第373話 ちびっこたちによる命名会議

「名前決めるのか! いい名前考えなくちゃな」


 勇者村ちびっこで最年長のルアブ。

 彼が議長を務め、うちの子の名前をみんなで考えることになったようだ。

 フックとミーの次男は、夫婦で名前をつけるそうである。


 まあまあ、うちみたいなケースの方がレアだもんな。

 俺とカトリナで、この様子を楽しく見守っている。


 マドカがまっさきに、「おもち!」と提案して、みんなから「おもちはどうかなー」と疑義を呈されていた。

 マドカがぷくっとふくれる。

 おもちのようである。


「おもちおいしいもん」


「まおのうちのあかちゃん、おいしいのとちがうよ」


 サーラが分かりやすく諭す。

 するとマドカがハッとした。


「あかちゃん、おいしいのとちがうねえ! なにかなー」


「かわいい?」


 ビンの言葉に、マドカはまたハッとした。


「かわいい! あかちゃんかわいい……かわいい……?」


 ちらっと振り返る。

 そこには、カトリナの腕の中で熟睡する妹の姿が。


「しわくちゃ」


「かわいくなるよー。ショータかわいくなったでしょ」


「あーあー!」


 サーラの指摘に、またもハッとするマドカ。

 常に新鮮な気付きを得ている子だなあ。

 先入観をすぐ捨てられる辺り、優秀である。


「おかたん! あかちゃんかわいくなる!」


「そうだねえ、かわいくなるねえ。でも、今もかわいいよー?」


 カトリナが妹ちゃんを愛しげに見つめる。


「もちろん、マドカもすっごくかわいい」


「まおかわいいー! やった!」


 うーん、この自己肯定感の高さよ!

 まあ、うちの子は宇宙一だからな。


「それで名前はどうする?」


 ルアブが冷静に話を元のところに戻してきた。

 ほんとにちゃんとしてるなあ。

 頑張って大人になろうとしているのだ。


 再び、ちびっこたちが首を捻った。

 何せ、名前を付けるなんて初めてのことなのだ。

 それも動物ではない。赤ちゃんの名前である。


「例えばな、髪の毛の色とか。みんなが好きな食べ物を、名前っぽくしてみるとか。色々あるな」


 俺から助け舟である。

 ちびっこたちは、うちの次女の髪の毛をジーッと見た。


 あ、まだあんま生えてないな。

 マドカの髪色は俺に近い黒だが、次女はカトリナに近い茶色だ。

 角は無い。


 マドカの肉体的性質がカトリナ寄りだったのに対し、次女は俺寄りみたいだ。

 ここのところの違いは面白いなあ。


「かみのけないねえ」


「これからいっぱいでてくるね」


「じゃあたべもののはなし?」


 食べ物となると、ちびっこたちの目が輝く。


「おいしいぼう!!」


「おいしいぼう!」


「おいしいぼうおいしいねえ」


 おいしい棒とは、日本に遊びに来たマドカがハマってしまった駄菓子である。

 たくさんお土産で買ってきたら、ちびさんたちがとても気に入ったのだった。


 たまにうちの両親が、子どもたち全員ぶんを買ってきてくれる。


「じゃあおいしい棒から名前にしよう」


 ルアブが決定した。

 マジか。

 おいしい棒がどうやって名前になるんだ。


「どういう名前になるのかな? 楽しみだねえ」


「楽しみ半分、不安半分だな……!」


「もう、ショートは心配しすぎだよー。どんな名前だって、この子を思ってつける名前なんだもの」


「もし変な名前が来たら?」


「その時は優しく再考を求めます」


 うちの奥さん強いなあー。

 その間も、ちびっこたちの間で議論は続いていた。


「おいしー!」


「いしーの!」


「おいしぼう?」


「おもち!」


 マドカがまた話題を回転させ始めたぞ!

 お腹がすいてきたんじゃないだろうか?


 ここでベストタイミング、ポチーナがおやつを持って登場である。

 抱っこ紐で、ショータがくくりつけられている。


 ショータはお兄さんお姉さんたちが集まっているのを見て、目を見開いた。

 ぱたぱた動き始める。

 お喋りできないなりに、会議に加わりたいらしい。


「はい、おやつですー。これはですねー、イノシシの脂をカリカリに炙ったやつですー」


「ジャンクだが美味そうだ」


 俺は感心した。

 これはエネルギーを必要とする子どもたちにはごちそうであろう。


 丘ヤシのシロップと塩で甘辛く味付けしてあるようで、たまにブルストも酒の肴にしている。

 飲み友達のオットーが逝ったので、最近は一人か、虎人のグーと二人で飲み交わしているな。

 たまに市郎氏も参加している。

 

 ちびっこたちは歓声をあげて、おやつに群がった。


「おいしいなー」


 マドカがニコニコしている。

 そしてその時、マドカの頭脳に電流が走る……のが俺には見えた。


 カリカリ脂身を齧りながら、カッと目を開いたのである。


「おいしいなー……おいしい……な……。しーちゃん……!」


 脂身をカリカリカリっとかじって、もぐもぐもぐーっとやってからお茶でごくごく飲み下し、マドカがこっちに走ってきた。

 マドカ動く! とちびっこたちも衝撃を受け、こっちにみんなでやって来た。


「なんだなんだ」


「マドカ、どうしたの? お名前、考えたのかな」


「うん! 赤ちゃんねー、しーちゃん! しーな!」


 シイナか!

 それは可愛いなあ。


 マドカがむふーっと、興奮で鼻息を荒くしている。

 さて、カトリナのジャッジは……。


 目覚めてもぞもぞ動き出した次女を高く掲げて、宣言する。


「おはよう、シイナ! お姉ちゃんが名前を付けてくれたね。良かったねえー」


「正式採用だ!」


 マドカとちびっこたちが、ワーッと沸いた。

 ちょっと向こうで、ポチーナがニコニコ。

 ショータが目をくりくりさせている。


 さて、当の本人、我が家のニューフェイスとこシイナは……。


「ウー」


 目をぎゅっとつむったまま、どこかの誰かさんそっくりな感じでうめいたのだった。


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