第402話 ショート一家と女神の小?旅行

『よく考えたら、私が結婚する前提で話が進んでいるのはどういうこと? 人族の行動はこう、ライフサイクルが早すぎて、あっという間にペースを取られます』


 何やらナイティアがぶつぶつ言っている。


「でもでも、ユイーツ神様が仰ってたんですけど、もう神様もずいぶん減ってるんでしょう? ショートの分身のアソートが新しい神様になったんですし、ナイティア様もちょっと新しい出会いがあった方がきっと楽しくなると思うんです!」


 カトリナが凄い熱を込めて語っている。


『そ、そうかな……』


 ナイティア、押しに弱いタイプだ。

 彼女を連れて、地元の集落にやって来た。


 人口はおおよそ数十人くらい?

 ここから人口再生産は難しいだろうなあ。


 別の人族の共同体と合流するしか無い。


「やあ諸君!」


 俺は勇者の服に早着替えしつつ、集落の人々に声を掛けた。


「おとたんかっこいいー!」


「フフフ」


 マドカに褒められて俺が得意になっていると、集落の人々が皆気付いた。

 表情が驚き一色に染まる。


「そ……そのお姿は、勇者様!?」


「いかにも。お前さんたち、ここから旅立つ予定なんだろ?」


「は、はあ、そうです。そちらにはナイティア様も!?」


『ええ、私です』


 ナイティア、流石に自分の信者たる人々の前では威厳があるな。


「お前たちが後ろめたく思ってる、ナイティアを置いてっていいのかなーという感情に対して、俺は答えを持ってきました」


「答えを!?」


 どよめく集落の人々。


「新しい神が西方大陸で生まれたので、ナイティアはそっちに連れて行って結婚してもらおうかと」


『ちょっとちょっと』


 ナイティアに脇腹を小突かれた。


『決定事項みたいに言わないでください!』


 ナイティアは慌てているが、集落の人々の表情に広がるのは安堵だった。


「ほ……本当ですか、勇者様!」


「良かった……! 新たな神のところに輿入れなさるのか!」


「ナイティア様、どうかお幸せに……!」


 おお、善良な人々ではないか。

 というか、後ろめたさが解消されたので、ホッとしてる顔だな。

 まあ、みんな自分の事で精一杯だもんな。


「じゃあ連れてく。神の守りが無くなるわけだから、お前らもさっさと旅立った方がいい。自分たちの無事を祈っておいてくれ」


 彼らにこう告げて、俺は念動魔法で地面を削り取った。

 これは演出のためだ。

 それに、いちいちうちの家族をアイテムボクースに入れておいたら、家族旅行っぽくなくて味気ないではないか。


「ではさらばだ」


 俺たちが乗る大地を、鳥っぽい形に加工する。

 そして念動魔法で羽ばたかせながら、飛び上がっていくのだ。


「おお……神鳥だ……!」


「勇者様がナイティア様とともに、神鳥に乗って去っていかれる……」


「ありがたや、ありがたや……」


 拝まれている!

 手を合わせて祈る行為はどこでも共通なんだなあ。


 俺たちは見送られつつ、南方の大地を後にするのだった。


「わおー! おそらとんでるねー! ねえねえ、したみていーい?」


「マドカ、危ないからお父さんに掴まってね!」


「あい!」


 マドカが俺の服をぎゅっと掴んで、じーっと下方を流れてく風景を見ている。

 うちの子は高所恐怖症じゃないんだな。


 まあ、落っこちてもなんとかしてしまいそうな気がする。

 マドカ、常に溢れ出るパワーをセーブしながら暮らしてるようなもんだからな。


『凄い勢いで民との別れを済ませてしまいました。この土地の神になってから百余年、このスピード感は初めてです……!』


「そりゃあ初めてだろう。だがこんな感じで、勢いをつけてどうにかしないと、事は動かなかったりするものなのだ」


「経験者は語る、だね!」


「おう。カトリナとの仲も、覚悟を決めて動いたらこんな感じで変化したしなー」


「あぶ」


 おっ、シーナが目覚めた。

 きょろきょろしている。


 マドカは相変わらず、下を流れていく風景に夢中。

 土で作った神の鳥、時速100kmくらいで飛んでるからね。


 あの時の俺の覚悟が無ければ、我が家のちびっこ二人とも出会うことはなかったのだ。

 人生の選択、とっても大事。

 

 びゅーんと西方大陸を目掛けて飛んでいく神の鳥。

 途中で、なんだか見覚えのある子が横に並んできた。


「ショート、マドカ! なにしてるの!」


「ビンじゃないか。どうしたんだ?」


「あのね、おーごんてーこくのおてつだいしてたんだけどね、そらからもんすたーがきたからねー」


『翔ッ』


「おお、アーキマンで撃退してたのか。俺が気付かなかったということは、ほどほどのモンスターだな」


 アーキマンは空中で決めポーズをすると、一瞬で輪郭が薄くなり消滅した。


『……なんですか、今の』


「なんですかって、うちの村のビンが行使するアーキマンだが?」


『いや、アーキマンって一体』


「ビンの念動魔法によって実体化した謎の超人だ」


『謎の超人!? あれ、完全に新しい神格だったんですけれど。あれが私とお見合いする神様なんです?』


「お見合いは俺の分身のアソートとだろう。アーキマンは違うぞ」


 ビンを旅の仲間に加え、神の鳥は大陸を飛び出す。

 海の上をびゅんと飛び、目指すのは新生した西方大陸なのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る