第381話 留学生? を村案内

 砂漠の王国第四夫人、シルカとその子どもたちがやって来た。

 シルカは黒髪に浅黒い肌。

 スーリヤに印象が似ているが、もうちょっと体格がいい。


 鋭い目が俺を捉えて、丸くなった。


「まあ! 本当に勇者様が出迎えてくださるなんて! ほら、アラナ! セーナ! シドル! ご挨拶!」


「「「よろしくおねがいしまあす」」」


「おー、よく礼儀の教育が行き届いている。ショートだ。ようこそ、勇者村へ!」


 アラナとセーナは女子で、黒髪に浅黒い肌はシルカそっくり。

 末っ子のシドルはやっぱり黒髪に浅黒い肌で、なかなかのイケメン。

 アブカリフ似だな。


「ようこそー」


「いらっしゃーい!」


「あんないするね」


 ビンとマドカとサーラが、同い年くらいの三人を出迎えた。

 王家のちびっこ三人は、王族以外の子どもが初めてらしい。

 ちょっともじもじしている。


「よーし! じゃあ俺に全部任せて! 王女様と王子様なんだろ? 勇者村見たらびっくりするぜー!」


 おっと、最近急成長が目覚ましいアキム家の次男、ルアブ登場だ。


「こっちだ!」


「こっちだよ、いこう!」


 そして、元伯爵の息子である、俺の直弟子カールくん。

 勇者村ちびっこのリーダー格たる二人が、異国の王女王子をエスコートなのだ。


 自信を持って先導してもらえると、安心するものらしい。

 砂漠のちびっこたちはちょっとだけシルカに目線を投げて、母からの頷きを得ると、笑顔に変わった。


「ははうえ、いってきまーす!」


 きゃあきゃあと歓声をあげて、ちびっこたちが走っていった。

 おうおう、元気だ元気だ。


「じゃあ、シルカは俺が案内しよう。この村にいる中で、王妃に見合う格っていうと俺だからな」


「いえいえそんな! もったいない……。私なんか、もともと平民ですし」


「平民の出なのにどうやって第四王妃になったの?」


「いやあ、実は私、王国の女で一番の力自慢で。勇者様が王国を守りながら、サボテンガーと戦った時があったじゃないですか。私、あの時に家の柱を引っこ抜いて、そいつでミニサボテンガーたちをなぎ倒して国を必死に守ったんです。そうしたら陛下の目に止まって、そのー」


「アブカリフ、何気に勇ましい女性が性癖だな。よし、まずは我が村のもっとも重要な場所に案内しよう」


「あ、それは楽しみです」


 シルカ王妃が屈託のない笑顔になった。

 なるほど、これを見たら男はイチコロだな。


「ここが肥溜めだ」


「まあ! あー、臭い! これは強烈ですねえ!」


 シルカ王妃がめちゃくちゃ嬉しそうだ。

 庶民の生まれだからだろうな。

 砂漠の王国の肥溜めは、カラッカラに乾いていて臭いがしないんだとか。


「湿気も凄いですし、これは肥溜めのやり方もうちとは違いそうですね」


「ああ。ぶっちゃけ参考になることは無いと思うがね」


「いいんです。陛下は私と子どもたちを、権力争いから遠ざけようとしたっていうのが本当でしょうし」


「そうなの?」


「そうなんです。私は平民ですし、普通、子どもたちが臣下に支持されて王位につくことはありませんよ。だけど万に一つというのがあるんです」


「へえ、あるのか……!」


「ええ。そしてそういう王は、生まれを覆して王位を掴むわけですから、とんでもない傑物になるんだそうです。だから、狙われるんですよね」


「そりゃあ心配だ。砂漠の王国も危ないんだな」


「危ないんです」


 肥溜めを前にお喋りをしていたら、ポチーナがショータを抱っこしてやって来た。


「お客様です? ようこそですー」


「お客様というか、しばらく住むからな。新しい仲間だぞ」


「仲間ならなおさら、ようこそですー」


「あぶあー」


 ショータもわしわしと両手を振り回す。

 赤ちゃんの可愛い仕草に、シルカの目尻が下がった。


「やっぱり赤ちゃんは種が違っても可愛いですよねえ」


「だよなー」


 なお、仕事中のニーゲルはちょっと振り返り、会釈するだけだった。

 人見知りする男だからな。

 それに対して、ゴーレムたちは仕事から離れてにこやかに挨拶に来る。


『ははあ砂漠の王国の!』

『王妃様ですかこれはこれは』


「ゴーレムなのにお前らのコミュ力は本当に不思議だよな」


『我々はニーゲルさんの耳であり口であり』

『コミュニケーションの窓口ですからね』


「本来のゴーレムの役割ではない」


 なお、この人見知りニーゲルは、グンジツヨイ帝国出身のおっさんだ。

 戦場から逃げたということで後ろゆびさされ、ハブられて生きていたが、一念発起して村にやって来て、肥溜め管理という厳しい仕事を請け負うことになった。

 カエルの賢者クロロックに師事し、肥溜めに関する知識と技術を体得した彼は勇者村にとって欠かせぬ人物となったわけだ。


 そして、彼の妻であるポチーナは、元カールくんの家のメイドさん。

 犬の獣人である彼女は、身売りされて伯爵家にやって来た。

 家から追い出されたカールくんたちについて来たが、そこでニーゲルと出会ってくっついた。


 今では俺にあやかった名前を持つ、第一子ショータを育てなからハッピーに暮らしている。

 ちなみに、彼女の作る料理は貴族の料理なので、実に美味いのだ。


 後はこの饒舌なゴーレムたち。

 勇者村で、俺の影響を受けて強烈な魔力を帯びた土が彼らを構成している。

 お陰でゴーレムとしては明らかに人間臭く、おかしい。


『この後はどちらへ?』

『炭焼を見に行くのがいいと思いますよ。連絡しておきますね』


「手回しがいい!!」


「炭焼き?」


「おう。勇者村はご覧のとおり、木がたくさんある。油を含んでるからこのまま燃やしてもいい。だが、炭は炭でいい感じのじっくり火力でいけるんだ。雨季は燃やすの大変だから、炭があると助かるんだよ。炭焼小屋は、ガンロックスというドワーフが担当してる。会いに行こう」


 勇者村案内は続くのだ。



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