第387話 移動図書館計画 後編

 移動図書館は有料である。

 そりゃあもう、あのバロソンのことだ。

 無料でサービスを行う訳がない。


 勇者村に貨幣が無いので、布や食料で賄うことになる。

 それらをアイテムボクースに収めて帰るわけだが……。


「バロソン、いつの間にアイテムボックスを手に入れたんだ」


 俺のオリジナル魔法、アイテムボクースとは違う、正しい意味のアイテムボックスだ。

 高価なアイテムのはずだが……。


「ああ、はい。勇者村に貨幣はありませんが、私は個人的に貨幣を貯めてまして、それで取引していた貴族から買い取りました」


「お前、裏で色々暗躍してるのなあ」


「現役時代の勇者様ほどじゃないですよ。どんだけ世界の裏側と通じて、人も魔族も討ち取って陥れて来たか、調べれば色々わかるんですから」


「ああ。正面から戦って勝つのは分かりやすいが、その分、その土地の人間が犠牲になるだろ。ただでさえ、魔王大戦で死ぬほど人間が減ってるんだ。これ以上減ったら、洒落にならないだろ。人口の回復すらできないで、魔王を倒したとしても世界は滅びちまうぜ」


「世界はそんな状況だったんですね……」


「国の数がな、1/3になった。無くなった国の人間は全員、それこそ一人残らず死んでるからな。いやあ、苦労したぞ……。だが、まあこんな話はいいや。アイテムボックス、どれくらい入るんだ?」


「えーと、中級のアイテムボックスを買えたので、大型の家屋いっぱいくらいの容量がありますね。今回回収できる代価は全て収納できるでしょう」


 本を借りた人々が、たくさん物を持ってきた。


「はいはい、並んでください。じゃあ、このアイテムボックスに入れてくださいねー。はいはい、どうも。ありがとうねー」


「ふーむ、あまり代価を高くすると、あれだな。貧しい奴らが本を読めなくなる」


「シェアすればいいんですよ。なんなら、複数人で読み聞かせを聞けばいい」


「ああ、なるほどな!」


 俺はバロソンを見直した。

 ただのお金信者ではなかったのだな。


 子どもでも、貧しい人でも、ちょっとずつ金を出し合えばいける金額だ。

 なかなか絶妙な値付けだな。


「魔本は貸しっぱなしなの?」


「あ、はい。こっちでしばらく魔本はこころの虫干しをしてもらいます。みんな鬱屈としてたんで。で、この後、また図書館で魔本の候補を決めて……期間は一ヶ月くらい」


「で、一ヶ月経ったら回収か。それで魔本のレアさを守るってわけだな」


「ご明察です!」


「本当に商売が上手いやつだな」


「これでも破格のお値段なんで、利益度外視なんですよ。村で使い切れる範囲の資材しかいただきませんし」


「そこら辺りは空気を読んでくれてありがたい」


 帰り際に、鍛冶神がちょいと覗きにやって来た。


『おうい、ショート。もう帰るのか? 神も魔法の本とやらに興味があったのだが』


「村長!」


「村長がいらっしゃった!」


 勇者村の住人たちが、ハハーっとかしこまる。

 村長にする態度ではないが、相手が正真正銘の鍛冶神なんだから仕方ない。

 世界に残った古代神三柱の一柱だからな。


『鍛冶の本などは無いのか?』


「あるだろうが、カードゲームで負けてな。次に期待というやつだ」


『なんと、そうなのか……』


「消去法でいつかは必ず来ると思うから。だけど鍛冶神が人間の編み出した鍛冶の技術に興味があるもんなのか?」


『子の成長が楽しみではないか』


「ああ、そういうー。あまり魔本をいじめるなよ……」


『はっはっは、神にもたまには娯楽が必要なのだ』


 ちょっと盛り上がった後、俺たちは帰ることとなった。


 空っぽの荷馬車は軽すぎるのか、ガラドンが何も引いてないかのように歩いて行く。


「ガラドン、草と野菜はたらふく食ったか」


『めえめえ』


「おお、満足げだ」


「私が用意してもらった野菜を全部食べてしまった……。このヤギ、食欲は無限大か……」


「うちの村、本当によく食うやつが多いからね」


『めえめえ』


「おっ、バロソンに懐いているぞ。たくさんご飯をくれる人だと認識したらしいな」


「う、嬉しくはない……。うわーっ、顔をすりすりしないでくれー!?」


 ガラドンでかいからな。

 怖いよなー。


「ところで村長、アイテムボクースが凄いのは重々存じ上げているんですが、それはつまりどういう構造をしているんですか?」


「おっ、見る? これがアイテムボクースでな」


「うおわっ、空間が開いた!」


「この中は時間が止まっていて、中からは外に出ることはできない」


「えっ怖い」


「ちょっと入ってみ? 入ってみ?」


「うおーっ、お、お、押さないでーっ! ハッ!?」


 バロソンがハッとした瞬間に、既にそこは勇者村の図書館前。

 すっかり日も暮れている頃合いだ。


「やあバロソン、お帰りなさい。移動図書館は上手く行きましたか?」


「あっ、ブレインさん!! はい、はい! 上手く行きましたよ! ……しかしどうして、いつの間にかここに……まさか村長」


「な、時間が止まっただろ。サイトの奴なんかは、俺がずーっと忘れてて一ヶ月くらいこの中いたからな。あいつだけ世界の時間に一ヶ月間いなかったからな」


「恐ろしい……」


「ショート、アイテムボクースは緊急時でも無い限りは人を入れてはいけませんとあれほど」


「そうだったそうだった」


「やっぱりこの村、怖い人ばかりだなあ……!」


 一度はやみつき豆の力で世界を危機に陥れるところだった男が何を言っているのか。

 だが、ひとまず魔本による移動図書館は成功。


 図書館の中では、魔本たちが、次に移動図書館に入るのは誰になるかをわいわいと話し合っている。

 これはしばらく、ここは賑やかなことだろう。 


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