第357話 フォレストマンのちびっこたち、遊びに来る
雨季は雨が多い。
とにかく多い。
スコールみたいなのがドジャーっと降る日もあれば、パラパラという感じの雨が一日中降っている日もある。
そんな日でも農作業を休むわけにはいかないので、やれそうなところをチャカチャカやってしまうわけだが……。
パラパラという小雨の中、フォレストマン交流小屋の扉が開いた。
そこから、ちっちゃいのが何人も、キャーッと叫びながら走り出てくる。
フォレストマンのちびっこたちである。
彼らの接近を知ったビンとマドカとサーラが、家を飛び出してくる。
雨の日は外で遊べないのでつまらなそうだったのだが、雨の日専用の来客があるとなると話は別なのだ。
うちの村とフォレストマンのところの小さいのが合流して、きゃっきゃと遊びだした。
「マドカー! レインコートレインコート!」
「サーラ、そのままじゃ風邪引くでしょー!」
「ビン、雨弾いておいてねー」
「はーい!」
ミーだけ掛け声がちょっと違う。
ビンは念動魔法で体に降りかかる雨だけを弾くことができるのだ。
手のかからないお子さんである。
レインコートは、巨大ウナギの皮を利用したものだ。
大人用も作ろうと思えば作れるが、ウナギは川の頂点捕食者だからなあ……。
あまり狩らないようにしておきたい。
大人たちは、水を弾くよう、油を塗った外套で我慢だ!
「手伝おう」
「マレマも来たか。今回も保護者?」
「俺の役割、ショートとこの村に来ることだ。そうなった」
笑いながら、マレマが雑草を抜き始める。
フォレストマンは、誰もが緩く色々な仕事に手出しをするが、メインとする役割というのは決まっている。
マレマは俺が最初に遭遇したフォレストマンで、付き合いも長くなってきている。なので彼が俺とのやり取り担当になっているということだろう。
「雨が多い季節、いいな。我々も外に出られる」
「雨季はちょっとだけ涼しくなるし、湿ってるもんなあ」
ヤモリ人たるフォレストマンは、日陰や湿ったところが大好きなのである。
かと言って寒すぎると動きが鈍るため、熱帯雨林付近にしか住めない。
森の外に出るには、雨季はちょうどいい季節というわけだ。
「子どもたちどう? うちのちびさんたちと関わって、色々変わってきたりしてない?」
「新しい遊び、考えてる。今までに無かった。大人になる、ものを考えるようになるだろう。フォレストマンの新しい時代が来る」
「そこまで凄いかあ」
考えてもみれば、閉鎖環境でずっと何も変わらない暮らしをしていた彼らが俺たちと関わり、変化を始めたのだ。
どういう形であれ、フォレストマンの止まっていた時間が動き出したのだろう。
黄金帝国もそうだが、外と関わることで人というのは変わっていくものだ。
俺は、この変化こそが人である醍醐味なんじゃないかと思っているのだなあ。
「マレマさんこんにちは! お昼のご飯、みんなの分も増やしておかなくちゃだけど、食べられないものあった?」
俺にとって最大の変化の象徴が来た。
カトリナがニコニコしながら、マレマからフォレストマン好みの食べ物の話を聞いている。
基本、フォレストマンは無難なのは菜食。
野菜系は、刺激のあるもの以外はなんでもいけるらしい。
肉は何でも食べる。
脂はご馳走。
焼き加減はレア。
などなどだ。
森の中では、肉の外側をこんがり焼いて菌やらを殺し、みっしり詰まった中身を生に近い状態で食うんだそうだ。
これでビタミンを得ているのか……と思ったが、単純にフォレストマンの趣味がレア好みなだけだった。
昼食タイム。
イノシシの脂に火を通したやつをどかんと皿に載せたら、フォレストマンたちが歓声をあげた。
なるほど、脂は特別なご馳走なんだなあ……。
ちびっこたちが脂にかぶりついて、むしゃむしゃやっている。
「まおもたべる!」
「マドカには脂っこいんじゃないかな。マドカはお肉を食べようねー」
「おにくたべる!」
イノシシ肉のレアステーキを切り分けてやると、パクパク食べ始めるマドカだ。
うちの子はとにかく顎が頑丈なので、何でもよく噛んで食う。
たくさん食べて、たくさん噛んで、お陰で腕とかふとももとかむちむちである。
そしてよく遊び、走り、飛び跳ねたりしている。
小さい子特有のぷにぷにした手足の中に、きっとみっしりと筋肉が作り出されていることだろう……。
この間走るのを見たら、マドカめちゃくちゃ早かったからな。二歳児の速度じゃないぞ。
「おにくおいしいねえ」
「おいしねー」
ポラポちゃんとマドカがニコニコしている。
育ってきた環境や、種族すらも大きく異なっても、一緒に食卓を囲めば仲良しなのだ。
食が比較的細いサーラも、小さく切り分けてもらったお肉をむしゃむしゃやっているではないか。
一番の食欲増進効果は、楽しい食事だな。
「野菜も食べるのだ」
「やー!」
肉と脂ばかり食べる子どもたちに、マレマが苦言を呈した。
「あー、うちと同じだあ」
カトリナが笑う。
そうだなあ。
フォレストマンも人も、何も変わらないのかも知れない。
「ま、うちのマドカは言われたらすぐに野菜をめちゃくちゃ食べるけどな」
「マドカは何でも食べるもんねえ」
野菜を食べるのを嫌がっていたフォレストマンのちびっこたちだが、目の前でマドカが野菜をむしゃむしゃむしゃあっと食べ始めるのを見て、ハッとした。
真似して野菜を食べ始める。
マレマが目を細めた。
「ショートの子は野菜をたくさん食べる。偉い」
「ああ、うちのマドカは偉いんだ」
自分が褒められたわけじゃないが、俺はニヤニヤしながら頷くのだった。
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