第386話 移動図書館計画 前編

 農作業の合間を見て、ちびっこたちの訓練をする。

 さらにそんな合間にちょこちょことやることがあるのだ。


 俺は常に忙しい。

 あまりに忙しいので、世界のパトロールには分身を向かわせている。

 そろそろ戻さないと自我を持って反乱を起こしそうだな。


 いや、なんか戻ってこないから起こしてるかも知れないな。


「村長! ついに例の企画が動き出しました」


「バロソン!」


 やり手である商人の息子、バロソンの登場だ。


「動き出したって、具体的にどうなってるんだ? ブルストに台車を作ってもらったのか?」


「ありていに言えばそうです。勇者村で最も腕のいい大工はあの人以外にいませんから。とりあえず三百冊を収められるようにしましたよ。それから、しばらく食事の野菜を豪華にする約束でガラドンの協力を取り付けました」


「ガラドンはよく買収されるなあ……。まだ二歳だから仕方ないか」


 勇者村四天王の末席にいるヤギがガラドンである。

 パワーだけなら四天王最強ではないか。

 技術が無いが、その分は最近身につけた、地面と衝撃波を操る技で補っている。


 地上にいる限りでは、レッサードラゴンだってあのヤギには勝てないだろう。

 だが、今は移動図書館を引く、餌に釣られたヤギさんでしかない。


『めええ』


 移動図書館を引っ張りながら、ガラドンがやって来た。

 図書館から、魔本たちの歓声が上がっている。


『新たなる読み手たちの元へ!』


『テンション上がってきましたぞぉ!』


『俺を読んでくれえええええ!!』


「落ち着け魔本たち! バロソン、このメンバーの選定はどうやったんだ?」


「簡単なゲームを用意しまして。図書館対抗カードゲーム合戦です」


「凄い事をしたな……」


「彼らが全身全霊の魔力を用いてカードゲーム対決をしまして。読心魔法の魔本が真っ先に袋叩きに遭って潰されまして。カード勝負の飽和攻撃で読心しきれなくなったところを」


「だろうなー」


 それで、選りすぐりの魔本たちが残ったというわけだ。

 選定要素は、運の良さ。

 どうなんだそれは……?


 こうして、バロソンとガラドンとともに宇宙船村へ向かうのだった。

 久々の宇宙船村。

 でかくなっている。


「また拡大したな……。人工の流入が止まらないんだろう」


「産業がありますからね。あの宇宙船とやら、掘っても掘ってもなくなりませんから。希少素材の塊が鉱山としてそびえ立っているようなものですよ。あれが効率よく掘られるようになったら、希少素材は大幅な値崩れを起こし、世界の技術が百年以上進むでしょうね」


「だな。それが分かってるから、鍛冶神は原始的な作業でしか堀削を許してない」


 人が急速に進歩して、いいことなど何もないのだ。

 一時的に豊かになり、そこから社会が複雑化し、だが人は進化しないから複雑化についていけず、社会が不安定化してめちゃくちゃになる……気がする。


 一度時代が加速すると、アホみたいな速さで崩壊に突き進むぞ。

 ということで俺は、この世界の時間の進みはゆっくりやらせる事に決めている。


 この方針はユイーツ神と鍛冶神と海神にも共有してあるのである。


「村長、人が集まってきましたよ」


「珍しいだろうからな。本というのはまだまだ高級品だ。おいそれと読めるようにはならない。うちがおかしいんだ」


「世界的に貴重な魔本を読み放題ですからね……。その代わり、今度は魔本が読まれなくて深刻な読者不足が発生した」


「仕方ない」


 あらかじめ、移動図書館の話はしてあった。

 ワイワイと集まってきた宇宙船村の住人が、図書館の前に列を作った。


 半分くらいは文字を読めないのだが、魔本は読み聞かせをしてくれる。

 識字率関係なく知識を得られるのは素晴らしいよな。


 そしてここからは、魔本と読者のマッチングタイムである。

 バロソンが声を張り上げて、色々司会進行をしている。

 俺は、草をはむガラドンとともにこれを見物だ。


「この光景、図書館っていうかあれだよなあ。お見合い」


『んめええ』


「草を食うの邪魔するなって? まあ、お前はまだ食い気優先だよなあ」


 もりもり食って、でかくなりゆくガラドン。

 そろそろ並の牡牛くらいのでかさだ。

 まだまだ育つ気らしい。


 しかし頭の中はバインと同じくらいだからな。


 そうこうしている間に、三百冊の魔本は読者が決定したようだ。

 あちこちに座り込み、読み聞かせがスタートする。


 絵本の魔本も数冊混じっていたようで、こちらは子どもたち何人もを相手にして読み聞かせをしている。

 宇宙船村、いつの間にか小さい子どもが増えてるな。


 仕事を求めて人が集まってきたが、そいつらが家族を呼び寄せたんだろう。

 そりゃあ大きくなるよな。

 もうこれは、町というレベルの大きさだ。


 こんな田舎にこれだけの規模の町が存在しているというのは、ちょっと凄いな。

 そのうちハジメーノ王国の第二首都みたいになるのかもしれない。


 そうなると……勇者村を文明化から切り離し続けるというのも、限界があるだろう。

 うーむむむむむ。

 どうしたものか……。


 そのうち、ここには大きな学校だって建つに違いない。

 すると、うちからここに留学する子だっているだろう。


「ここの運営に、ちょいちょい口出しして行かねばな……。マドカを健全に育成するためだ……!」


『めえぇ』


 たっぷり草を食べて、満足げなガラドン。

 難しい顔をする俺の横で、彼は気楽に鳴くのだった。


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