第370話 アポ無しでお城を訪れる
海乃莉とパワースが移動するまでの間は、待機期間というかなんというか。
俺はぶっちゃけフリーなのだが、落ち着かないものは落ち着かない。
難しい顔してうろうろしていると、カトリナに手招きされた。
「なんだい」
「落ち着きなさいな。ミノリだって大人なんだし、パワースもついてるんだもの。大丈夫だよ。いつまでも子ども扱いして心配している方が失礼だよ」
「それはそうかもしれないがー」
ここは日本ではなく、ファンタジーな世界ワールディアだからな。
治安もあっちとは異なるだろう。
心配は心配だ。
「ショートが頑張ったお陰で、世界は本当に平和になったでしょ? 王都でもびっくりするくらい事件が何も起こらなくなったって聞いたよ。トラッピアさんが言うことを聞かない貴族を全部やっつけたんですって」
「またも強権を! だが魔王大戦後だし、後ろ盾に俺がいるから誰も文句は言えないだろうなあ」
貴族たちに対しては暴君。
臣民に対しては賢王。
それがトラッピアに対する世の中の印象だ。
暗殺とかされまいか。
いや、そういうのを組織しそうな近隣国家の連中は俺が排除したんだった。
主に、ハジメーノ王国と勇者村の安寧を守るためである。
「農作業も大体安定しているでしょ? だったらトラッピアさんを見に行ってきたら? 生まれそうになったら呼ぶから」
「カトリナも大変だもんなあ……。わかった。お言葉に甘えるよ」
そういうことで、ハジメーノ王国に戻ることになった。
王城の門に立つと、兵士たちがハッとする。
「と、突然のご来訪で勇者様!」
「心臓に悪い」
「ごめんな。思いつきでやって来たからな……。アポイント取ってないんで、そっちで了承取れるまで待ってるからゆっくり進めてくれ」
「そう言っていただけるとありがたいです……!」
ということで、最近のハジメーノ王国について、門番に話を聞きながら時間をつぶすのだった。
この城に勤めている兵士は、基本的にシフト制で城下町から出勤してきている。
シフトは四交代制。
勤務時間は一回六時間で、そこまで多くの兵士が城にはいないのが常だ。
門番は常に二名。
城内の見回りは一階が四名。
二階と三階が二名。
平和な時代になったもんだなあ。
「武器はどんな感じ? 先が丸められてる?」
「あ、その通りです。槍の刃は潰してあるので。騎士たちも刃がついてない剣を下げてますね」
「平和になったなー。賊とか入ったらどうするの」
「刃がついてなくてもぶん殴れますからね! 訓練も仕事なんで、毎日やってます!」
「頼もしいなあ」
「勇者様は最近どうなんですか?」
「俺はまあ、平和を維持するためにたまに世界を飛び回ったりするくらいかなあ」
「あー。お陰で世界は平和です」
このような会話を門番としていた。
しばらくすると、もうひとりの門番が戻ってきた。
後ろに汗だくの騎士団長がいる。
「ゆ、勇者様! 長らくお待たせいたしました!」
「急がなくていいのに」
今まではエンサーツに連絡していたので、彼が色々段取りを組んでくれていたのだなあ。
案内してもらいつつ、トラッピアに会うのである。
「アポ無しとは、穏やかではありませんわね。何か火急の用事でもあって?」
「今城下町に俺の妹がいるだろ」
「いますわね」
「出立の時に呼んでもらう事になっているんだが、それまで待ってるのが落ち着かなくてな」
「……まさか、それで王宮へ遊びに来たとでも?」
「そういうことだ」
「おバカ!」
怒られてしまった。
まあそうだよなー。
だが、せっかくなのでアレクスに会っていく。
「やあショート。来てくれて嬉しいよ。見てくれ。アレクスはもう歩くんだ」
「一歳ちょっとだっけ? やっぱり早熟だな」
アレクスはハナメデルの足にしがみつきながら、ポカーンと俺を見上げている。
鼻水出てるじゃないか。
「体の発達の方は本当に速い。背丈もあるし、どこまでもよちよち歩いていってしまうね。ただ、頭の方は同じ年の赤ちゃんとそう変わらないみたいだ」
「勇者村のちびたちを基準にしてはいけないぞ。というか、なんならアレクスを連れて遊びに来るといい。王宮だとアレクスも遊び友達がいなくて退屈だろ」
「あー」
アレクスが俺を指さしてなんか言っている。
「見慣れない人がいるって言ってるんだろうね。ちょっと人見知りするんだ」
「人見知りするのかあ。かわいいな」
俺が近寄ったら、アレクスがスススっと動いてハナメデルの影に隠れた。
「よし、最近は王都も平和だし、僕とトラッピアでかわりばんこでアレクスを連れて行こう」
「来い来い」
そういうことになった。
有言、即実行である。
ハナメデルとアレクスが勇者村に現れた。
これを瞬時に察知したマドカが、猛烈な勢いで走ってくる。
「あれくす!!」
「うわー」
アレクスの腰が退けている。
だがうちの子はずんずん来るぞ。
「あそぼ!! あそぼ!!」
「あ、うー」
勢いに押されまくったアレクスが頷く。
そして手を引っ張られて図書館へ行ってしまった。
これを見て、ハナメデルが苦笑する。
「アレクスを覇王にってトラッピアは考えてるけど……僕は無理そうな気がするんだよねえ。特にこの時代は」
「全くだ」
俺も頷くのだった。
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