第366話 海のお魚水揚げ
黄金帝国で、漁業が軌道に乗り始めているらしい。
かの国の人々は、恒常的に魚介類を食べられるようになった、と言う報告が来た。
と、なれば……。
俺が仕入れに出かけねばなるまい。
うちの穀物や野菜類をまとめて持っていった。
勇者村だけだと消化しきれないからな。
「いよー」
「やあショート」
「ブレインも先に来てたのか」
ブレインは何を隠そう、勇者パーティにおいて俺に次ぐ魔法の使い手である。
普段は全く使う機会がないので目立たないのだが、何気に百通りくらいの魔法を覚えている。
ということで、それらを使って飛んできたんだろう。
「ええ。魚を見にやって来たんです。こちらの海で漁ができるとは知りませんでしたからね」
「この間、ビンが小さい海の神と和解したからな。お陰で自由に漁をできるようになった」
「なるほど、それは良いことをしましたね」
ブレインと談笑していたら、帝国の人々も俺に気づいたようだ。
「あっ、神様!」
「神様が賢者様と喋ってる」
「やあやあ諸君。魚を買いに来たぞ。こっちからは穀物と野菜を持ってきた」
こうして、物々交換をするのである。
熱帯雨林の中にある黄金帝国。
この広大な森林からは、たくさんの肥沃な土が海に向かって流れているのだ。
そのために、魚は死ぬほど取れるらしい。
なお、水は濁っている。
土が流れ込んでいるからね。
「思ったよりも極彩色の魚じゃないんだな。もっと地味で、むっちりした奴らが多い」
「色鮮やかな魚はさほど美味しくなかったりしますからね」
「そうそう! だからこういう地味な魚の方が美味いんだよな」
ブレインと二人、ああだこうだ言いながら並べられた魚を見て回る。
この大部分は焼かれたり干されたりして、保存食料に回される。
黄金帝国には刺し身という文化はないし、海の魚とは言え寄生虫は怖い。
ということで。
「実際に料理してくれるそうなので、食って決めよう」
「そうしましょうか。思ったよりも赤身の魚が多かったようですね。回遊魚が熱帯雨林の脇で栄養補給をしていくのかもしれませんね」
「なるほど……赤身は回遊してて白身はそのへんでとどまってるの?」
「ショートの世界ではどうか分かりませんが、ワールディアではそうですね。回遊魚は運動をするため、全身に血が巡っています。だから赤いんです」
「そうだったのか。戦いと野良仕事しか知らなかったから、それは初めて知ったわ」
世界は広い。
未知に満ちているな。
ちなみに今回お料理してもらうお魚は、発見されたばかりで名前もついていない。
茶色くて一メートルくらいある魚で、肉は真っ赤。
こいつがぐつぐつ煮込まれて、スープになって出てきた。
おお、いい匂いだ。
魚をそのまま煮込んだんで出汁が出たんだな。
スープを啜ってみると、なるほど美味い。
ちょっとくさみがあるが、野趣あふれる感じだな。
身は出汁が出てしまっているが、それでも多少の歯ごたえがあって楽しい。
「悪くないな」
「今回は煮物ですけど、焼き物にしてもいいですね、これは。後で勇者村で私が作ってみましょう」
料理も抜群にできるのだ、この男は。
その後、実際に魚が獲られているところを見学に行った。
村にやってきた若者たちの中に漁師がいたようで、彼が網の作り方を伝授したのだそうだ。
熱帯雨林の蔓草を繊維までほどき、これを編み込んで作った特製の網。
海には、カヌーよりもちょっと大きい小舟が浮かんでおり、海から網を引き上げるところだった。
網を落としてしばらく放置してから、魚が入り込んだところで引っ張り上げるスタイルなんだな。
それなりの量の魚が獲れている。
効率がいいとは言えないが、こういうのは根こそぎにしたらいけないものだしな。
「あれくらいがちょうどいいでしょうね。効率化したら、近海から魚を取り尽くしてしまうかも知れませんし」
「そうだなあ。資源は有限だものな」
船と漁を受け持っている若者がやって来て、話し合いなどもする。
「魚が逃げないようにしたいんですよ。だから網は限られた回数にして、基本は釣り竿で行きたいです。俺の故郷の海、地引網をやって根こそぎ魚を獲って、とうとう何も獲れなくなっちまったんで」
「あるある」
稚魚まで取り尽くして、最後は何も残らなくなったりするのだ。
ここでは故郷の二の轍を踏まぬようにするつもりらしく、若者は水底に古い建物の残骸を沈めたり、たまに餌を撒いたりするつもりらしい。
水産資源を守っていくのである。
偉い。
「うちと取引して大丈夫? 漁獲量的にとか」
「宇宙船村だったらアウトですけど、勇者村だったらいけますよ」
「それは良かった。何か必要なものがあったら言ってくれ」
「じゃあ……魚礁を作るために色々必要なんで、宇宙船村から廃材とかもらってきてもらっていいですか? そういうとこに魚がたくさん居着くんですよ」
「よしきた」
そういうことになった。
魚たちの住処を作ってやり、その代わりにちょこちょこと魚を獲らせてもらう。
この若者が考えているのはこういう関係だろう。
「俺が目を光らせて、根こそぎ魚を取る技術は生まれないようにさせます!」
「頼もしい!」
俺が拍手する後ろで、網からもりもりと魚が取れている。
船の上でピチピチ跳ねており、鱗に反射した太陽の光が眩しいのだった。
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