第363話 見学、黄金帝国の畑とか!

 カールくんと一緒に、黄金帝国を歩き回る。

 まずは、上に畑がある家を訪問だ。


「わー、てんじょうがひくい!」


「上に畑の土があるからな。立って歩けるギリギリくらいの高さにしてるんだろう。家の中は基本、座るか寝て暮らしているらしいしな」


「へえー。いえのなかでいろいろやったりしないんですね」


「普通はそんなもんなんだろう。勇者村が色々充実してるだけだなあ」


 住人に挨拶し、色々見学させてもらう。

 家の中の調度品はすごくいいな。

 壺とか物入れとか、飾りが凝ったものがさり気なく置いてある。


 この点に関しては勇者村の完敗だ。

 黄金帝国は閉じた環境だったからこそ、ありふれたものにも美的感覚みたいなのを詰め込むことに特化したのだ。


 うーむ、文化的にも黄金である。


「このみずさしいいなあ! ははうえにプレゼントしたい!」


「いいじゃないかいいじゃないか。今度何かと交換してもらおう」


 色々見て回り、大いに盛り上がった。

 そして次なるお宅。

 ここでは家の上に広がる畑を見せてもらうことになった。


 なんとここは二階建てで、二階の畑で日光が少なくても育つ豆みたいなのがあり、その上にさらに畑があった。

 狭い空間で最大限に作物を育てられるようになっている!


 そしてこれらに水をあげるために、黄金帝国の最も高いところまで、川の水を汲み上げるポンプのシステムがあった。

 なんか、水車に歯車を組み合わせ、流れ出る水の動きで水を汲み上げている。


「凄いなこれ。ちょっとは魔法も使われて効率良くなってるけど、工夫することでこういうものが作れるんだな。黄金帝国は凄いところだ」


 俺の言葉を聞いて、水車の管理人が胸を張った。


「限られた世界だからこそ、できることを何でもやって生き延びねばなりませんでしたから。この水車を作り出し、近くの川からこちらに水路を引くために、何人もの人間が犠牲になったと言われています」


「先人たちは偉大だな」


「全くです」


 ちなみにカールくんは、こういう細工物が大好きらしい。

 目をキラキラさせながら水車と歯車の組み合わせを眺めていた。


 水を汲み上げるのだから、水車も歯車一つ一つも大きい。

 一番小さい歯車が、カールくんと同じくらいのサイズだった。


「ゆうしゃむらにはこういうのないですね……」


「クロロックが、高低差だけで同じことをやってのける水路を作り上げたからな」


「土地を知り尽くした方の業ですね、それは。一度拝見したい……。チョコバットも見たがるでしょう」


「そうか、黄金帝国はみんな親戚みたいなもんだもんな。チョコバット元気?」


「はい。カヌーに乗って外海に出ようとして、転覆したりしていますが元気ですよ」


 めちゃくちゃ元気だな。

 帰りにチョコバットを連れ帰ろう。


 その後、黄金帝国の頂点にある祭壇に向かった。

 ここは太陽の神に供物を捧げる場所なのだ。


 かつては生贄を出していたが、最近は野菜を奉納してるらしい。

 平和的になったもんだ。


「これはこれは神様! 我が帝国を見て回っていると伺っていましたが、いかがでしたか」


 ちょうど、祈りを捧げている皇帝がいた。

 黄金皇帝は帝国における、最高司祭でもあるのだ。

 むしろ祈ることが一番の役割なんだな。


「工夫に満ちたすごいところだった。あ、こっちは俺の弟子のカールくん」


「よろしくおねがいします!」


「よろしくお願いします、神の弟子よ。君は村にいた少年だな? あの小さい神様以外にもすごい方々があの村にはいるものだ……」


「たまたまそうなったのだ」


 俺が意図したわけではなく、うっかり世界の特異点みたいな村にしてしまった。

 だが、この間のビンの出張を見て、うちの村だからこそ世界中で困っているところに力ある者を派遣して、それなりに助けるというのはありかなと思えてきた。


 あんまり助けすぎると頼り切りになるし、お客様になっちゃうからそこはバランス考えなきゃな。


「ああ、そうそう。ここ、ユイーツ神と直接チャンネル開いておくから。今までは結界が邪魔して上手くつながらなかったみたいだし、それ以前の気難しい神々は魔王大戦でみんな滅びたからさ」


「は、はあ。神様以外の神様ですか」


 そうそう。

 俺がずっと神と呼ばれているから失念していたが、この世界本来の主神はユイーツ神だ。

 黄金帝国という一つの信仰の頂点である皇帝は、面通ししておいたほうがいいだろう。


「ユイーツ神ー。この祭壇とつなげてくれ」


『はいはい』


 空間が開き、神々しく輝くユイーツ神が現れた。


「あひゃー」


 黄金皇帝が腰を抜かす。


『ああ、あなたが黄金帝国の。ふむふむ、では捧げものはこちらに届くように致しましょう。黄金帝国に加護のあらんことを』


 ユイーツ神の輝きは、黄金帝国の隅々まで届いたようだ。

 誰もが祭壇を振り仰ぎ、ひざまずいて祈りを捧げ始める。

 俺はカジュアルにやって来たものだが、やはり神様の降臨と言えばこうだよな。


 俺が腕組みしながらこの光景に満足していると、カールくんがうんうん頷いた。


「かみさまってほんとうはすごいんですね。うちのむらによくあそびにくるから、わかんなくなってました」


「世界の主神だからね。ちょくちょく遊びに来るっていうのが異常なんだよ。隣村の村長も神だしね」


「やっぱりすごいところなんですね、ゆうしゃむら! ぼく、ずっとうじうじしてたの、ばかみたいにおもえてきました」


 世界の広さを知って、悩みは解決しなくてもちょっと軽くなったらしいカールくんであった。

 そうだな。

 人生は長いし、まだまだ色々なことがあるし、世界にはもっと色々なことがある。


 前向きに行こうじゃないか。



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