第384話 教会に集まれ、ちびっこ軍団

 ある日の朝。

 ちびっこセンターとなった教会は、大賑わいだった。


 週に二度か三度、子どもたちのために開放されるのだ。


「こんにちわー!!」


 マドカが元気に挨拶をした。

 シルカの子どもたちも、日々マドカたちと遊んでいるのですっかり打ち解けている。


「こんにちわー!」「わー!」


 負けないくらい元気なお返事が来たな、よしよし。

 子どもたちは、わちゃわちゃと遊び始める。


 遊具は俺とブルストが用意した、木製のおもちゃだ。

 輪投げだったり、メンコだったり。

 輪投げの輪は棒で押して、倒さないように転がす遊びもできる。


 うーん、昭和だな!


「ショートが考えたおもちゃはガキどもに人気だなあ! 体も動かすし、みんな夢中になるし、こいつはいいや」


「だろうー。二人でコツコツたくさん作った甲斐があったな」


 俺とブルストで並んで、満足満足である。

 メンコのイラストは、絵心のあるフォスやブレイン、フックとミーにお願いしている。


 そうそう、フックもミーも、旅芸人をやってたおかげなのか、実は多芸なのだ。

 あんなに絵がうまいとは思わなかった。


 フックとミーの家に行ったら、屋内は色々なイラストが書かれた家具で溢れてるんだものな。

 よくよく見なければ気づかないくらいのさり気なさだ。


 ちなみにフォスとブレインは学者側の人間だからな。

 物事を記録するときに、文章と絵を使う。

 だから絵が上手いというわけだ。


 俺も絵が上手いぞ。

 勇者としてレベルを上げる中、魔法陣や紋様を描けるようにならねばならなかったからな。

 ぶっちゃけ、釣り以外全て俺はできる。


 釣りだけはたまに一人でやるが、ボウズだ。

 何故だあっ。


「おとたん、おこってる?」


「いや、なんでもない、なんでもないぞー。ちょっとこの間のことを思い出して自分の不甲斐なさにのたうち回っていただけだ」


「むおー?」


「マドカはまだ分からなくてもいいからな」


「うん!」


「まお、あっちでぼうたおししよ!」


「あーい!」


 サーラが呼びに来たので、マドカがトテトテ走って行ってしまった。

 教会の裏庭が砂場になっているので、ここで棒倒しをして遊ぶのだろう。


 砂漠から来たちびっこたちにとって、勇者村の遊びはどれもこれも刺激的らしい。

 目をキラキラ輝かせながら、遊び方を教わっていた。


「あー、本当に連れてきて良かったですよ……。王国では実のところ、私なんかいつ殺されてもおかしくなかったですからね」


 シルカがゆったりしながら、縁起でもないことをつぶやく。


「そんな大変だったのか? あそこはもっと平和なところだと思ってたが」


「平和です。ですけど、それは十人の夫人たちの間ではですよ。私たちに従う従者や貴族たちや商人たちはそうではありませんからね」


「あ、そうか。将来がバトルロワイヤルになることが確定してるから、誰の下につくかが重要なのか」


「ええ、ええ。暗闘みたいなのがちょこちょこ行われているんです。私は妃の中でも一番地位が低いですから、与し易いと見て仕掛けてくる輩がいたりしたのです」


「一番地位が低いなら、一番王位を継ぐ可能性が低いんじゃないか?」


「ええ、はい。だからこそ、私たちの側につく貴族や商人はいないんですよ。そして、私たちの守りも一番薄い。何かあって、私たちを消せたら、それを土産にして他の派閥で出世しようなんてのがいるんです」


「うわあ、最悪だなあそれは」


「ま、私がみんなこの腕っぷしで叩き伏せてるんですけど」


 ぐっと力こぶを作るシルカ。

 彼女、人間としては規格外のパワー持ちなのだ。

 異常な戦力が集う勇者村では目立たないが、50レベル戦士くらいの強さがあるので相当なものである。


「よし、じゃあ砂漠の王国に戻った時用に、三人に英才教育を施そうか」


「いいですね! お願いできます?」


「いいぞいいぞ。まあ、人間としては強い、くらいまではいけると思うが」


 例えば、特別なバックボーンなしで強いのは、カールくんだろう。

 彼は俺の魔法を使いこなせるという、唯一無二の才能を持っている。


 これ、多分なんだが、魔法を使える素質がある状態で、一切他の魔法に触れること無く俺の魔法を使ったからではないのか。

 つまり、シルカの子どもたち、アラナとセーナとシドルの誰かに魔法の才能があれば、俺の魔法を使える子に育つ可能性があるというわけである。


「後は、やっぱりアブカリフの教育方針には問題がある。平和な中に、遠からず戦乱を生み出してしまう可能性があるぞ。今度、新しい王選を考えてやりに行かねばな」


 新しい課題が生まれてしまった。

 いや、産んでしまったと言うべきか。


 真実を知ると、世界の問題みたいなのが次々明らかになるし、知ってしまったらどうにかしたい気持ちが強くなってしまう。

 いやあ、こんなんだからいつまでもいつまでも忙しいままなんだよなあ。


 村は上手いこと、俺なしでも回るようにできたからいいんだけど。


「ししょう! あたらしいでしができるんですか?」


「おお、来たかカールくん」


「はい! むこうであそんでるおんなのこたちですよね。おとこのこはまだちっちゃいですし」


「うむ。色々教える手伝いをしてもらえるか」


「はい! まかせてください!」


 おお、頼もしいな我が一番弟子よ。


「お? なんかやんの? じゃあ俺も手伝うぜ」


「サイトも来たのか」


 サイトは、俺が世界的な陰謀と戦うためにちょっと動いていた時、たまたま見つけた男だ。

 全ての魔法や、魔法的効果を持つ物体に対する抵抗力、そしてそれらを破壊する力を持っている。

 恐らく、俺が召喚されなかったら勇者となっていたであろう男だ。


 今は勇者村でぶらぶらして暮らしている。


「新しい弟子だぞ。いや、まだ小さい女の子だが」


「ガキンチョかよ……! まじで……?」


 マジだぞ。

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