第365話 ダリアちゃんの後輩

「あぷ!」


「う!」


「あぷぷ!」


「うー!」


「だりやねー、あかちゃんにおねえちゃんですよーってゆってるの」


「ほう、マドカはダリアの赤ちゃん語が分かるのか!」


 ヒロイナいわく、最近では簡単な単語を口にするようになってきたというダリア。

 だが、まだまだ一歳半くらいの赤ちゃんである。

 それがショータに対してお姉さんぶっているわけか。


 ショータはそれをじーっと見ている。

 生まれて二ヶ月とかなので、まだそんなに感情とか発達してないもんなあ。

 それでも、ショータは何やら反応を返しているではないか。


 これは、ダリアから見ると物凄く小さい生き物が出現したということでもある。

 今まで一番小さかった自分よりも、さらに小さいのだ。


 きっとダリアの中で、このちっちゃいのを守護らねば……という気持ちが湧いてきたんだろう。


「だりやー」


 マドカがトテトテと走っていったら、ダリアが「ぷ!」とマドカに振り向いた。

 この二人は結構仲良しなのだ。

 マドカにとってダリアは妹分だし、ダリアもマドカを姉みたいに思ってるフシがある。


「サーラはどうなの」


「んー?」


 ちょうど横にサーラがいたので聞いてみた。


「んとねー。サーラは、まおのおねえちゃんだからねえ」


「マドカのお姉ちゃんとダリアのお姉ちゃんは両立しないのか」


「おねえちゃんひとりだけだからねえ」


「そんな決まりがあったのか。難しいなちびっこ社会」


 どうやらちびっこたちの間で、謎ルールが出来上がっていたようだ。

 おっ、パタパタ走ってきたバインが、サーラに挨拶している。


 ちっちゃくても頭が良くてお姉さんっぽいサーラに、バインはちょっと弱いところがあるな。

 勇者村のビンを除いたちびたちが集まり、わいわいきゃあきゃあとやっているさまを眺める。


 ここは教会。

 テーブルと椅子を片して、普段はこうやって集会場みたいにしてあるのだ。

 本日は赤ちゃんデー。


 自宅のちびっこを連れてきて、遊ばせる日だ。

 まあ三日に一度あるな!

 託児所みたいなもんだ。


 こう言う場を設けよう設けようと計画して、ついにそれが実行されたのである。


 ダリアに話しかけられるショータを、ニコニコしながら見つめていたポチーナ。


「ショータは安心ですねー。素敵なお兄ちゃんとお姉ちゃんがたくさんいるですねー」


 そう、息子に囁きかけているのである。

 ポチーナは最近、勇者村の奥様方と積極的に交流を持っている。

 子育てのやり方とか、忙しいときにはショータを預かってもらったりとかしているようだ。


 勇者村は持ちつ持たれつ。

 余裕がある人が余裕がない人を助けて、いつか余裕ができたら、その人が余裕のない別の人を助ける。

 そんな社会なのである。


 完璧に機能しているではないか。

 ところで俺だが、今日ここに来ている大人の男は俺一人。


 カトリナを家でのんびりさせるため、マドカを連れてここに来たというわけだ。

 お腹の赤ちゃんもいるし、カトリナを一休みさせねばな。


 託児所に集ったちびたちは大変元気である。

 バタバタ走り回り、おもちゃをいじり、放り投げ、拾い、転がる。


 主にマドカとバインが元気だな!

 今言った事は全部マドカとバインがやった。


「ばいんー! いくよー!!」


「あおー!!」


 マドカの呼びかけにバインがガッツポーズで応じる!

 いつの間にそんなチームワークを……。


 放り投げられたボールは、二歳児の腕力ではない速度だ。

 それをガッチリと頭突きで受け止めるバイン。


 ポトッとボールが落ちた。

 ひょいっと拾ったバイン。


「おわおー!!」


 ボールを投げ返した!

 フォームもクソもない力任せの投擲だが、これをマドカは事も無げにキャッチする。


 いつの間にそんなキャッチ技術を!!

 マドカがこっちを見て、ニコッと笑った。


「かっこいいところを見ていて欲しいんだな! 頑張れマドカー!」


「がんばるよー! ちょわー!」


 おお、砲丸投げの要領でボールが!


「わおー!」


 これを頭突きで受けるバイン。

 キャッチは基本頭突きなんだな。

 ミノタウロスの血を受け継いでいるだけのことはある。


「バイン、負けるんじゃないよ! ファイトー!」


「わうー!」


 パメラから応援されてバインもやる気である。

 我が村で一番やる気に満ちたちびっこ二人なのだ。


 ボールの投げあいはしばらく続いたのだが、最後は両者体力が尽きてダブルノックアウトということになった。

 子どもって、激しく動き回った後で突然ぶっ倒れるよな。

 電池が切れるまではフルパワーで動けるのだ。


「いやあ、助かるねえ。バインったら日に日に体力がついていってさ、なかなか寝ないんだよねえ」


「やはり。マドカも元気いっぱいなので元気が余っているうちは寝ない。いや、飯を腹いっぱい食うと寝るな」


「なるほど……バインももうちょっとたくさんご飯を食べさせれば……いいことを聞いたよ!」


「ともに子どもをでかくでかく育てよう!」


「もちろんさ!」


「ふむふむ! いっぱい食べて大きくなるですね? ショータもおっぱいをたくさん飲んで大きくなるですよー」


 ポチーナがショータを高い高いした。


「ぱうー、あぶぶぶ」


「ショータが何か言ってる。ほんとに早熟な子だなあ」


「たくさんお喋りするですよ。ニーゲルはなんて返したらいいか、いっつも真剣に考えてるです!」


「ニーゲルは真面目だなあ」


「そこがいいところです」


「だなあ」


「だね」


 俺とパメラで、ポチーナののろけを受け止めて、わっはっはと笑った。

 ショータはきょとんとして、俺たちを見回すのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る