第395話 海乃莉の相談(のろけ)
「ねえねえ、ショートくん」
「うおーっ、海乃莉! いつの間に……」
「うちから勇者村に繋がってるんだもん。割りと自由に来れるんだよ?」
「異世界と地球の常時接続も、考えてみたら危険じゃないのか」
まあ今更である。
「実はね、ショートくんに折り入って相談が……」
「ははあ、パワースのことだな」
「あっ。ほらー、ショートくん凄く嫌そうな顔するー」
「そんなことはないぞ……。で、どんな相談なのさ」
スススっとカトリナがやって来た。
そしてお茶と一緒にお茶菓子を用意し、当たり前みたいな顔をして俺の隣に座る。
話に加わる気だ!
「なるほど、カトリナさんがいた方が頼もしいかも! あのね。私、来年で卒業なんだけど……ほら、内定はいちおうもらってるんだけど、パワースいわく、卒業したらそろそろ子どもを作ろうって言う話で……」
「な、なんだとーっ!」
俺は衝撃を受けて椅子ごと転がった。
そして後頭部を地面で打って「ウグワーッ!!」転げ回る。
「そっちでは、結構遅く子ども作るんだよね? でも子どもはすっごくパワフルだから、できるならこっちも体力があるうちがいいよ!」
「そっか! そうだよねえ! カトリナさん頼れるなあ」
「伊達に二人育ててないもの」
えっへん、とカトリナ。
ちなみにシーナは、今日はポチーナが担当してくれている。
ショータがあまり手がかからないので、二人一緒に見てても平気なのだそうだ。
「よーし、じゃあ作る方向で」
「なにぃ……!」
俺、衝撃を受けっぱなしである。
パワースめえ……。
しかしあいつは正当な手段で海乃莉と結婚したので仕方ない。
ここで何か言うほど、俺は大人気なくはないのだ。
それにパワース、もう仕事をしててしっかりと収入があるみたいだしな。
なんなら海乃莉もこっちに引っ越してきてもらって構わない。
ふむ、勇者村で暮らしてもらえば俺の目も行き届く……。
色々もやもやーっと考えている間に、女子たちの話は進んでいるのである。
「子どもができたらこっちに来るといいよ! そっちだと子どもができたらお金掛かるでしょ」
「ほんと!? 助かるー!!」
かなり核心に迫ったところに話が進んでいる!!
しかし、海乃莉が一時的にでもこっちに越してくるなら、それはそれだな。
我が勇者村は、みんなが暮らしやすい互助社会となっているのだ。
こっちに来い来い。
向こうの世界みたいな娯楽は無いが、いうなれば自然環境全てが娯楽になる侘び寂びのある世界だぞ。
ワールディアいいとこ、一度はおいで……!
「ショートくんが踊ってる」
「いつものことだよー。自分の中で何かが完結したんだと思う。最近はマドカも真似してへんてこな踊りを一人で踊ってるんだよね」
「あー! マドカちゃん、ショートくんにそっくりだもんねえ! 子どもの頃のショートくんもあんな感じだったんだよ!」
「えっ! 子どものショートの話、聞きたい!」
「あのね、ショートくんはねえ……」
「ノーノー! やめるんだ! やめるんだ海乃莉ーっ!」
「えーっ、おとたんがこどもだったのー! まおもききたーい!!」
「いかん、マドカまで来た!」
トテトテ走ってきたマドカは、ぴょんとジャンプするとカトリナの膝の上に収まった。
素晴らしい跳躍力だ。
この間魔法に目覚めてから、身体能力もめちゃくちゃに向上して行っているんだよな。
このままでは、マドカが世界一強くなってしまう……。
頼むぞ、ビン。
マドカのストッパーになれるのはお前しかいない。
それはそうと、海乃莉が俺の子どもの頃の話をするのが聞いてられないので、俺はさっさと逃げるのである。
具体的には、地球側の実家に逃げた。
体を魔力を抑える結界に包んで……。
「あっ、ショート」
いきなりパワースがいた。
「パワース、お前、海乃莉ともう子どもを作る気か! ちょっとこっちの社会通念的には早すぎるんじゃないですかねえ……」
「俺はワールディアの人間だ。そして色々遊び歩いたおかげで、それなりの年になってしまった。俺は一人前の父親になりたいんだ。海乃莉とも話し合っているんだぞ」
「ぐぬぬぬぬっ、俺の言うことは俺のワガママでしかない……! くうーっ、己の無力さを思い知るぜ」
「無力なことはないだろ。これは俺と海乃莉の問題なだけだ。そうだ、この間、お義母さんから料理を教わってな。せっかくこっちに来たんだから、チャーハンを作ってやろう」
「くそーっ、パワースの施しを受けることになるとは……」
そして、チャーハン。
「あっ、悔しい、美味い」
「たんと食えよ」
お代わりまでしてしまった。
「ところでパワースよ。子どもを産むなら勇者村がおすすめだぞ。たまに事故って祝福されてしまうのが玉に瑕だが」
「祝福されたらこっちでは大騒ぎになっちまうじゃねえか!」
「確かに……。ただ、色々過ごしやすくなっているからな。考えてみてくれ」
「しかし……仕事から帰ったら、海乃莉がいないのは寂しいなあ」
「あのパワースが殊勝なことを」
人は変われば変わるものである。
さて、そろそろ海乃莉の話は終わっているだろう。
「パワース、チャーハンあっちに持っていくからラップ掛けてくれ」
「おう、気に入ったか!」
「悔しいけどな……。そしてマドカに食べさせる」
「はっはっは、俺のやみつきチャーハンにハマっちまうな!」
「マドカは二歳にしてあらゆる美食を楽しんでるからな……。また美食が増えるだけだ。なお、美食じゃなくてもパクパク食べる」
「いい子じゃないか。俺もそんな子が欲しい……」
マドカを褒められて、ちょっといい気分になった俺。
パワースの肩をポンポンたたき、先輩風を吹かせてからワールディアへと戻っていくのであった。
俺、何をしに日本に戻ったんだろうな……?
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