スローライフ五年目

第401話 カトリナ、提案する

「ショート、そろそろアソートさんにちょうどいい人を探したいんだけど」


「まだ諦めてなかったのか!」


「諦めるも何も、季節の切り替わりで忙しかったもの。シーナはちょっとなら預かってもらえるし、ちょっと探しに行こうかなって」


「心当たりは……」


「一昨年、歌を作りに来た女神様がいたでしょ」


「神を仲人するつもりなのか! すげえなあ……」


「だって、私の旦那様はショートだもん」


 なるほど、ぐうの音も出ない正論である。

 アソートも俺なら、あの神様……夜話の神、ナイティアもまた俺が天の岩戸的なところから外に連れてきたのだ。


 どちらも俺が発端になったようなものだからな。

 カトリナがやる気になっているし、彼女を連れて女神に会いに行くか……。


 と思ったら。


「ふぎゃー」


「シーナがお母さんと離れるのは嫌だって」


「じゃあ連れて行っちゃおう」


「カトリナ、豪快になったなあ……」


「おとたんとおかたん、しーなとどっかいくの!? まおもいくよー!」


「家族総出になってしまった!」


 ということで、南国へ行ったのだ。


 具体的には、家族みんなをアイテムボクースに入れてバビュンで飛んだ。

 そして到着。

 アイテムボクースから出てきたマドカは、南国の光景を見て「あーっ!」と叫んだ。


「まおしってるよー! ここね、おとたんとまおできたとこ!」


「よく覚えてたなあ! あの頃、マドカはまだ一歳半とかだっただろうに」


「まお、もうさんさいだもん」


「もう三歳かあ! 大きくなったなあ」


「マドカは大きくなって、すっかりお姉ちゃんだものねえ」


 マドカがニコニコする。

 シーナをメッシュ地のおくるみに入れ、俺が前にぶら下げておく。


 シーナは普段なら、女性に抱っこされることを好む。

 おっぱいの感触が好きらしい。

 俺が抱っこすると、ちょっとムスッとするのだ。


 だが、こうして見知らぬ土地に移動すると、びっくりしてちょっと挙動不審になるので、抱っこしている相手が男か女か気にしている余裕がなくなる。

 今もおくるみの中から、周りをキョロキョロしているな。


「じゃあ、声かけてくるね。ナイティア様~」


 天の岩戸に向かって、カトリナが声をかける。

 反応がない。

 ただの天の岩戸のようだ。


「外に出ているのかな?」


「昼日中だぞ。ナイティアがこんな時間に外で活動するわけがない。あいつ、夜話の神様だからな。つまり、寝る時にカトリナや俺がマドカにお話を聞かせてあげるのを専門にする神様みたいなもんだ」


「じゃあ寝てるんだね。昼夜逆転だ」


「夜の神様だからなあ」


「おねぼうさんなの? おひるねなの?」


「お昼寝だねー」


 マドカが「おー」と感心した。

 そして、トテトテと天の岩戸へ駆け込んでいく。


「こーんにーちわー!! まおでーす! あそびにきましたー!」


 挨拶できて偉い。

 そしてマドカのこんにちは、はただの挨拶ではないのだ。


 絶対にこんにちはするぞ、という意思を込めて放たれた言葉には力が宿る。

 つまり、ぐうぐう寝ていたナイティアは強制的こんにちは状態になったのだ。


『こ……こんにちは……。あら、あなたはいつだかのショートさんの娘さん』


「まおだよ。ううん、マドカです!」


「おおーっ、マドカがちゃんと自分の名前を!!」


「ちゃんと言えるのよね。だけど、いつもはまおって自分のこと言ってるだけだものね」


 そうだったのか……。

 ナイティアは、俺たちが家族揃ってやって来たことに大変びっくりしたようだ。

 そして目を見開いているシーナを見て、顔をほころばせた。


『赤ちゃんが生まれたんですね。かわいい! ……それはそうと、私は寝ている時間なのですが一体全体何だというのですか』


「うふふ、実はですね。ナイティアさん、あなた、生活は充実していますか?」


『な、なんですかいきなり。ええと……充実と言えばそうですけど、人の数は全然減ってしまっていて……』


「やりがいがないとか」


『いえ、そうではないのですが、彼らも数が減りすぎて、ここでは暮らしていけないという話になっていまして。土地を捨てて去っていくところなのです。私は暇になってしまうなと』


「なるほどなるほど」


 ふんふんと頷くカトリナ。


「じゃあ結婚とか興味ある?」


『はい!?』


 うんうん、びっくりするよな。

 いきなり結婚の話をねじ込んできたもんな。

 目を白黒させるナイティアに、カトリナはぐいぐい行く。


「あのね。ちょうど西方大陸で新しい世界を作ろうとしてる神様がいるんだけど、というか分離したショートの分身なんだけど」


『とんでもない神格じゃないですか』


「その人が独り身で」


『えっ、ショートさんの分身が!? いいんですか?』


「いいんです! 興味ある? あるのね?」


『ま、まあ無いと言えば嘘になりますが』


「よしっ」


 カトリナがガッツポーズを決めた。

 第1段階をクリアしたということであろう。

 うちの奥さん、凄いやり手かも知れない。


 人と人をくっつけるのが大好きだもんなあ。

 もちろん無理やりじゃないが、相手の中にある、寂しい気持ちを見抜くのがめちゃくちゃ上手い。


 今回、ナイティアの内心を見透かしたんだろう。

 女神の心中を読むのは凄いよな。


「じゃあ、地元に人に挨拶して、それで一旦うちの村に来ましょ!」


『え、ええ!?』


「地元の人達も、女神様がいるから残ってたんだと思う。あの人達が旅立つのを後押ししてあげる意味でも、ナイティア様が結婚しますって言うのはいいと思うの」


『そ……そうかな? そうかも』


 ナイティアがその気になった!


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