第368話 久々にパワース

「よう」


 午前中、傘を差しながらパワースがやって来た。


「あっ、久しぶりだな。元気だったか?」


「ああ。向こうの仕事は書類が多くて閉口したぜ。車で農家を回って話をする方が性に合ってるな」


「なんだお前免許取ったのか」


 ちょっと会話しただけでたくさんの驚きがあるな。


「中に入れてくれ。スコールの中じゃ傘が役に立たねえ」


「いいぞ、入れ入れ」


 ということで、パワースを我が家に迎え入れたのである。

 最近実家に方に戻ってないから、どうなってるかさっぱり分からんな。

 俺が黄金帝国にかかりきりになっていたら、両親と顔を合わせるタイミングもなくなってるし。


 ただ、両親が来る度に我が家に新生児用のグッズが増えているのだけは分かる。

 二人目の孫の誕生を、楽しみにしているのだ。


「最近どうなんだ。その、海乃莉とは」


「なんでショートが父親みたいな口ぶりで離すんだ。海乃莉はまだ学生だからな。結婚したとは言え、きちんと節度を持ってるぞ。俺もまだまだ仕事に不慣れだしな」


「そうか……! 仲はいいんだな?」


「すこぶるいい。俺は色々あって凝りて、一途になることに決めたからな……」


 かつて遊び人だったパワースである。

 だが、俺の能力に嫉妬してヒロイナを取ったり、荒れてる時は様々な女性と浮名を流したりし、最後は自分がやったことのツケを払って投獄され、そこで大いに反省したのだそうだ。


「結局何も残らなかったからな。刹那の楽しさはあったが、それが過ぎたあとは虚しくなった」


「男は賢者モードになるもんなあ」


「そう、それだ。ということで、俺はな、愛に生きることにしているんだ」


「それがパワースの本心だというのは分かるが、複雑な気持ちだなあ……」


 海乃莉との仲はすこぶる良好らしい。

 恋バナが大好きなカトリナがいそいそやって来て、俺の隣にちょこんと座った。

 マドカをお昼寝させたので、パワースの話を聴き放題だな。


「カトリナ、お腹大きくなったなあ。もうすぐ?」


「そうなんだよー。今もね、ショートやマドカが触ると、ぽこんぽこんってお腹の中を蹴るの」


「俺とかマドカの魔力に反応してない? 凄い赤ちゃんが生まれそうだ」


 また勇者村が凄いことになるな。

 だが、二人目の子どもが楽しみでならない。


「うちはもうちょっと先だな。海乃莉と義父母と話し合ってな。卒業後に子作りを」


「だろうなあ……。こ、子作り!?」


「どうどう、ショート、落ち着いて。ミノリだってもう大人なんだから」


「そ、そ、そうだな」


 カトリナにたしなめられてしまった。

 俺が子ども作ってるのに、海乃莉になんか言うのは違うしな!

 落ち着け、落ち着け俺よ。


「で、だな。俺たちはまだ新婚旅行ってのをしてなくてな。海乃莉がワールディアで旅行したいって言ってるんだ」


「ファンタジー世界で新婚旅行か。そりゃあ確かに、行けるようになったんなら行ってみたいと思う気持ちは分かる」


 その相談にやって来たというわけか。


「どこがいいだろうか。俺はほら、勇者パーティ時代はお前に行き先を任せてただろ。思えば、ショートがリーダーをしてくれていた頃は、ぶつくさ文句をいいつつも俺は何も判断なんかしなくて済んでいたんだな」


「今分かったか、俺の大切さが」


「ああ、痛いくらい分かってる。恩赦で解放された俺を迎えに来たときも、今思うと本当にお前の器のでかさが分かる。敵わんよ」


 俺はしげしげとパワースを見てしまった。

 なんと丸くなったのだ。

 昔のこいつだったら、絶対にこんなこと言わなかっただろうに。


 出会った頃のパワースはもっとギラギラしてて、暴力的な野心に満ちていた。

 天才的な戦闘センスを持っていたらしく、魔王軍とも独自に戦っていたのだな。


 で、俺の仲間になって、上には上がいると思い知らされてちょっと腐った……みたいなところはある。

 俺のは純粋に、レベルを上げた強さだからな。

 レベルキャップを突破する方法さえ身につければ、どんどん強くなれるのだ。


 だがまあ、俺が知るかぎり、カールくんくらいしかこのレベルキャップの存在を認識できないのだな。

 恐らく、ビンは無意識でキャップを突破できる。

 カールくんは意識的に突破する。


 サイトもいけるだろ。

 マドカはその気になれば突破できるだろうが、なるべくマドカがそんなことしなくていい世界を作るのが目標だな。

 世界よ正しい意味で平和であれ……!


「おい、ショート。ショート!」


「ショートが考え込んじゃった。これね、パワースの言う話から絶対に考えてることが逸れてるからね」


「ああ、こいつはそう言う奴だもんな」


「あっ、すまんすまん!」


 俺は現実に戻ってきたぞ。


「新婚旅行先の話だったよな。そうだなあ、世界情勢から考えると、魔王大戦の時とは全然違っている。だとすると、俺のオススメは三つの友好国を巡る旅だな。移動するごとに俺が引率することになるが」


「三つの友好国?」


「ハジメーノ王国からスタートして、これぞファンタジー!って王道を体験し、砂漠の王国でエキゾチックな魅力を堪能し、最後にグンジツヨイ帝国で軍隊のパレードを見て帰る」


「いいな、それは。砂漠の王国が途中に挟まってるのはどうしてだ?」


「暑い所は体力があるうちに行ったほうがいいからな。旅行の終わりはのんびりできるところがいいだろう。グンジツヨイ帝国なら、要塞化された都市をちょっと見て回るだけでもかなり満足できるはずだ。待ってろ、俺が新婚旅行プランを組んでやる」


「ショート、燃えてるねえ。パワース、期待してていいと思うよ。ショートって凝り性だもの」


「ああ、楽しみにしてるぜ、お義兄さん」


 お義兄さんと呼ぶのをやめろう!


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