第377話 たまに宇宙をパトロール

 勇者村も落ち着いてきたし、我が家のシーナもたくさんおっぱいを飲んですくすく育っている。

 なべて世は事も無し。

 こんな時ほど、思わぬところからよくないことがあったりとかするものだ。


「ちょっと宇宙に行ってくる」


「宇宙って空の上ね? いってらっしゃーい。マドカ、シーナ、お父さんちょっとお空にお出かけだって」


「えー! おとたんおそらとぶの? まおもとびたーい!!」


「お空は寒いし、食べるものがないからお腹がすいたら大変だぞー」


 俺がおどかしたら、マドカが両手でほっぺを挟んだ。


「おなかぺこぺこいやー! まおいかなーい!」


 それがいい、それがいい。

 シーナは眠そうな目で、じーっと俺を見ている。

 すぐプイッとそっぽを向いた。


 赤ちゃん仕草である。

 マドカより赤ちゃん的だなあ。


 彼女は既に大物の片鱗を見せ始めており、赤ちゃんベッドに転がっているののお腹をつついたりしても、じーっとこちらを見つめ返してくるだけで一切動じないのだ。


「それはまだシーナがちっちゃいから、分かんないだけだと思うよー? マドカが特別なのよ」


「そうか、そうなのかなあ。マドカが特別だったのかなあ」


 既にその場を離れて、友達と遊びに行っているマドカ。

 確かに赤ちゃんの頃から、食に対する貪欲さは群を抜いていた。

 乳児の頃は食べ物が食べられないので、ずっとむくれていたくらいだ。


「すると、シーナは我が家初の普通の赤ちゃんということになるんだな……。おっぱいたくさん飲んで大きくなるんだぞー」


 シーナのほっぺをぷにぷにした。


「ふえ」


 あ、いかん、泣きそうになった。


「じゃあ行ってくる!」


「はーい、いってらっしゃい!」


 俺が飛び立ったあと、シーナがムギャオーと泣き出したのであった。

 泣き声は本当に元気だなあ。


 愛娘の声をバックに、到着しました宇宙であります。

 久々だなあ。

 半年ぶりくらい?


 運良くこれまで、オーバーロードが侵略してくることは無かったが、いつやって来てもおかしくなかったところだ。

 宇宙は物騒だからな。

 魔王も宇宙から降ってくるし、本来なら神様サイドであるオーバーロードだって侵略にやってくるのだ。


 俺の平穏な日常を守るためにも、たまにパトロールはやっていかねばならない。

 あと数年したら、ビンもこっちに連れてきて仕事の引き継ぎをしたいな。


 惑星ワールディアの周囲を、のんびり回ってみる。

 宇宙空間は真空ではない。

 こっちの世界は、エーテルというものに満たされていて、これで呼吸することができる。


 まあ、俺は呼吸しなくてももう平気なんだが。

 このエーテルの海に、星が浮かんでいるわけだな。

 エーテルはかすかに光を放っているから、宇宙は真っ暗ではない。


 ぼんやりとしたエーテル光に照らされたワールディアは、なかなかキレイである。

 一見して地球っぽいのだが、地形が色々違うわけだな。


 おお、ポリッコーレ共和国があったはずの西方大陸……の跡。

 魔王と魔王狩りが戦ったことで、崩壊した大陸跡に動きありだ。


 具体的には、海底火山の気配がある。

 新しい大陸が生まれるのかもしれない。


 これは静観してもいいかなーと思っていたのだが、見知った神の姿が見えたので降りてみることにした。


「やあ、海神じゃないか。新しい大陸を生み出すところ?」


『ややっ、これはこれは勇者殿。そうですな。魔王大戦が終わったばかりだというのに、人間の傲慢が魔王を引き寄せてさらに多くの命が失われてしまいました。なので、ここに新しい大陸を早急に生み出すつもりなのですわい』


「ほうほう。俺がついていながら、ここの人間どもにバカをさせてしまって済まんかったな」


『仕方ありません。生き物は一度覚えた習いは忘れぬものですから。こやつらは魔王マドレノースに吹き込まれた、正義とやらを信じた結果滅びましたなあ。この思想を共有していない、東方大陸の者たちならば、同じ轍を踏まずに反映してくれると考えておりますぞ』


「なるほど……。おっ、では黄金帝国の連中をちょっと移住させようか」


『ああ、小神から連絡が来ておりましたわい! あやつらですか。いいですなあ。ではちょっと海底火山を活発化させ、一気に沈んだ大陸を隆起させるので……』


「よし、手伝おう」


 俺と海神の共同作業となった。

 ユラユラの魔法を拡大し、大陸一つの範囲を揺らす。

 すると海底火山が刺激されて吹き上がるのだ。


 ここに海神が権能を用いて、大地の隆起を開始させる。


『いやあ懐かしい。ワールディア黎明期の頃、創造神はこうして大陸を作り出しておりました。こうして海神の身に分化した今も、克明に覚えていますぞ』


「ということは、二度目の国生みだな。やっぱりエキサイトするもんなの?」


『しますなー! おっと、ちょっと大波が起こっていますわい。周囲の小神たちに、沿岸への注意を呼びかけるとしましょうかな』


 眼の前では、海底火山が連鎖して噴火を開始している。

 この辺りの地形はまた、大きく変わることだろう。

 何年かすれば、人が住めるくらいの島になる。


 徐々に大地は隆起し、やがて大陸になるわけだ。

 

『これで、後は火山に任せるばかりになりますわい。ご助力感謝ですぞ! お陰で十倍の速度で事が進みました』


「俺がやらなくても十日でできてたんじゃないか」


『そりゃあ、創造神は七日間で世界の雛形を生み出しましたからな』


 こうして海神と別れる。

 さて、パトロールに戻ろうじゃないか。


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