第358話 肥溜め管理人ちの赤ちゃん
ポチーナが産気づいたのである。
わーっと一斉に動き出す勇者村。
新たな命の誕生のために、色々と準備するぞ!
「どーれ、俺が安産のために魔法を使って……」
「あんたが関わったら祝福されちゃうでしょ!」
「ウグワーッ!?」
ヒロイナに片足タックルを食らって倒される俺。
立ち上がった彼女は腰に手を当てて鼻を鳴らす。
「いい? 祝福されると、力を得ちゃうでしょう。そうしたら運命みたいなのを背負うの。色々な意味で普通の人として生きられなくなるんだから。基本的に無責任な祝福はしちゃいけないんだからね? 分かる?」
「よく分かった」
こくこく頷く俺である。
「あばば!」
ダリアがハイハイしてきて、倒れている俺の額をぺちぺち叩いた。
おお、元気だ元気だ。
そうだな、ビンを見てると納得である。
フックとミーという普通の夫婦の間に生まれた赤ちゃんが、俺が祝福したために凄いことになったもんなあ。
ニーゲルの子どもがそんな事になったら、これはこれで大変だ。
純朴なあの夫婦が目を回してしまう。
ということで、助産師はヒロイナに任せることにした。
リタも腕まくりしながら、ニーゲル家に入っていく。
ニーゲルはオロオロしていたが、それはそれとして肥溜め管理の仕事をきちんとやっているのだ。
身についた仕事はどんな時でも裏切らない。
『ニーゲルさん、今日は休んでも』
『そうですよ。お子さんが生まれるんですから』
ゴーレムたちに心配されているではないか。
しかし本当にこのゴーレム、人間味があるなあ!
「仕事をしないと……不安で不安で……仕事をしてると、落ち着いていられるっす。無心になるっす」
『肥溜め管理人の鑑だなあ』
『えらい』
ゴーレムがメンタルケアまでしている。
食堂では、お腹の大きくなったカトリナとミー。
次はわたしたちの番だねー、とかお喋りしている。
そうだなあ。
年内に、村はさらにあと二人の赤ちゃんを迎えることになるのだ。
さて、俺はどうするか。
「村長、なんで腕組みして立ってるんだ?」
「やることが無くてな……」
サイトがやって来て、俺が仁王立ちしている様子に疑問を抱いたらしい。
「すげえ堂々とした立ち居姿だったぜ……。とても手持ち無沙汰な人間の姿じゃない」
「そうか……? 俺としては、生まれくる赤ちゃんを祝福に行きたいんだが」
「行けばいいじゃねえか」
「それがな……。俺が祝福すると、赤ちゃんは超常の力を身に着けてしまうのだ。ヒロイナ曰く、大いなる力にはなんか大いなる宿命みたいなのが宿るらしくてな」
「そいつは難儀だなあ……。村長は何もしねえほうがいいんだな……。なんでもできるのになあ……」
「なんでもできるんだが、祝福はこう、無意識のうちに与えてしまう感じだからなあ……出力を絞ったりできない。常に全力だ」
「本当に難儀だ」
俺とサイトで並んで腕組みをしていたら、ニーゲル邸から「ほんぎゃー!!」とか聞こえてきた。
産まれた!!
ニーゲルがビクッとなって背筋が伸びる。
「よし、行くぞニーゲル!」
「お、お、俺はどうすれば!!」
「どうもこうもない! まずはポチーナを労うのだ……」
「う、うっす!!」
ゴーレムたちが桶に水を入れて運んできて、ニーゲルが手を洗って顔を洗う。
そして素早く着替えだ。
赤ちゃんに会うためには清潔でなくては!
「行くぞニーゲル!」
「うっす!」
ということで、ニーゲル宅に飛び込んだのである。
赤ちゃんはヒロイナに抱っこされており、ポチーナは精根尽き果てた感じで大の字になっている。
「お、おお、赤ちゃん! ポチーナ!」
「に、ニーゲルさあーん」
ポチーナが伸ばした手をニーゲルが握る。
「が、がんばった! お疲れ様! 偉い、よくやった! ゆっくりしてくれ」
「は、はいです~」
なんとも見ていてほんわかする夫婦だ。
さて、赤ちゃんは……。
ほうほう、基本は人間に近い? 耳が犬耳だ。
「男の子? 女の子?」
「男の子ね! すっごく元気」
赤ちゃんはまた、ほんぎゃーっと泣き出した。
おお、エネルギッシュエネルギッシュ。
「よし、名前を考えなくちゃな!」
「村長、考えて欲しいっす!」
「待ちなさい! ショートに考えさせたらだめ! 絶対にだめ! ネーミングセンスも良くないけど、何よりも祝福されちゃう! 一番強烈に祝福されるから!」
「しゅ、祝福はいいことじゃないです?」
きょとんとするニーゲル・ポチーナ夫妻。
二人とも難しいことよく分からない感じだな!
ヒロイナも、どう説得したものか悩んだようだ。
「つまりね? 名前をつけるのはとっても大切なことだから、あんたたち二人が一生懸命考えて付けたほうがいいのよ。ダリアだって私とフォスが付けたし、マドカだってショートが名付けたでしょう?」
「な、なるほどー」
「なるほどですー」
とりあえず手持ち無沙汰なので、ポチーナに回復魔法を掛けておくぞ。
「あーっ、楽になったですー!!」
ポチーナがぴょこんと起き上がり、腕をぶんぶん振り回した。
元々体力がある娘だったからなあ。
二人は赤ちゃんにおっぱいをあげたり、寝かしつけたりなどを先輩たちから学びつつ、うんうんと頭を捻ってずっと名前を考えていたようだ。
そして二日後。
赤ちゃんを抱っこして二人がやって来た。
「名前がきまったっす!」
「すごーくいい名前ですー!」
「おお、なんだなんだ!」
「聞かせてー!」
「あかちゃんのおなまえ!」
俺とカトリナとマドカで興味津々。
そこで、ニーゲルとポチーナは声を揃えた。
「ショータ!」
「ショータ!?」
それってつまり、俺の名前を元にして……!?
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