第385話 ちびっこ修行

「えー、それではまず、二人の適性を見ます」


「てきせい?」


 アラナとセーナの姉妹が首を傾げた。


「魔法が使えるかどうかってことね」


「まほう!」


「セーナつかえゆよー! えいえい!」


 妹の方のセーナが、なんか俺に向けて手をパチパチさせている。

 そして難しい顔をした。


「ごろんしない」


 どうやら今までは、使用人が忖度してゴロンと転がってくれていたようである。

 俺はビシバシ厳しく行くから、忖度はしないのだ。


「それはまだ強い魔法ではない。強い魔法を教える」


「つよよいまほう!」


「セーナ、つよいまほうだよー」


 うーむ、マドカとあまり変わらないくらいの年頃の子ども。

 可愛いな。

 だが心を鬼にせねばならん。


 この子たちが生き残れるよう、手ほどきをする必要があるのだ。


「二人とも手を出して。おじさんがちょっと触るからな」


「はーい」


「あーい」


 二人の手をプニッとつまむ。

 砂漠の生まれであっても、ちびっこの手というのはぷにぷにしているのである。


「うーん、ちょっぴりずつ魔法の才能があるな。普通の人よりはちょっぴり上なくらい。ついでだからシドルも見ておくか。手を出してー」


「うい」


 末っ子のシドルはマドカよりも年下で、バインよりは年上くらい。

 人見知りしながらも、何故か俺の言うことはよく聞く。


 手を出してきた。


「どーれどれ。ほうほう、悪くない才能がある。肉体的能力は女の子の方に受け継がれ、魔法的な力は男の子に受け継がれたな。ということは、お姉さん二人には身体強化魔法を、シドルには属性系の魔法を教えていこう」


 今後の教育方針が決まった。

 無論、魔法を使うに当たってのモラルも一緒に教えていかねばならない。

 強大な力を得たのに、人間性が幼いままではいかんからな。


「村長、そんな器用に色々やれたんだな」


「そうだぞ」


「俺の時はいきなり魔法をぶつけてきて適当な感じだったけど」


「成長した大人の場合はな。才能を見るのも楽なんだ。現にサイトは魔法を見ることができて、魔法を破壊できるというのが能力だっただろ」


「そりゃそうか」


 それに対して、カールくんはまだ子どもだったので、じっくりと才能を見ることになったのだ。

 彼を育成する過程で、子どもたちに眠る魔法の才能を感じ取れるようになったと言っていい。


「遊びながら練習しよう。ただし、この力は仲良しさんに向かって使ったらだめだぞ」


「どうしてー?」


「どちてー?」


「怪我しちゃうからだ。痛い痛いするの嫌だろ」


「いやー!」


「やーだ!」


 分かってくれたようだ。

 シドルはまだちっちゃいのでよく分かってない。


 彼の教育は、せっかくだからマドカも交えて一緒にやっていこうか。


「魔力の練り方は難しいと思われているが、実はそんなことはない。魔法が使えるぞと信じることと、魔力を持っていることが大事だ。えーと、つまりな。二人とも自分が魔法使えるぞーって思うだろ?」


「つかえるよ!」


「つかうー!」


「よしよし。じゃあ俺の真似して。ツアーッ!」


 俺は手から衝撃波を放った。

 これは初歩的な衝撃魔法、ツアーッ(俺命名)である。

 俺がよく上げる掛け声は、こいつなのだ。


「つあー!」


「ちゃー!」


「いいぞいいぞ。いい掛け声だ。あと、ポーズはこう。お尻を突き出して、おへそのあたりに力込めて。そうそう、それでつあーって」


「つあー!」


 すると、アラナの手から小さな小さな衝撃波が出た。

 近寄ってきた昆虫を弾き飛ばすくらいのレベルだが。


「しゅごー! セーナもすゆ!! ちゃー!」


「よーし、このポーズで、こうやってこうやって」


 すると、セーナの手からはさらにちっちゃな衝撃波が出た。

 近寄ってきた蚊をびっくりさせるくらいのレベルだ。


「シドルも真似してるな」


「やー!」


「いいぞいいぞ。だがシドル。お前は才能があるから、向きはこっち。で、お尻はこうでおへそに力を」


「きゃきゃきゃ」


 くすぐったかったらしい。


「ちびに魔法教えんの、大変そうだよなあ」


「大変だが面白いぞ。先入観がないから、コツを掴めばすぐ使えるようになる。才能は必要になるがな」


「おー! おとたん、まおもやってみるね! つあーっ!」


 マドカが手のひらを空にかざして、自由なポーズをした。

 すると、彼女の全身を魔力が巡る!

 大地が僅かに鳴動し、そこから目に見えるくらい濃厚な白い魔力が湧き上がった。


 これを纏ったマドカは、魔力を体の周囲に巡らせ、ついには額に存在する不可視の角へと集める……。

 放つ!


 一瞬だけ、勇者村と宇宙を繋ぐ光の柱が生まれた。


「できた!」


「すごーい」


「しゅおい!!」


 アラナとセーナが目を丸くしてる。

 シドルは目を輝かせてこれを見て、同じようなポーズをした。


「やー!」


 すると、空に向かってそれなりの大きさの衝撃波が放たれる。


「おお、マドカの見様見真似でコツを掴んだな! これで三人とも、これから魔法を使えるようになる。全部の魔法が今の感覚の応用だ。えーと、つまり、今魔法を使ったみたいな感じで、違う魔法も使う」


「はーい!」


「あーい!」


「あい!」


 三人とも素直になったなあ。

 成功体験を得たからな。

 俺の教えが間違いないと体で理解したのだ。


 ところでマドカだが。

 意図して魔法を使ったのは、今が初めてだろう。


「おとたん、まおまほうつかえたねー」


「おお、凄いぞマドカ! だけど魔法は人に向けたら危ないからなー。すっごく痛い痛いしちゃうからなー」


「おー、きをつけるね!」


 マドカは理性的だから、大丈夫だろう!

 しかし、凄まじい才能が目覚めてしまったな……。


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