第379話 語らいの後、砂漠の国へ

 グンジツヨイ上帝と、その奥さんと三人で釣りを楽しんだ。

 これは別に釣れなくてもいいのだ。


 早々に俺は釣り竿を諦め、網で魚を掬うことにした。


「ショート、必死ではないか……?」


「うるさいぞ! 魚が取れるに越したことはないだろうが」


 そんなやり取りをしつつ、グンジツヨイ帝国の今後についての話をしたのだった。

 この国は、この国の人々だけでやっていける。

 なので上帝の計画とか決意とか、そう言うのの話をした。


「平和な時代が長く続くであろう。余はそれをできるだけ長続きさせるのが大切だと思っておる」


「そうだなあ。平和もいつかは終わるが、それが長く続いていたら、争いの時代の後のビジョンも描きやすくなるもんな」


「いつかは終わると、お主も考えているかショート」


「おう。永遠に続く平和なんかあるわけないだろう。絶対に争いが起こる。人ってのはそういうもんだ。だが、平和は長く続けるよう、みんなで努力する必要があるし、争いが起きたら早く収めて平和に戻すよう努力するべきだ」


 そういう世界をグンジツヨイ上帝は望んでいるということだろう。

 そりゃあ、一番大切なことだ。


 ……というような話をした。

 なお、元皇后としては息子氏であるケンサーンが危なっかしくて心配、ということだった。

 真面目一本槍で曲がることを知らないもんな。


 だけど、平和な時の国の運営なんか、恣意的な運用を全然しないタイプの上の方が安定したりしない?

 トラッピアみたいなタイプだと、敵をたくさん作りそうだし平和維持への変更が大変そうだ。


 その点、グンジツヨイ皇帝が規範を敷いた帝国で、その規範をあくまでも遵守することに全力を尽くす新皇帝なら、あまり問題は出ないだろう……と思う。


「まあ、何かあったらコルセンター越しに俺に連絡してくれ」


「頼りにしているわ」


 とのことである。

 そして帝国のお土産である、武器の形の焼き菓子をたくさんもらった。


 勇者村のちびっこたちが喜ぶ顔を想像しつつ、俺はグンジツヨイ帝国を後にするのだった。


 ぶいーんと空を飛んでいく。

 既にバビュンのコントロールは完璧だ。

 周囲への衝撃をゼロにしながら亜光速までの加速と、最高速度からの停止が可能になっている。


 それも、ビンの念動力を見たおかげだな。

 魔法をコントロールするための着想を得た俺は、暇な時にイメトレし、ついに飛翔魔法と高速移動魔法を完全に支配したのである。


 衝撃波を念動魔法で無理やり抑え込んでいるので、これが外れたらその土地が壊滅するくらい凄いことになりそうである。

 なので、一応人里の近くでは思いっきり速度を落とすようにしてはいる……。


 さて、見えてきたぞ。

 砂漠の王国だ。

 俺が飛翔すると、拭いていた砂嵐が真っ二つに切り裂かれていく。


「あっ、いかんいかん。さっきはアポを取ってなくて迷惑を掛けたんだったな。おい、砂漠の王よ」


「!? コルセンターということは、ショート殿か!」


「おう。王国の目の前まで来てる。ちょっと様子を見に来たんで立ち寄るぞ」


「あい分かった。だが、歓待の準備は整っておらぬぞ!」


「構わん構わん。身内で会おう。直接王宮まで行く」


 ということで。

 見えてきた王国の壁を一気に乗り越えて、放物線状に飛翔。


 城に設けられた庭園へと無音で降り立ったのである。

 ちょうど、目の前に砂漠の王アブカリフがいる。


 しばらく見ないうちに、立派なヒゲを蓄えているな。

 若い王だったが、貫禄もかなりついたようだ。


 彼には十人の奥さんがおり、たくさん王子と王女がいるのだ。

 跡継ぎ争いとか心配になるよな。


 第九夫人のミーファとは見知った仲なので、(96話参照だ)彼女も交えて近況についておしゃべりする。


「そうか、世界は今のところ平和か。それは良かった。我が国は強き王を育て、平時の終わりに備え続ければいいだけだな」


 アブカリフはそう言うと、わっはっは、と笑う。

 そろそろ、彼の一番年上の息子が六歳になる頃らしい。


 年齢の近い王子と王女が多いのだ。

 この中から一人だけが王位を継ぐ形になる。

 あまり血なまぐさいことにはならないようにしたいな。


「ショート殿。王族であり、強い権限を有しているからこそ試練を経て生き残ったものだけが支配者足り得るのだ。家柄と血は、同じスタート地点に立つための条件に過ぎない。民を守り導く責任を負うからこそ、強いものでなければならない」


「シビアだなあ、さすがは砂漠の王国だ……!」


「それでも私の子が勝ち残りますけど」


 ミーファ夫人が自信満々に言った。

 彼女は岩の部族という、砂漠に住まう一族の生まれだ。

 部族全員が戦士だという、凄いとこのお嬢さんなのだ。


 そりゃあ子どもも英才教育されるだろう。


「じゃあ、その決定戦がある時はまた呼んでくれ。つつがなく行われるように監督するからさ」


「それはありがたいな! 時にショート殿。王宮に新しくできたサウナを楽しんでいかないかね?」


「サウナ!?」


 蒸気浴というやつである。

 暑い砂漠の王国だが、湿気がないため、日陰は驚くほど涼しい。


 サウナの後に、日陰で冷たい飲み物などを口にするのはさぞ楽しかろう。


「じゃあ楽しんでいっちゃおうかな……!」


「はははは、我がサウナの虜になること請け合いだぞ?」


 アブカリフと肩を並べ、サウナに向かう俺なのだった。


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