第397話 トリマルの人生……鳥生相談?
「やあやあ村長、いらっしゃい。トリマルも一緒かい? 今日の晩酌は賑やかですなあ」
グーが嬉しそうに目を細めた。
「ちょっとつまみを多めに作ってくるから待っていて下さい。ああ、若い二人は奥で頑張ってますんで、向こうには行かないようにしてもらって」
「若い」
「ホロホロー」
「もがー」
一人と一羽と一匹で、うんうん頷くのだった。
勇者村のベッドは極めて頑丈に作ってあるのだが、やはり頑張ればギシギシ音がするものだ。
ギシギシギシギシ聞きながら、グーが戻るのを待つのだった。
「簡単なおつまみですが」
「いやいや、ありがとう。各家に簡単な台所作っておいて良かったなあ」
それは、グーが育てた野菜を輪切りにし、醤油であえたものだった。
漬物も混じってる。
これを摘みながら、お米で作った酒を飲むのである。
うーむ、うちの父の気持ちが分かってきた気がする。
「もがもが」
アリたろうはすり下ろした野菜をペロペロ舐めている。
トリマルは味付けしてない野菜を丸呑みだな。
「トリマルが悩みがあるらしくてな」
「ほう、トリマルほどの鳥でも悩みが……いや、あるでしょうな。私から見たら、偉大な存在にしか思えない村長にだって悩みはあるでしょう」
「おう。いくらでも悩みはある。だから、種族も年齢も存在の格も関係なく、みんな悩んでいるものだと思ってるんだ」
「至言です。私も若い頃にはそりゃあ悩みはありましたし、魔王大戦では日々いかに生き残るか悩んでいたもんです。だが、世界は平和になった。それに年を食うと、悩みは解決しないまでも少しずつ薄くなるもんです。時間が解決してくれるのですよ」
「グーの言葉も含蓄があるなあ」
「ホロホロ! ホロ!」
「うむうむ、それもそうだよな。トリマルは、いつか悩みが薄れると言うけれど、今自分は色々考えているところで、それがどうにかならないと意味がないと言っている」
「ああ、そうですな。それはその通り。そうやって悩みに突き当たって足掻くことこそが、人生……いや、鳥生……? そんなもんです」
グー、さすがは年の功だ。
オットーが召された今、勇者村最年長はグー。
長老みたいな役割だな。
長老というのは別に優れた知識や経験が無くたっていい。
長く生きてきたことで、人の話を聞いて、それなりに受け止めて、それなりに返す。
こういうのができるようになっている事で、村にとって大切な人材となるのだ。
「ホロホロ」
「どうしたらいいんだ、とトリマルは言っている」
「そこは、親であるショートさんが一緒に考えてやることかも知れませんな。だが、私から言えるのは、トリマルの悩みがどこから来たのかですよ」
「ホロホロ……ホロ」
「ああ、そうだったな。勇者村の人々がお祭りしたり、外の国に行ったりするのをずっと見てて、何かをしたくなったんだったな」
「ふむふむ。ショートさんは何を思われますか」
「うん、俺だったらな……俺なら、トリマルは旅に出るべきじゃないかと思う」
「ホロ!?」
「もが!」
「そうだな、旅にでろ、トリマル。お前は凄まじい力を知力を持っているのに、自分をホロロッホー鳥としての枠に押し込めて生きてきたんだ。普通のホロロッホー鳥は、飛べない家禽だ。だがお前は、風のように走れる。というか種族の限界を超越して飛べる。なんか飛べる。旅に出て世界の広さと、世界の小ささを実感すべきだと俺は思うぞ」
「ホロ……ホロ、ホロホロ」
「ホロロッホー鳥はこっちで管理する。お前はそろそろ、ホロロッホー鳥を卒業し、トリマルという存在になるべきなんだろう。つまり、親離れの時が来たのだ……!」
「ホローっ!!」
ハッとするトリマル。
そしてヨロヨロと俺に歩み寄ると、ひしっと抱きついてきた。
俺もトリマルをハグする。
静かな夜である。
ギシギシ音しか聞こえない。
元気だなあ二人とも!
「ホロホロ! ホロ!」
「そうか! 明日の朝、仲間たちに別れを告げるか! 恐らくトリマルが返ってくる頃、半分くらいのホロロッホー鳥は入れ替わってるだろうな」
「ホロホロ」
そして、トリマルの決断は成った。
俺たち二人と一匹で、彼の判断を寿ぐことにしたのであった。
ホロロッホー鳥も、酒で酔っ払うことがわかった。
翌朝のこと。
マドカが朝起きてすぐに、外にトテトテ駆け出していった。
「といまうー! おとたん! といまういないよー!」
「最近マドカはトリマルをといまうと呼んでるのかあ」
どうやらマドカ、ちょくちょくトリマルを見に行っていたようだ。
種族は違えど、兄と妹みたいなもんだったのかも知れない。
「トリマルはな、旅立ったんだ」
「たびたつ?」
「村のお外に行った。これからいろいろ勉強して、いろんな人に会って、いろいろなことを考えるんだ。トリマルはマドカよりもお兄ちゃんだからな。マドカより一足早く大人になろうとしてるんだよ」
「おー、といまう、おとな! まおはまだまだこどもがいいなー」
マドカ、計算高い!
まあ、自分探しや成長よりも、黙っていればご飯が用意される環境の方が、マドカは大切だということだろう。
ただ、お父さんとしては才能と力のコントロールを学んでほしいなあ!
この辺は今度、ビンに依頼をかけておこう!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます