第394話 西方は異常無しとする!
しばらく、西方大陸を観察して過ごした。
アソートの作り上げる世界は、日々変化していく。
大陸を浮上させた後、アソートは九時五時くらいのペースで天地創造を進めて行っているようだった。
サラリーマンか!?
夜は何をしてるんだろうな。
カトリナが寝た後、そーっと見に行ってみようとした。
すると、シーナがカッと目を見開いて、きょろんと俺を見るのだ。
「シーナ起きちゃったか」
「あぷー」
「お父さんと一緒に夜のお散歩する?」
「ぷー」
とりあえずシーナを抱っこして連れ出し、おしめを交換し、出先で飲ませるためのミルクを用意してから旅立った。
シーナくらいちっちゃいと、バビュンをしてても俺の体が発する力場的なもので守れてしまうな。
すごい勢いで空を飛んでいくのを、シーナが目を丸くしながら見ていた。
まだほんの赤ちゃんなので、思考はごくごく単純なものだ。
だが、もりもりと入り込んでくる情報を彼女の脳が処理しているのがよく分かる。
赤ちゃんの頭脳には、こういう凄い量の情報が常に流れ込んでいるのだ。
そして、人としての思考とか人格を身に着けていくのだなあ。
「あおー」
「なんだなんだ。最近よくおしゃべりするようになったなあ」
何かもちゃもちゃと赤ちゃん語を口にしている。
よく分からないのだが、カワイイことは確かなので俺はニコニコである。
「おっと、そんな事をしてたら到着だ。おーい、夜は何してんの」
結界をコンコンノックしたら、しばらくして嫌そうな顔をしたアソートがやって来た。
相変わらず魔神めいた姿をしているなあ。
そしてシーナを見たら、露骨に顔をしかめた。
『お前、俺に見せびらかしに来たのか?』
「様子を見に行こうと思ったら、偶然シーナが起きてたんだ。起きるとなかなか寝なかったりするから、せっかくなんで連れてきた」
「ぷ」
シーナがじーっと結界越しのアソートを見て、不思議そうな顔をした。
『何見てるんだ』
「シーナには、俺と同じ顔に見えてるんじゃないか? 赤ちゃんとしては頭の発達が早い方なのだ。完全に人の顔を覚えているぞ」
『悪い冗談だ。それに夜に何をしていようが俺の勝手だろうが。リア充は去れ! 立ち去れ!』
「ひどい」
だが、アソートが不機嫌そうな素振りを見せても、普段は泣き虫なシーナが全く泣く気配がない。
じーっと、不思議そうにアソートを見ているのだ。
「不思議だなー。お父さんが二人いて不思議だなー」
『おいやめろ。俺はな、こっちで夜は思索にふけることにしてるんだ。どういう種族を誕生させて、どこまでそいつらに任せるかとか考えてるんだ』
「神の花嫁とか作る予定あったりする?」
『何千年も掛かるだろうな』
「気が長い話だなあ……」
だが、こいつはこいつで腰を据えて、世界を一つ作ろうとしているのだ。
立派なものではないか。
俺は尊重しようと思う。
「じゃあそう言うことで、こっちから関わるのはこれが最後だ。じゃあな、別の俺よ。ちなみにお前のことはこっち側で、アナザーショートこと、アソートと呼ぶことにした」
『勝手に呼び名を決めるな。だけど、その名前を受け入れると全く別物になるだろうな。では俺は、アソートと名乗ることにする。じゃあな』
「おう、じゃあな」
「ぷう」
「最後までシーナは泣かなかったなあ」
「ふぎゃ」
「むっ!! この反応は……腹ペコ!」
バビュンで西方大陸から離れつつ、同時進行でミルクを人肌に温めるのだ。
これを与えると、シーナはごくごく飲む。
そんなに腹ペコだったか……。
そして飛行しながら背中をポンポンしたら、シーナがげっぷをした。
よしよし。
さらには高速飛行中にうとうとし始め、ついにはぷうぷうと寝息を立てて寝てしまうシーナ。
大物だ!
そーっと家に戻ったら、カトリナは相変わらず爆睡していた。
シーナが泣き始めない限りは起きないな、これは。
シーナ一回分のおしめ、おっぱい、寝かせつけは終わらせたからな。
今夜は楽勝だろう。
ちなみに、マドカは常に爆睡。
起きることはないのだ。
「んおっ」
おっと、マドカの目がカッと見開かれた。
「んおー、おとたんー? おっぱいのによいする」
「ああ、シーナにミルクあげてたからな」
「んーおかたんじゃない? おとたんあげたー?」
「そうだぞー。ちょっと夜にお出かけしてきたからな」
「んー。まおもおでかけー」
「明日朝ごはん食べたらな」
「んー」
マドカはすぐに寝てしまった。
ミルクの香りに反応したか。
起きたらさっきのお喋りなんかきっと忘れてしまっているだろうが、そのうちアソートが作っている世界をマドカに見せてやるのもいいかもしれないな。
アソートには嫌われそうだが。
さて、俺も寝るかと床につく前に。
頭上の窓から、ちょうど西方に向かっていく空が見えるのだ。
あの向こうで、自我を得た分身が新たな世界を生み出している。
これはこれで楽しみだな。
俺はそのうち神様になってしまうだろうが、そうなった後の楽しみができたと思える。
これからもちょこちょこ、気づかれないように覗きにいってみるとしよう。
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