第403話 アソート再び

 空の上で弁当を食べ、遊んだりなどした。

 マドカのお昼寝タイムになったので、ナイティアがお話をしてくれた。

 なるほど、夜話の神の寝物語、さすが。


 ふんふんとお話を聞いていたマドカ。

 後半はこっくりこっくりし、お話が終わったらパチパチ拍手をした後、こてんと寝てしまった。


「ナイティア様すごいですよねえ……。私もそのお話スキルが欲しい」


『私のこれは権能ですから。でも、一人でいる間にお話は色々作りましたから、今度まとめてから勇者村に送っておきますね』


「ありがとうございます!」


 カトリナ、ナイティアの協力を取り付けたな。

 勇者村には魔本たちもいるし、ナイティアからのお話ともなれば大喜びすることだろう。


『それでショートさん、西方大陸まではあとどれくらいですか?』


「この速度だと何日かかかるかも知れないな。それではマドカも飽きちゃうし……」


「ショート、なにかパッと移動できちゃう魔法がない?」


「そうだな。これだけの数を一気に移動するとなるとダンガンバビュンだが、今は人数が足りない。じゃあちょっと新しい魔法をこの場で作っちゃうか」


『作る!?』


「俺は魔王大戦で散々新魔法を開発し続けたからな。もう呼吸するように魔法を生み出せる。空気抵抗を防げる障壁を生み出し……土台全体を守りながら、飛行魔法を掛けて加速する……。よし」


 魔力が練り上がった。

 水飴状の魔力がぐにゃりと盛り上がり、神の鳥となっている土台を包み込む。


「命名。ドダイバビュン……!!」


『ダッサ……!?』


 ナイティアが愕然とした。

 ネーミングセンスは最低だが、威力は最高だぞ。


 一瞬、神の鳥がたわんだ。

 そして次の瞬間、加速を開始する。


 時速100kmくらいから、時速2000kmくらいまで。

 当然、空気抵抗もGも発生する。

 だがそれは全て、障壁の魔法が打ち消しているのだ。


 安心安全。

 土台さえ作れば多くの人間を高速で運搬できる魔法の完成だ。


 なお、必要とする魔力の膨大さから俺以外は使用できない。

 似た魔法を人間がやろうと思えば、大規模な魔法儀式を一ヶ月くらいやるハメになるだろう。

 それも速度は半減したものしか生み出せない。


 ああいや、将来的にはビンとマドカが協力すれば完全再現可能だろうな。


 飛翔時間はおおよそ一時間。

 マドカもお昼寝から覚める頃合いだ。


「おー」


「目覚めたかマドカ」


 ドダイバビュンの効果は薄れ、その速度はゆっくりになって行っている。

 カトリナもウトウトしていたところだったが、何かの気配を感じて目覚めたようだ。


「むむっ、ショートが二人いる気がする……」


「鋭い」


 ここは西方大陸を包む巨大結界の前。

 カトリナはなんらかの感覚で、アソートの存在を感じ取ったのだろう。


『とんでもない神格が結界の中にいるのが分かりますよ……。これ、古代神レベルじゃないですか』


 ナイティアがちょっと怯えている。

 古代神というのは、この世界に残った最も古き神三柱のことな。


 ユイーツ神、鍛冶神、海神のことだ。

 俺の分身、そこまでのレベルになっていたかあ。


 ……あれ? では俺は?


「おーい、アソート! おーい!」


 結界をポコポコ叩くと、西方大陸に振動が伝わったらしい。

 遠くから慌てて、紫色の輝きが飛んできた。


『こらーっ!!』


 結界をまるで無いもののように通過して、アソートがやって来た。


『お前、まさか俺とやるつもりか? 戦うつもりか? 俺とお前がやりあえば、星が壊れるような戦いになるぞ!』


「違う違う」


『何が違う! ああ、畜生、カトリナにマドカまで連れてきて! お前、見せびらかしに来たのか!』


「違う違う。話を聞け」


 俺はアソートに向け、落ち着くようジェスチャーをした。

 そして、ナイティアの手を引いて立ち上がらせる。


『なんだ? ……ナイティアか。どうした?』


「これはねー!」


「お? おとたん? ちがうおとたん?」


 カトリナとマドカが飛び込んできたので、アソートが『うっ』と仰け反った。

 シーナが俺の手の中にポンと委ねられる。


「おっとっと」


「ウー」


「シーナ、すまんな、おっぱいが硬いお父さんで」


「ウー」


 仕方ないなーという顔をするシーナ。

 物わかりのいい赤ちゃんである。


 向こうでは、カトリナが今回やって来た理由をアソートに語っている。


「奥さんがほしいんでしょう? そのためには、神様を生み出さなくちゃいけないけれど、それって大変じゃない。それに、自分が生み出したものと自分だと、ちょっとね。だからほら、今は神様がたも大変だっておっしゃってるし、私考えたの!」


『お、おう……』


「ねえナイティア様! ちょうど地元の人たちもいなくなるし、大変だったでしょう! こうね、ここなら新しい民ができるし、彼らを守って神様の力自体も上がると思うの。それにアソートさん、二人ならきっと寂しくないでしょう? つまり私は……」


 カトリナが手を広げた。


「二人のお見合いをセッティングしに来ました!」


『な、なんだってー!!』


『あー』


 アソートが衝撃でガクガク震えた。

 ナイティアが頭を抱えた。


「て言っても、ほら。二人とも神様だし、時間はたくさんあるでしょう? まずは一緒に仕事をしてみたら? アソートさんも一人で悶々としてるよりは、お話する相手がいた方がいいでしょう? ナイティア様は信仰してくれる人が必要だし、それにたくさんお話を知ってるから、その逸話を使って世界を作ってみるとか……」


『な、なるほど……』


 おっ、アソートがカトリナに丸め込まれつつある。

 圧倒的説得力だったからなあ。


 ナイティアとしては、もう行くべき場所がない。


『俺は構わん。お前はどうだナイティア』


『わ、私も別に構いませんけど』


「じゃあ決定ですね!」


 パン、と手を叩くカトリナ。

 パーンっとマドカが元気よく手を叩いた。


「後は若いお二人に任せて、邪魔者は退散しましょうかね……」


「ここで二人に任せちゃうかー」


 俺はうちの奥さんに、大変感心したのであった。


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