第375話 赤ちゃん社会のバランス変化

 パメラに見守られて、バインとダリアが二人でトコトコ歩いてきた。

 もうダリアもちゃんと歩くな。

 赤ちゃんのうちは頭が大きいから、バランスが怪しいが。


 おっとよろけた。

 パメラの手がスッと伸びて、ダリアを支える。


「てーて」


「そうだねー。手を繋ごうねー」


 パメラとダリアだと物凄い身長差なので、手をつなぐとパメラが身をかがめねばならんな。

 だが、足腰が極めて頑丈なミノタウロスである彼女は、そういうのは特になんともないのだ。


 ダリアが母と手を繋いでいるのを見て、バインがハッとする。


「あぶー!」


 僕はここだよお母ちゃん!! みたいな形相になり、手をブンブン振った。

 笑いながらバインとも手をつなぐパメラ。


 バインが安心した顔になった。

 でっかいが、まだまだ赤ちゃんなのだ。

 そろそろ生まれてから満二年経過するか?


 さて、このちびっこ二人とパメラがやって来た理由だが……。

 実は毎日のように、シーナやギアを見に来ているのだ。


「ちゃー」


 シーナを見たダリアが、笑顔になった。

 ちっちゃいねーみたいな事を口にしてるのかもしれない。


「ぶ!」


 バインがシーナをじーっと見下ろす。


「いらっしゃーい!」


 そこへマドカがトテトテ走って来て出迎えた。

 頭の上がらない姉貴分登場に、バインがビクッとなった。

 ダリアはお姉さんの登場にゆっくり手を振る。


「シーナねー、ずーっとねてるよー。いっぱいねるとねー、おっぱいのむとねー。おっきくなるの」


「おー」


「おー!」


 ダリアとバインが、マドカお姉さんの解説を聞いてふむふむとうなずいた。

 バインは分かっているかも知れないが、ダリアはまだまだ分かるまい。


「うー?」


 バインがシーナを指さして何か言った。


「ちっちゃねー。まおもね、んとねー、あかちゃだったからねー、えとねー、ちっちゃかった。いまはおっきよー」


「おー!!」


 バインは一々マドカの言うことに感嘆していて面白いな。


「マドカ、本当によく喋るようになったねえ」


 パメラが目を細めている。


「そうだろうそうだろう。俺がよく話しかけてるからな」


 ちなみに俺もずーっとここにいた。

 ちびっこたちの会話には、あまり加わらず、話の内容を聞くことにしているのだ。

 面白いもんだぞ。


 勇者村のちびっこたちは、周囲の大人たち全員が親みたいなものなので、安心してのびのび育っている。

 愛情の確認なんかしなくても、みんなからたっぷり愛情を注がれているのが分かっているからな。


「ダリアは、すっかりお姉さんポジションになってしまったな。ショータどころか、シーナとギアまで下にできたからな」


「ぷ?」


 自分が呼ばれたことに気付いて、ダリアがじーっとこっちを見た。

 相変わらず目力が強い。


 ただ、この一歳児、本能的に自分が新たなちびたちのお姉さんである……ということをわかっている気がする。

 赤ちゃんたちに積極的に絡もうというのが、その意識の表れではないだろうか。

 バインは単純に、マドカの弟分だな。


「あかちゃんみせて!」


 サーラ登場である。

 さらなる姉貴分があらわれたということで、バインが両手を天に掲げて歓迎の意を表す。

 まだまだ言葉は喋らないが、肉体言語が豊富なバインである。


「バインげんきだねー!」


 トテトテ駆け寄ってきたサーラが、バインのほっぺをむぎゅむぎゅした。


「うまー!」


 バインの元気な返事が響き渡る。

 シーナがビクッとした。

 そしてふにゃふにゃと表情が崩れ、泣き始める。


 おお、赤ちゃんっぽい!


 ダリアが目を見開いてシーナを見ている。

 バインがあーと口を開けて固まった。


 そこへ、カトリナがやって来てシーナを抱き上げた。


「びっくりしちゃったんだねー。気にしなくていいよ。赤ちゃんは泣くのお仕事なんだもの」


「あおー」


 バインは分かってるのか分かってないのか、口を開けたままこくこくうなずいた。

 こいつは分かってる顔をしてるな。

 俺は、バインは結構頭がいいと睨んでいるぞ。


 こうしてちびっこたちは、しばらくシーナを囲んでわいわいした後、ビンのところのギアを見に移動していった。

 マドカも行ってしまった。


「あの年頃だと、自分たちよりもずっとちっちゃい赤ちゃんが出現したというのはなかなか衝撃的なイベントなんだろうな」


「そうだねえ。私はね、マドカがちゃんとお姉ちゃんをやろうとしているのが安心したなーって思ってる」


「ああ、全然駄々をこねたりしないよな」


「シーナが生まれても、ショートはマドカをかわいがってるでしょ? お義母さんも来るし。私は兄弟も姉妹もいなかったから、下にもう一人できてたらどうだったのかなあって考えることはあったけど……。マドカを見てたら、私だったらあんなにお姉ちゃんしようとできなかったかもなって思っちゃう」


「マドカはあれだな。美味しいものさえあれば無限に心が広くなるタイプだからな」


「ちゃんといいお姉ちゃんやってくれるかな? マドカにそういうのをお願いするの、私たちのわがままにならないかな?」


「不安な感じ? 大丈夫。俺やみんなでマドカをフォローするし、うちの長女はかなり大した奴なんだぞ」


 すると、カトリナが笑った。


「そうだねえ。ショートと私の子どもだもんね? 私も余裕を作って、マドカのことも色々してあげなくちゃ!」


「無理なくな! ……ということで、俺もギアを見てくる……」


「あははは、行ってらっしゃい!」


 一度に二人赤ちゃんが増えた勇者村。

 しばらく、この賑やかさは続きそうなのである。


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