ。


 すると、ビンが後を追って飛び出した。

 念動魔法を巧みに行使するビンにとって、落下速度の調整などお手の物。

 すぐさま追いつきマドカをキャッチすると、


「マドカ、あぶないよー」


「ビン! ありがとー!」


 可愛いやり取りである。

 だが、俺はマドカの可愛いキッスをほっぺにもらう機会を失し、ビンが将来のマドカのハートをキャッチできる足る男であることを認識することになった。

 やはり……やはりこの男の器、マドカを預けられる……!


 くっ、悔しくもあり嬉しくもあり……。

 ビンは一応、俺の弟子みたいなものだからな。


 ちびっこ二人は手をつないで空を降りていってしまった。

 ビンは見事に念動魔法を使い、空間そのものを掴んで自在に移動。

 マドカは魔力で世界に干渉し、無理やり落下速度を緩めて。


 総合的な火力では将来的に、マドカがビンを圧倒するだろう。

 だが、ビンはマドカの戦闘スタイルの天敵になりそうな気がする。

 あいつはテクニカルの頂点だからな。


「うーむ!」


「どうしたのショート。まじまじと私を見てー。あ、シーナがおっぱいほしいって」


 カトリナはニコニコしながら、シーナにおっぱいをあげ始めた。

 どこからどう見ても、俺の可愛い奥さんである。

 特別な力を一切持っていない、オーガ族の女の子だ。


 ビンがマドカの隣に立てるのはわかる。

 スーパーパワーの持ち主だからだ。

 だが、カトリナは普通の人なのだ。


 それが神二柱を手玉に取り、仲人になってお見合いさせてしまうとは……。

 世の中は力ばかりではないな。

 俺は新しい真実を知った気がする。


「カトリナ、今日は大変だったろう。細かいことは全部俺がやってやるから、カトリナはおっぱいあげたらゴロゴロしててくれ!」


「えっ、ほんと!? いいの? 今日は楽しいことばかりだったのに、この後まだゴロゴロしていいなんてー! そうだ、のんびりシーナの服を作ろうっと」


 それは趣味なのか、労働なのか。


 ということで、その日の勇者村の夕食は俺が作った。

 すっごい釜飯を作った。


 乾季は日が沈むと涼しくなる。

 昼間は冷たいものを食い、夜は温かいものを食うのだ。


「ショートが作るってのはどういうことだ? 家族で2日くらい旅行してたのが関係してるのか?」


「まあそんなもんだ」


 ブルストの質問に、曖昧に答えておく。

 あんたの娘はすごいやつだぞ……!!


 当のカトリナは、美味しそうに釜飯をパクパク食べていた。

 彼女はもしかすると、新たな国生みの神に縁談を持ちかけ、成立させた存在になるかもしれないのだ。

 いやあ、うちの奥さんもこれで神話級だな。


 そうこう思っていたら、西方で何やらピカピカ光り輝くものがあった。

 なんだなんだ。

 まるで燃え上がっているような……。


「もしかして……?」


 カトリナが意味深な目線を投げてきた。


「いや、カトリナが期待しているメイクラブじゃないだろ。アソートは俺の分身だからな。そこまで手が早くはない。あれはなんか照れて、照れ隠しに火山を大噴火させたんじゃないか」


「さすがショート、詳しいねえ……。あっ、もう噴火が収まったのかな?」


「あれは冷静になったな。だがカトリナ、俺は基本的にシャイで寂しがり屋なところがあるので、一度懐に転がり込んできた相手を手放すことは無いぞ。絶対、アソートはナイティアと距離を詰めることになるだろう……」


「なるほどー。じゃあ今のは、照れてることを気付かれて慌てて噴火を止めたの? かわいいー」


「俺っぽいだろ」


「ショートっぽいねえ」


 カトリナと二人で笑い合っていると、村の仲間たちは首を傾げるばかりだった。

 これは分からない話だよな。


 その後、西方大陸方面は静かだった。

 なんかやらかしたんじゃないのか、アソート。

 今は反省モードだな。


 夜になって、カトリナが「ナイティア様大丈夫かしら」などと心配するので、ちょっと見に行くことにした。

 すると、結界上空からサーチしたら、島の真ん中辺りでアソートと向かい合ってなにか話をしているではないか。


 アソートが神妙な顔をして正座しているが、ナイティアの表情は穏やかなものだ。

 あの唇の動きは……。

 物語を語っているのだな。


 そして、二柱の神を囲むように、この世界に生み出された生物たちが集まっている。

 今まさに、神話の真っ最中ではないか。


 西方大陸は新たに生まれ、そして新しい生命たちも産み落とされた。


 彼らは今、新しい物語をも得ようとしている。

 この光景に、なんとも得した気分になった俺。


 彼らに気付かれぬよう、こっそり戻っていくのだった。


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