第378話 グンジツヨイ帝国訪問

 ぐるりと世界を回って、グンジツヨイ帝国までやって来たぞ。

 帝国の入り口に降り立つと、門番たちがビクッとした。

 そして少しすると、バタバタと駆け寄ってきた。


 未だに毎日訓練してるんだろう。

 動きがキビキビしてるし、体も仕上がってる。


「勇者様!!」


「勇者様が来てくださるとは!」


「今日は何用ですか!」


「遊びに来た」


「ははあ。では今すぐ、皇帝にお伝えして参ります!」


 すぐに馬を用意し、駆け出していった。

 アポイント取らずにいきなり来たからな。

 こっちからもコルセンターで連絡しておこう。


「おーい、グンジツヨイ皇帝ー」


「むっ! ショートか! 突然来訪したな! どうした!」


「様子を見にな。うちの娘の二人目も生まれたし、いい機会だから世界をぐるっと回ってるところだ」


「ははあ。ところで、余はもう皇帝ではないぞ」


「なにっ」


「ハナメデルの下にケンサーンという息子がいるのは知っているだろう」


「おお、あの地味なやつな」


「一国の皇子を地味というやつがあるか。あれが新たなるグンジツヨイ皇帝だ。余は引退し、気楽なものよ」


 ケンサーンが皇帝となり、グンジツヨイ上帝が影にいるそうだ。

 基本的に口出しはしないが、相談されたら応えるくらいのポジションだとか。


「……だが暇になってな」


「そうだろうー。どうだ、釣りにでも行かないか」


「お前とか! わっはっは! お前、釣りが苦手だっただろうが」


「克服したのだ……」


「そうかあ? ……おっ、やっとこちらに兵が到着したな。すぐに余の部屋へ来るよう命じるから、大人しく連れてこられろ」


「おうおう。立場が軽くなったから、言動も軽くなったなあ」


 そういうことで、帝国の城まで運ばれていくことになった俺である。


「街が明るくなったな」


「ええ。軍事は少しずつ控えめにして、他に予算を回していっています。街が豊かになり、国が栄えればそれは強くなっていくことと同じですから」


「いいことだ。周りの国とのやり取りはどうだ? 嫌がらせしてくるアホはいない? 周囲にスパイを放たせてているが」


「ええ、お陰様で、詳しいことは知らないのですが我が国は交渉において常に優位に立てております。ああ、軍の力を誇示するまでもなく、です」


 ここで、俺も兵たちもドッと笑った。

 そして王城に入る。

 普段着で来てしまったからな。


「ちょっと待ってろ」


 俺が指を打ち鳴らすと、姿が勇者時代のものになった。

 伝説のクロースとマント、ブーツである。

 この上から伝説の鎧を纏って魔王軍と最終決戦をしたものだ。


 なお、このクロースだけでも地上に現存する最強の攻撃魔法を防ぐことができる。

 魔将どもはそれよりもずっと強い攻撃をしてくるからな。


「おお……勇者様だ……」


 城の人々が何やら感動しているな。

 クロースを纏うと、俺が抑えている魔力みたいなものが淡く体を包むようになるのだ。

 なので、ちょっと神々しく光って見えるらしい。


 歩いていくと、城内の人々が跪いていく。


「勇者村にいると忘れてしまうが、そう言えば俺は世界を救った大英雄なのだった」


 階段を上がると、謁見の間である。

 俺が姿を見せると、現在の皇帝、ケンサーン一世帝が玉座から立ち上がり、跪いた。


「勇者様! ようこそお越しくださいました!」


「皇帝が頭下げるのどうなの」


「本来、勇者様とは神に並ぶ存在。人の上に立つ存在です。皇帝とはあくまで人の中の、それも一国の頂点に過ぎませぬ。故に、本来であれば玉座は勇者様に……」


「堅苦しいなあ……! グンジツヨイ皇帝はざっくばらんだっただろうが」


「あれは父がおかしいのです!」


 ケンサーンは黒髪の巨漢で、ヒゲを綺麗に刈り込んでいるなかなかの美男子だった。

 ハナメデルの弟なだけはあるな。

 ヒゲを剃ったらかなりの美形だろう。


 だが、ハナメデルと全く異なる堅っ苦しい性格!

 いやまあ、平和な時代だからこそ、決まり事を愚直なまでに遵守するこういう男が必要になるんだろう。


 既に后もいるようだが、きっと俺が知らないうちに結婚していたんだろう。

 大人しそうな女性で、グンジツヨイ皇帝のお后よりは普通っぽいな。

 彼女は俺を見て、なんだか目をきらきら輝かせていた。


 後で聞いたんだが、勇者というのは伝説そのものみたいな存在で、憧れる者も多いらしい。

 そして……。


「ショート、どうだった、新しい皇帝は」


「すげえ頭が硬い男だったな! いかにあんたやお后が常識はずれだったのかが分かった」


「そうかそうか! わはははは! だが、余のような破天荒な皇帝は平和な時代にはいらんのだ。平和とは、安定させ、維持していくことが何よりも難しい。そういう時代には、ケンサーンが合うというものだ」


「それはそうだな。新しい后も普通っぽかったというか、俺のファンだったぞ」


「手を出すなよ? 色々面倒なことになるからな」


「しないよ!? 俺はカトリナラブなんだよ!」


 愛を試さないでいただきたい。

 ともかく、グンジツヨイ帝国も新たな歴史へと足を踏み出しているのだ。

 見守っていきたい。


 ケンサーンは真面目すぎるから、もうちょっと砕けた感じで接して欲しいもんだなあ……。


「ではショートよ。行くとしようか!」


「おう。釣りだな」


「わたくしもご一緒しますわよ!」


「后も!!」


 ということで、ロイヤル二人を連れて、帝国近海の釣りへ出かけることにしたのだった。


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