第382話 炭焼小屋から図書館へ

 炭焼小屋へ向かうと、今日もガンロックスが炭を作っていた。

 この辺りは木立になっており、雨季のスコールもあまり入り込んでこない。


 一日中、木々に囲まれて炭を焼いているガンロックス。

 手伝いのゴーレムたち三体もいた。


「おう、村長じゃねえか」


 ドワーフのガンロックスがこちらに気付き、手を上げた。


「よーう。砂漠の王国から一時的に住み着いた人たちがいてな。村の中を案内しているところなんだ。第四王妃のシルカだぞ」


「王妃様かよ! そりゃあまた偉い人が来たもんだ」


 ガンロックスは目を丸くした。

 だが別段、敬意を表するみたいな様子はない。

 ドワーフというのはそういう種族なのだ。


「よろしくお願いしますね。へえ、炭焼……。砂漠では、木を乾かして燃やすんですけど、これだともっと長持ちしそうですね」


「砂漠の王国には炭は無いのか?」


「燃える石があります。それを使ってますね」


「石炭かあ」


 ところ変われば、燃料だってもちろん変わるのだ。

 ガンロックスが興味を示し、シルカと二人で木炭と石炭談義を始めた。


 シルカも石炭に詳しいというわけではないが、平民だった頃は日常的に使っていたそうで、木炭との違いを楽しそうに話しているのだった。


『そう言えば』

『見慣れない小さい人たちが』

『見慣れた小さいひとたちと一緒に図書館に行きましたね』


「あっ、もう炭焼小屋は経由してたのか」


 有能だな、勇者村ちびっこチーム。


「図書館!? 図書館があるんですか、村に!?」


「そう、村に図書館があるんだ」


 しかも、世界最大級の魔本図書館である。

 ここは連れて行っておかねばならないだろうな。


 炭焼小屋のある丘を下っていくと、一見して普通の家屋に見える図書館がある。


「ああ、可愛い図書館なんですね」


 シルカが微笑んだ。


「次の瞬間には、絶対シルカは腰を抜かすぞ」


「ええーそうですかー?」


 図書館の前に立つと、中からは子どもたちのキャアキャア騒ぐ声が聞こえてきた。

 魔本が読み上げをしている声もする。


「お邪魔しまーす……って、ひええええ」


 内部に入り込んだシルカは、へたりこんだ。

 目の前に広がるのは、外観からは想像もできない広大な空間だったからだ。


 作った当初はそうでもなかったんだけどな。

 魔本たちが勝手に空間の拡張を続けているのだ。


 横合いに管理人室があり、そこで賢者ブレインと商人の子バロソンが寝起きしている。

 それ以外は本、本、本である。


 広さだけで言うと、砂漠の王国の宮殿よりも広いかもしれない。

 子どもたちの遊び場になるはずである。

 雨で外遊びが難しくなる雨季なら、なおさらだ。


「ははうえー!」


 既に図書館の中で遊んでいた、王家のちびっこたちが手を振ってきた。

 シルカ、慌てて気を取り直し、手を振り返す。


「驚いただろ」


「驚きましたあ」


 まずは入り口で深呼吸させ、ちょっとずつ図書館内部を案内していく。

 入口部分だけでもかなりの広さだ。


 もともとは、このエントランスが建物の見た目通りの広さ、その奥の蔵書庫もせいぜい見た目の十倍くらいの広さで、そこの一角でブレインたちは寝泊まりしていた。

 だが、魔本たちは世界中から仲間を呼び寄せていたのである。


 世界のあちこちに眠っており、誰にも読まれることがなかった魔本は、仲間の呼びかけに応じて勇者村へ集まってきた。

 そして彼らのために、蔵書スペースは拡張され続けたのだ。


 気づけばこれだ。

 日本で言うと、東京ドームよりも広いだろう。

 そこにびっしりと魔本が収まっている。


 そして時々飛び出してきて、村人やちびっこたちに読み聞かせをしてくれるのだ。

 便利便利。


 俺が通過すると、魔本たちが飛び出してくる。


『うおーっ勇者様ー!』


『新しい知識を授けて下さい勇者様っ!!』


 魔法関係の本は基本的に俺をリスペクトしているらしい。

 こいつらに書いてある内容は、俺が魔王大戦時代に独学で全て超越してしまったからな……。


「何度も言うように、俺の魔法を記したところで使えるようになるやつなんかその時代ごとに世界に一人くらいしかいないぞ」


『それでも構いません! その一人のために新たな知識をっ』


「仕方ないなあ……。知識が定着するまで、かなり長く掛かるんだろ? この間教えた本なんか、まだ一行出来上がってないって」


『勇者様の魔力や、魔法の構造まで焼き付けますからね。早急にやると我々が耐えきれずに燃え尽きてしまいます』


「……ということで、ちょっと待ってくれシルカ。ブレインが図書館の続きは案内するから、終わったら声をかけて」


「は、はい……!」


 彼女をブレインに預け、俺は魔本たちとやり取りをするのである。

 魔法関係の本以外は、そこまで俺にくっついては来ない。


 そしてあまりにもたくさんの魔本が集まってしまったため、読まれづらくなる本が出現して問題になっているのだ。


「勇者様、俺に一案があります」


「バロソン! なんだなんだ」


「移動図書館ですよ。魔本を詰め込んだ馬車を用意して、宇宙船村に移動図書館をしましょう」


「いいな、それ。でもお前の発案だから金を取るんだろ?」


「もちろんです。勇者村は貨幣経済ではないので、物々交換でしょうが」


 それでも、面白いアイデアだ。

 やらせてみることにしよう。


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