第362話 市郎氏とカールくん、悩む

 今日は珍しく午前がずっと晴れていたので、畑仕事をバリバリやって来た。

 そして正午から雨になったので、仕事はすべて終わりである。


 ぶらぶらと図書館を覗きに行くと、珍しい組み合わせがいた。

 市郎氏とカールくんである。


 いや、市郎氏はなんだかんだ言って図書館住み込みみたいに今はなっているので、おかしくはない。

 一人用の家を用意したりしたのだが、外で仕事をしたり調べ物をしたりで、ほぼ帰ることがない。

 もったいないのでその家は、次に来る住人用にしてくれと市郎氏から頼まれたのである。


 ということで、市郎氏は図書館住み込みであり、ブレインやカタローグと仲良くやっている。


 そこにカールくんが来るとはどういうことか。

 市郎氏はカールくんのお母さんであるシャルロッテと、かなりいい雰囲気である。

 そこを敏感に感じ取ったカールくんは繊細なお年頃なので、市郎氏を苦手に思っていたはずだ。


「そこのところどうなの」


 俺が直接聞いたので、市郎氏が苦笑した。


「ストレートなところが村長のいいところですよね。確かにお互いの中に秘めたままだとこじらせることも多いです。これはですね、カールくんが歩み寄ってくれてて」


「うん。オットーがしんでから、ははうえがしょんぼりしてるんです。かわいそうなんで、なんとかしてあげたいけど、ぼくだとできることがあんまりおもいうかばなくって」


「人の死のショックは時間が解決してくれるのを待つしかないのでは?」


「うーん、でもははうえが」


 カールくんもしょんぼりしている。


「だから、いちろうならだいじょうぶかなって」


「母のために、気に入らなくても市郎氏に相談を持ちかけたと。大人だなあ……!」


 俺はとても感心してしまった。

 大人だってなかなかできることじゃない。


「ううー、ぼくはこどもだからできないの、くやしい」


「それは仕方ない。カールくんはまだ七歳だからな」


「日本の七歳の子でも、ここまでしっかりしてる子はなかなかいないですよね」


 逆を言うと、しっかりしないと、と本人が思って成長せねばならない環境だったということだ。

 今もカールくんは、友達と遊ぶよりも魔法の訓練を重要視しようとするきらいがある。

 それはよろしくない。


「カールくんがお母さんのことを考えて行動しようとしたのは偉い。だが、自分の気持ちというのもあるだろう。それを悪いものだと思ってはいけないのだ」


「村長の言葉は妙に含蓄があるなあ」


「本心を押し込めたまま生きてきた聖女が、魔王によってその心を解放されて魔族化したのとかいたからな。俺が倒した」


「実体験だ……!!」


 魔王との戦いには様々なエピソードがあるぞ!

 基本、人間を魔将化させたやつは多くが胸糞悪いエピソードがついてくるので、途中から考えたり感情移入したりを辞めて、サクサク事務的に処理していったのだ。


「わかんないです!」


「分からんだろうな。大人だって分からない。それくらい難しい。だがお母さんの気持ちを癒すには市郎氏が鍵だというのは合っていると思うぞ。ということで、後は市郎氏に任せ、カールくんは俺と黄金帝国見学に行こう」


「そうします!」


 そういうことになった。


「すみません。本当なら僕がやっていくことなんでしょうが……」


「気にするな。シャルロッテのケアとカールくんの対処、同時にはやれないだろ。人間相手はデリケートなので、それぞれに専念するのだ……」


「ありがとうございます!」


「うむ、すみませんより、ありがとうがいいな! じゃあ行ってくる。カールくん、俺にくっつけ」


「はい!」


 こうして、カールくんを乗せて飛翔する俺なのである。

 ある程度俺の魔法を行使できるようになっているカールくんは、自らの身を守れるようになっている。

 だから、俺がバビュンで飛んでも全く問題ないのだ!


 あっという間に黄金帝国に来たな。


「いしでできたまちです! ふしぎなみためをしてます!」


 カールくんが興奮している。

 男の子は謎の遺跡とか大好きだし、黄金帝国の見た目はまさに謎の遺跡だもんな!


 都市と畑が融合しているので、建物の上に畑があって青々と茂っていたり、巨大な石柱に巻き付いた蔓草に果物が成っていたりする。

 限られた空間を最大限に利用して作物を育てる。

 先人の知恵であると同時に、この土地に宿った魔法の力が可能にした農業なのであろう。


 面白いなあ。

 勇者村は死ぬほど土地があるからここまでやらなくていいが、これはこれで研究したい。

 ブレインもたまに遊びに来て調べてるみたいだしな。


「神様が遊びに来た!」


「もうあまり来ないふうなことを仰ってたけど、ちょくちょく来るよね」


「我らの国が魅力的なんだろう」


 歓迎されている。


「やあ皆の衆。こっちは俺の弟子のカールくんだ。みんなの仕事を見せに来たよ」


「おおーっ、神様の弟子!」


 どよめく黄金帝国の人々。

 とは言っても、今現在仕事をしてない手すきの人々だけだが。


 カールくんは尊敬の目で見られて、ちょっと照れくさそうである。


「こ、こんにちは!」


 カールくんが挨拶したら、人々が「オー」「礼儀正しい」「すごい」とどよめいた。

 何をやっても驚くからな、この人たち。


「よし、カールくん。気分転換には知的な刺激を受けるに限る。俺と一緒に黄金帝国見学と行こう!」


「はい、ししょう!」


 こうして、俺とカールくんで、黄金帝国を一通り見て回るのである。



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