第388話 ダブル結婚式の予兆

「村長! ちょっと話が」


「頼みがあるんだ村長!」


 アムトとフーが同時に俺のところにやって来た。

 畑で、シルカに作業を教えていた矢先である。


「どうしたんですか?」


「ああ、シルカは来たばかりだから知らないよな。この二人が俺のところに来たということは……。つまり、結婚に関することだ」


「まあ!」


 シルカがとても嬉しそうな顔になった。


 アムトとフーがちょっと照れた風になる。


「なんで分かるんだろう」


「村長察しが良すぎだよな」


 分からないわけがない。


「……ということはフー、お前、ピアからオーケーもらったのか」


「ああ! 同意の上で押し倒した!」


「虎だけに肉食系だな……! 嫁さんもまあ肉食系ではありそうだが」


 いつの間に、とは思ったが、若者はこうやってガンガン先に進んでいくものだ。

 そういう機を逃してはならない。


「つまり、二人とも結婚式をやりたいということだな? そしてリタとピアが示し合わせて、二組合同結婚式をやりたいという話をしてきた……! そうだろう!」


「すげえ、何から何まで読まれてる」


「なんで分かるんだよ」


「分からないわけがないだろうが。これまでの流れから考えると絶対にそうなる」


 しかし感慨深い。

 リタもピアも、この村に連れてきたばかりの頃は十歳そこらの子どもだった。

 それがいつの間にか結婚……。


「じゃあもう、すぐ用意するか。俺から村のみんなに呼びかけよう。今日の午後は休みだ。お前ら四人の結婚式のために、村の総力を結集するぞ」


「大事になってきた!!」


 アムトよ、他人の結婚式というのはつまりお祭りだぞ?

 つまり、大事だし騒ぐ大義名分にもなるのだ!


 昼飯の場で、俺はアムトとリタ、フーとピアの結婚の話を告げた。

 集まった村人たちは、ワーッと沸く。


 普段は別で食事をしているニーゲルや、発酵所の面々、ガンロックスにゴーレムたちも呼んであるのだ。


「こりゃあ、あれだな。オットーが作っていた秘蔵の酒を飲み尽くす機会だな」


 ブルストが笑った。

 オットーが最後に作った酒があったのだが、いつ飲もう、いつ飲もうと思って機会を伺っていたらしい。

 こういうハレの場こそが、その酒を消費するに相応しいだろう。俺もそう思う。


「おう、酒が飲めるのか? そいつは素晴らしいな。酒が飲めるのはいつだって最高だ」


 ガンロックスも嬉しそうだ。

 ドワーフは酒が大好きだが、いつもは炭を焼きながら一人で蒸留酒をやってるらしいからな。一人で仕事をするガンロックスは、他人と酒を飲み交わす機械が少ない。

 大勢とワイワイ騒げるまたとないチャンスというわけだ。


「いやあ、息子が結婚を……。嬉しいもんです」


 フーの父である虎人のグーが、目をしばたかせた。

 おいおい、今から涙ぐんでいるんじゃない。


 ここしばらく、ブルストから教えを受けて、酒造りに本格的に加わったグーである。

 自分のことで必死になっていたら、いつの間にか息子が可愛い奥さんを連れてきたんだそうだ。


「なんだか、人生は繋がっていくんだなあと感慨深く思いまして……。昨夜は酒が本当に旨くて、旨くて」


「分かるー」


 うんうんと頷く俺であった。

 実際には、分かる時、俺はムギャオーと暴れそうな気がするが。


 うちは娘が二人だもんな!


「お?」


 俺と目があって、マドカが首を傾げた。

 シーナは最近目が開き始めたのだが、じーっと俺を見ているだけで、まだ何かを訴えかけてくる年齢ではない。


 うーむ、二人とも宇宙一可愛い。


「はいはい! じゃあ! 式の段取りを付けていくわよー! 今回もあたしが司祭として式を取り仕切るから。なにせ、次の代の司祭が結婚するんだものね」


 ヒロイナが言うと、リタがちょっと恥ずかしげ顔を赤くした。

 もじもじしている。


「それじゃあ、式場を作ってやらねえとな。俺の弟子が結婚するんだもんな! どでかいのを作るぜ!」


「ありがとうございます、ししょー!」


 ブルストの宣言に、ピアは大喜びだ。

 こうして、男たちは式場作成、女たちはドレスやら礼服やらの準備に大忙しとなった。


 まさに、勇者村のお祭りである。

 こうなると、みんなの分の飯を作る役割が必要になるわけで……。


「俺がやろう」


「村長が!?」


 俺は進み出て宣言する。


「みんなには結婚式の準備を全力でやってもらう。そして集中してもらうために、飯は俺が担当する! 米の上に肉を載せたパワーライスみたいな感じのをたくさん作るからな!」


 盛り上がる村人たち。

 うちの村の仲間たちは、みんなパワー系だからな。

 メニューは肉丼で決定だ。


『我々も』

『手伝いましょう』

『なんでも』

『申し付けて』

『下さい』


『おまかせください!』


「ゴーレムたちに二等兵!! そうか、お前たちもいたな! よし、じゃあそっちで食材を切ってくれ。大きさはこう。俺が分身すれば全部やれるが、そうやって意識を分散すると料理の味が大味になるからな……!」


 今回は味付けに集中する。

 そしてゴーレムたちが食材を用意し、切り分ける。


 食材のカスなどは二等兵が集めて、肥溜めに持っていく。

 完璧なフォーメーションだ。


「おいしそうなによいがする!」


 マドカと、砂漠のちびっこたちが覗いているぞ……!


「まだ出来上がらないからな。そこで遊んでて待っててね」


「はーい! まお、おなかぺこぺこにしてる!」


「おなかぺこぺこ!」


 マドカとちびっこたちはキャッキャとはしゃいで、厨房近くでおままごとなどを始めるのだった。

 よーし、それではガッツリ、飯を用意して参りますか!


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