第396話 雨季の終わりが見えてきた

 勇者村の雨季は、気温的には過ごしやすい。

 蒸すけれど、夜はスーッと涼しくなるのだ。


 乾季も一緒だな。

 昼と夜の過ごしやすさが圧倒的に違う。


 だからだんだん分かってくるのだ。

 そろそろ雨季が終わる。


 湿っているけど過ごしやすい夜が、サッパリした感じに変化しつつある。


「ふく、ぺたぺたないねー」


「マドカも分かったかー」


「あめなくなるねー」


「すごい。カトリナ、マドカは天才だ」


「はいはい。ショートと私の子どもだもん。凄い子なのは仕方ないねー」


 いつものことなので、カトリナが平然と受け流してくる。

 俺は三日に一回くらい、マドカを天才だと騒いでいるからな。


「あんまりマドカを褒めまくると調子に乗っちゃうわよー。子どもをおだて過ぎてもいいことないんだからね? でも、マドカがカワイイのは本当よねー」


「わーい! おかたんだっこ!」


「はいはい。じゃあシーナはお父さんに抱っこしてもらおうねー」


「ウー」


 俺に引き渡されたシーナが呻いた。

 なんだなんだ、その不満そうな声は。


 泣きはしないが、ぶすーっとして俺を見ている。


「すまんな、カトリナみたいに柔らかくなくてな……」


「しーな! おとたんはねー、おっきくなったりとんだりするんだよー! すごいよー!」


「マドカは俺の良さを分かってくれる! シーナもだんだん分かってくるからな」


「ショートのいいところはそれだけじゃないんだけどなー。むふふ、やっぱり私だけにしか分からないかなー」


 娘に対して、なんか俺のことで優越感を覚えているカトリナ!

 うーん、これはこれでかわいい。


 よく、嫁と娘ばかりで男が少ない家はパワーバランスが崩れると言われているが、我が家はそんなことはない……。

 なんか嫁がめちゃくちゃ俺を立ててくれるし、マドカは俺のことを大好きなのだ。

 ああ、マドカを嫁にやりたくない! でも花嫁衣装は見たい!


 複雑なお父さん心……。


「おとたんおかおくるくるしてておもしろいねー」


「お父さんはマドカが大きくなったら、お嫁さんになるのかなーって考えてるのよー」


「およめさん? んー?」


 まだまだ食い気に思考の大部分を支配されているうちの子は、お嫁さんというものにそこまで興味はないか……。

 猶予期間は長いな……!


「ショート、安心してる! じゃあね、私から一つ提案があります」


「なんですかカトリナさん」


「三人目を男の子にすれば……」


「三人目!!」


「シーナがもうちょっと大きくなったらね!」


「よしよし」


 俺のテンションも上がってくるというものである。

 とすると……再来年くらいにまた一人作るくらいのペースで……。


「ほらほら、みんな、明かりに使ってる油がもったいないから、寝よう寝よう!」


「えー! まおもっとあそぶー!」


「だーめ! 寝るの!」


「ぶー」


 カトリナの一言で、そういうことになった。

 我が家の生活ペースは、決定権をカトリナが握っているなあ。


 最初は俺に抱っこされて不満げだったシーナも、既にぷうぷうと寝息を立てて寝ている。

 何があろうが、決まった時間に寝る。

 これがシーナだ。


 夜もだいたい、決まった時間に目覚めて空腹を訴えるぞ。

 フリーダムなマドカとは大きな違いだ。

 赤ちゃんの時だけでも、姉妹で個性は大きく違うのだな。


「じゃあ、私が二人を寝かせるから……って、シーナはもうおねむさんね。マドカよりも全然手が掛からなくて楽な子だよねえ」


「ああ。腹時計がすごく正確だから、行動も予測しやすいしな。それでもしかしてカトリナ、俺を自由にさせてくれる?」


「もちろん。お昼は子守お疲れ様。夜は私がしておくからねー」


「ありがたい! じゃあ行ってくる」


「おとたんおでかけ!? まおも、まおもー!」


「マドカ、お外は暗いし、マドカはもうすぐねむねむーってなるわよー」


「えー、まおねむくないよー! おひるねいっぱいしたもん!」


「お昼寝したあとで、ずーっと遊んでたでしょ。それにお母さん知ってるんだよー。マドカはお布団に乗ると、すぐに寝ちゃうの」


「えーっ!! まおねないよー!!」


「ほんとかな? ほんとー? じゃあ、お母さんが、マドカが寝ちゃわないか試してみようかなー?」


「いいよー!!」


「カトリナがマドカの闘争心を煽った……! 上手いな……! これは布団に入って眠らないかどうかの勝負。マドカには万に一つの勝ち目もない。本当に布団に乗った瞬間寝るからな……!」


 こっそりと外から様子を伺っていると、すぐにマドカのぷうぷうという寝息が聞こえてきた。

 マドカ、敗北……!!

 連戦連敗だな。


 よく食べよく寝るいい子だ。

 窓越しにカトリナのウインクが見えたので、俺も手を振って返した。


 外に出ると、勇者村四天王のうちの二匹が待っていた。


「ホロホロ」


「もがもが」


「トリマル! アリたろう! ビンとガラドンはまだお子様だからな……。いや、ガラドンは大人になってるはずだが、だが夜は寝る主義か」


「ホロホロー」


「もが、もがもが」


 なんかトリマルが、四天王の自覚がないヤギだ、とか言ってて、それをアリたろうがまあまあ、となだめている。


「なんだトリマル、ずいぶん荒れてるな。どうしたどうした」


「ホロ、ホロホロ、ホロホロホロー」


「ふむふむ、ホロロッホー鳥を管理してきたが、村人たちの暮らしを見ていて自分もちょっとエンジョイをしてみたくなったと。確かにトリマルに比べれば、ガラドンは果てしなく自由だからな……。今日はどうやら四天王のお悩み相談になりそうだ」


「もがもが」


「え、アリたろうはなんの不満もない? グーと晩酌するのが今は一番楽しい? ピアの子どもが生まれるのが楽しみで仕方ない? もう孫を待つおじいちゃんの心境じゃん……。ああ、グーとアリたろうでお互いの親代わりってことなの? コアリクイがピアのパパなの?」


「もがー」


「うおー、自己評価たけえ」


 ちょっとアリたろうを見直してしまった。

 勇者村四天王で、精神的には一番大人というか老成しているかも知れない……。

 一体、アリたろうに何があったというんだ。


「え? これからグーと飲むから付き合えって? よしよし、行こうじゃないか。トリマルもな、そっちで人生相談してやるからな」


「ホロホロ~」


 ということで、勇者四天王人生相談にグーの家へ向かうのだった。


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