第369話 新婚旅行に送り出す!

 ササッと計画を立て、パワースに新婚旅行プランを手渡した。


「海乃莉と一緒に相談してくる」


「夫婦みたいなことを言うな」


「夫婦だからな……」


 ということで、ちょっと待つことになる。

 その間、俺はまんじりともできずに過ごす……わけではない。

 村長というものは忙しいのだ。


「おとたん! あそぼ!」


「いいぞ、遊ぼう!」


「ししょー! しゅぎょうにつきあってください!」


「いいぞ、付き合おう!」


「おいショート、新しい酒ができたんだがちょっと試飲してくれ!」


「いいぞ、飲もう!」


 いやあ忙しい!

 そして楽しい!

 忙しくも楽しいことが満載なので、どんどん気持ちを切り替えていかねばならんのだ!


 こうしている間に、そろそろカトリナのお腹も生まれそうかなーという頃合いになって来た。


「生まれそう? 生まれそう?」


「生まれそうかもー。ヒロイナがバッチリ準備整えてあるって」


「勇者村は常にお湯を沸かせるようになってるしな。でも、何かあったらすぐ駆けつけるぞ」


「頼りにしてるよー」


「頼られるぞー」


 ということで夫婦で笑い合うのである。

 そこに、二人がやって来た。


「あ、邪魔しちゃったごめんね」


「海乃莉!? いや、別に構わんのだが。いつ来た? 今?」


「今来たぞ」


 パワースは遠慮しないな。


「義父母にも見せて、いいんじゃないかって話になった。ということで案内してほしいんだが……焦らないからゆっくりやってくれ」


「いいんだよー! ショート、ほら、案内してあげて!」


 カトリナがぱたぱた動きながら俺を押し出した。

 照れてるな。


 よしよし、じゃあ海乃莉とパワースを新婚旅行に送り出してから、続きでいちゃいちゃしようじゃないか。


「ダンガンバビュンで送り届けるが、それでいいか?」


「おう。俺とお前がいることだしな。構わないぜ」


「ブレインにも助けを頼んで、ちょっと加速しておこう」


 そういうことになった。

 ダンガンバビュンは、勇者パーティがみんなで移動するための魔法なのだ。

 人数が増えるほど、移動速度が加速していく。


 二人なら二倍、三人なら四倍だ。


「いいでしょう、私も同行します。今行くんですね」


「ブレイン! 話が早いな」


 このやり取り、前もやった気がするな。

 こうして、海乃莉とパワースの新婚旅行がスタートした。


 とは言っても、既に俺がプランを準備してあるハジメーノ王国に下ろして、最初の段階は終わりなのだ。

 三日くらいしたら迎えに来て、砂漠の王国に送り届ける。

 さらに三日後に迎えに行って、グンジツヨイ帝国。


 そして勇者村に帰ってきてから、我が家への帰還というわけだ。


「絶景~!!」


 ダンガンバビュンの結界に張り付いて、海乃莉が歓声をあげている。


「なんだか私だけで見るの、もったいないみたい! パワースは見慣れてるんでしょ?」


「そうだな。勇者パーティ時代はそれこそ、世界中を駆け巡ったもんな」


「懐かしいですねえ。もう四年経つんですよね」


「時が過ぎるのはあっという間だなあ」


 三人でしみじみする。

 海乃莉はそれを見て、ちょっと羨ましそうなのだった。


「いいなあいいなあ。私の知らない時間をみんなで過ごしてるんだもの。なんか深い絆とかありそうだし……」


「そんないいものばかりではないぞ。勇者パーティ時代は世界そのものが敵みたいなものだったので、地獄みたいな毎日だった。全ての人間を疑い、裏に潜む敵を倒し続け、そこから繋がる糸を手繰り寄せて次なる巨大な敵と戦う……。そんな感じだった」


「へ、へえー……」


 海乃莉がドン引きした。

 だよなー。

 数々の死線をくぐり抜けたからこその絆であって、それがあってもパワースは裏切ったりしたし、国に帰ったブレインは干された。


 世の中そんなものだ。

 なので、俺は勇者村を作ったわけなんである。


 だが、その結果として生み出した場所と人間関係が羨ましく見えるなら、それは大成功なのではないだろうか。


「まあまあ。俺とみんなの頑張りで素晴らしい場所が生まれたわけでだな……。海乃莉はそこで生まれた平和を享受して楽しんでもらえばいいのだ。新婚旅行気をつけてな! 俺の妹だって言うと、貴族たちがわーっと押し寄せて挨拶に来ると思うが、いい感じでいなしてくれ」


「な、なにそれ!?」


「ショートは王都ではとんでもなく有名だからな! まあ安心しろ。俺が守ってやるから」


 パワースの言葉に嘘はないからな。

 こうして、海乃莉とパワースをハジメーノ王国に送り届けた。


 後は、二日後に迎えに来るだけである。

 海乃莉がやって来る話はトラッピアやエンサーツにも通してあるから、護衛だってかなり配置されているだろう。

 言わば、海乃莉は国賓である。


 本人は全然知らないだろうけどな。

 存分に新婚旅行を楽しんで欲しい。


「帰還もダンガンバビュンだとめっちゃくちゃ時間が掛るから、コルセンター使って無理やり帰るか」


「そうですね。でも、ショートなら世界中にコルセンターを置いて移動できるのではないですか?」


「シュンッでも行けるけどな。でもそれじゃあ、景色も見えないし、風情がないだろ? 旅ってのはその道行も楽しいもんじゃないか」


「ああ、確かに。物事は結果だけでなく、過程もまた大切なものですからね」


 そんな話をしつつ、空間に空いた窓に飛び込む俺たちなのだった。

 なお、向こうのコルセンターは図書館に開けていたので、俺とブレインがいきなり出現したことになる。


 本を読んで楽しんでいたちびっこたちは、突如俺たちが現れたので、目を丸くしてポカーンとしていたのだった。


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