第372話 我が家にもやってこいベイビー!

 カトリナが連鎖的に産気づいたので、ヒロイナは連続助産ということになった。

 俺がグワーッとスタミナが回復する魔法を掛ける。

 ポチーナが村の台所に走り、ササッと食える栄養補助食みたいなのを作る。


「はいこれ。飲み物でちょっと元気をつけておいてね」


 スーリヤは流石である。

 既にヒロイナのためのドリンクを用意してあった。


 丘ヤシジュースを更に甘くしたものだが、こいつをヒロイナはグイッと飲んで、戦場へ向かうのだ。


「行ってくるわ。こっちはショート、バリバリに構いなさいよね。あんたの子どもなんだからどっちにしたってめちゃめちゃ祝福されて生まれてくるでしょうし!」


「そうだな!」


「よ、よろしくおねがいしまーす」


 ベッドに横たわったカトリナ、もう余裕がない。

 行くぞ、出産の手伝い開始だ。


 今まで控えていたが、ここから俺は赤ちゃんに霊的な接触を試みる。

 そこで知る真実!


 女の子だったか!

 つまりマドカの妹ということになる。


 外からはマドカの、「おかたんしんぱい! がんばえー!」という声が聞こえてくるではないか。

 うむうむ、カトリナもマドカの妹も、バッチリ健康なまま助けるからな!


「しっかし、やっぱり人間と比べてオーガって安産よね。カトリナは小柄だけど、骨格はがっしりしてるもの。安定度が違う……」


「ヒロイナ冷静だなあ」


「あんたがいるから焦る必要ないもの。それに、いつ生まれてもいい状態だったのよ? 大方この子、ミーの子どもが生まれたのを確認してから自分も出てこようとしたに違いないわ」


「生まれる前から自己意識がしっかりしてるんだな、うちの二人目。いや、マドカもそうだったけど」


 ただ、マドカの時と比べると、もうちょっと意識がぼんやりしている気がする。

 より赤ちゃん的だ。

 ある意味マドカがスペシャルだったのかもしれない。


「出てきた出てきた!」


「早い! カトリナ、あと少しだ! ちょっとスタミナ回復しておくな」


「うう~、ありがとう……!」


 カトリナが元気になった。

 オーガということと、二人目ということ。

 いろいろな条件が合わさったのもあるだろうが、大安産だった。


 スポーンっと我が家二人目の赤ちゃんは生まれ、「ほんぎゃあー」と元気な泣き声を上げたのである。

 すると、マドカが転がるようにして駆け込んでくる。


「おかたーん!! あかちゃーん!!」


 そして、ヒロイナに洗われている赤ちゃんを見て、ほっこりした。


「あかちゃんしわしわねー」


「ふやけてるんだ。すぐにぷくぷくになるぞ」


 かくして、一日のうちに二つの新しい命を迎えることになった勇者村。

 さらに賑やかになっていくことだろう。


 洗われてスッキリした赤ちゃんを、魔法で回復したカトリナが抱っこしている。

 赤ちゃん、おっぱいをごくごく飲んでいるな。


 マドカほどがっつく感じはないので、普通の赤ちゃんと言う感じだ。

 名前はどうしようかなあ……。


「あかちゃーん、まおだよー。おねえちゃんだよー」


 マドカが呼びかけている。


「マドカ。赤ちゃんはおっぱい飲んでるから答えられないでしょ。マドカだって、ご飯食べてる時に呼ばれたらいやでしょ」


「あっ、わかった」


 ご飯時に例えると、なんでも理解する子、マドカ。

 カトリナはにっこりした。


「おっぱい終わったら、たくさん呼んであげてね。お名前も考えなくっちゃ」


「おなまえー? あかちゃんおなまえないのー?」


「ないのよー。マドカの名前だってお父さんが考えたんだから」


「おとたんが!? あかちゃんのなまえ、おとたんかんがえる?」


「そうだぞ。でも、マドカが考えてもいいぞ」


「まおが!? おー! うーん、えへへ」


 マドカはちょっとびっくりしたあと、考えるふりをして、すぐに照れ笑いみたいなのをした。

 これ、えへへって笑ってる時、どうやら頭を猛スピードで回転させてるらしいのだ。


「急がないから、マドカが色々考えてみたらどうかな。ビンも弟が生まれてるし、一緒に考えてもいいぞ。サーラなんか色々思いついてくれるんじゃないか」


「おー! びん、さーら! そだねー!」


 マドカは笑顔になると、パタパタ外に駆け出していった。

 びーん、さーらー! と声がする。

 ちびっこ会議を招集するつもりだな。


「ショート、この子の名前はマドカに任せるの?」


「ああ、そうしてみようかなって。自分が名前をつけた子だってなったら、お姉ちゃんとしての自覚がもりもり芽生えるかも知れないぞ」


「そうかー! 私って一人っ子だったから、姉妹がいる感覚って分からないんだよね。ちょっとマドカが羨ましいなー」


「姉妹の姿を、特等席で見られるじゃないか。いやあ、楽しみだ。名前もだし、この子はどんな風に育って、マドカとどんな関係になっていくかとか……。楽しみなことだらけだ」


「本当にそう」


 カトリナが微笑む。

 おっぱいを飲み終わった赤ちゃんは、軽く揺らされるとゲップをした。

 そしてぷひーぷひーと寝息とともに夢の中である。


 やっぱりマドカと比べて、普通の赤ちゃんという感じがするな。

 マドカは特別だったのだなー。


 次女はまた、新鮮な心持ちで育児することになっていくのだろう。


「おもち!!」


 外から威勢のいいマドカの声が聞こえてきた。

 名前を話し合ってるんだな。

 だが、おもちはいかがなものか。


 どれ、ちびっこ名付け会議を覗きに行くとしよう。

 カトリナも笑いながらついてくるのだった。



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