第374話 赤ちゃん中心ライフのススメ
赤ちゃんがいる家の朝は早い。
お腹がすいたシーナの、「ほんぎゃー」という泣き声で目覚める。
まだ日が昇る前である。
俺たち夫婦はバッと起きて、おむつを確認して、空腹だと判断したらカトリナがおっぱいを飲ませる。
なお、マドカはこの程度では起きない。
二度寝した俺たちは、マドカにペチペチされて目覚めた。
「おとたんおかたんねぼすけねー」
「シーナがすごく早い時間に、お腹すいたーって言ってたから起きちゃったのよ」
「しーなはやおきねー!」
カトリナに説明されて、マドカがほえーっと感心した。
シーナはまだ目が開いておらず、多分起きているようなのだが、静かにじーっとしている。
空腹と、おしめが汚れた時だけ声を発するのだ。
しばらくは栄養補給に専念し、成長する構えであろう。
よきよき。
「この子はねえ、マドカと比べるとちょっと活発かな」
「活発なんだ。言われてみればマドカは、不満げにウーって唸ってるだけで、あんまり泣かなかったもんな」
「そお? まおないたよー」
「はっはっは、マドカはな、赤ちゃんのうちはおっぱいしか飲めないから、ご飯が食べたーいって思ってムスーッとしてたんだ」
「えー! でもでも、いまごはんたべてるよー。だからまおはたのしい!」
「そうだなー。ご飯を食べるようになってから、マドカはいつもにこにこするようになったなあ」
マドカを一言で表すなら、食いしん坊であろう。
食こそが命!
これがマドカだ。
シーナはどんな子になるのか。
今のところ、マドカと比べれば普通に泣くし、静かな時はどこまでも静かなので、緩急のついた普通の赤ちゃんという感じがする。
ちなみに、フックとミーの次男はギアという。
かっこいい名前をつけたなあ。
ビンに毎日話しかけられながら、ギアはすくすく育つであろう。
おっぱいの飲みっぷりも豪快らしい。
朝食時になると、カトリナとミーが情報交換をしている。
ここに他の奥様方も集まってきて、ああだこうだ、と育児論議に花が咲く。
端っこにリタとピアもいるあたり、将来を見越しているのではあるまいか。
話題の的である赤ちゃん二名は、ギアが音に反応してじたばた動き、シーナは静かにスンッしている。
ポチーナに抱っこされたショータは、目についたもの全てに向かって手を伸ばし、触ろうとしている。
好奇心旺盛であるなあ。
「寝不足になりそう……!」
「ここは助け合いだね」
ミーとカトリナの間で協定が交わされている。
これはポチーナのときも行われていたそうで、母親の睡眠時間確保のため、昼間のミルクあげる要員が赤ちゃんを担当するのである。
今回は、ミーとカトリナが昼寝時間を融通し合う流れになっている。
お母さんが二人だからこそ可能な作戦だな。
ちなみに勇者村は人工ミルク的なことも可能になっており、ヤギの乳を赤ちゃん用に加工しているのだ。
カトリナが、右手にシーナ、左手にギアを抱っこしている。
「んー、ダブル赤ちゃん、ぽかぽかしてて可愛いー」
「同時に空腹になったら大変だな」
「ちょっとね、腹時計がずれてるみたい。だから時間差でおっぱいあげる感じかなあ。最近はポチーナのとこのショータも預かっておっぱいあげたりしてるよ」
勇者村の三赤ちゃん、カトリナの母乳で育つことになるか!
ミーとポチーナの母乳でもあるんだが。
同年代で赤ちゃんが生まれるとこういうメリットもあるのだな。
ポチーナやミーは腕が疲れるので、籠みたいな赤ちゃん用ベッドに寝かせて持ち歩いたりしている。
カトリナはそもそもオーガなので腕力が違う。
筋肉の持久力も高いので、平気で二人を長時間抱っこしてたりするのだ。
ミーとポチーナが昼寝から目覚めてくるまで、途中で加わったショータも含め、かわりばんこに抱っこしては赤ちゃんの抱き心地を堪能するカトリナだった。
「みんなちょっとずつ抱き心地が違ってるんだよ。一番ちっちゃいのはギアだね。シーナはおっきいけど、動かないしだらーんとするから、支えなくちゃ。ショータはもう色々分かってるね。じーっと私を見てるもん」
「赤ちゃんソムリエだ……!」
シーナは俺も抱っこするのだが、基本的にこの子は動かない。
赤ちゃんゆえ、まだ筋力が無いのだろうが……。
「泣くことと、おしめにすることと、おっぱい飲んで寝る。この四つで世界が構成されてるんだもんなあ。シーナが一番シンプルかも知れない」
「ギアはちょこちょこ動くんだよね。おもしろーい」
しばらくすると、ミーとポチーナがやって来た。
二人ともたっぷり昼寝して、スッキリした顔をしている。
「よーし、それじゃあシーナを預かるよ! カトリナも寝てて!」
「はいです。お陰で元気になったですー!」
睡眠はパワーである。
カトリナはシーナを差し出すと、俺をちょいちょい、と招いた。
「なんだねカトリナさん」
「たまには夫の膝枕で寝たいなーって思ったの」
「よろしい。戦うお母さんに一時の休息を与えようではないか」
「うふふ、じゃあ、お願いしまーす」
食堂の椅子を並べて、その上に横になるカトリナ。
俺の膝に頭を乗せると、すぐにぐうぐうと寝始めたのだった。
マドカがトテトテトテーと駆けてきて、目を丸くした。
「おかたん、おとたんにあまえんぼさんね? しーっ、ね」
そう言って、マドカは唇の前で人差し指を立てるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます