第352話 俺、帝国と外の世界をつなげる

「おお、いらっしゃられましたか、神よ!」


「陛下! 神も黄金帝国と同じ世界からやってこられたそうです!」


「なんだと!? 同郷の方であらせられたか! いやいや、我々はこちらの世界で代を重ね、今ではこのワリウィラコチャルナに根を下ろしております」


 なんか不思議な響きでこの世界のことを言い表したな。

 俺からすると、この異世界はワールディアと言うのだが、彼らは彼らで独自に世界を名付けていたらしい。


「では、魔王大戦のことは気付いてなかったとか」


「世界が騒がしくなっていたことは知っておりました。ですが我々の力では、この森を出ることが叶わなかった」


「あー、熱帯雨林、モンスター天国だもんなあ」


 うちの畑の肥料にしているジャバウォックとかいるけど、あれ普通に恐ろしい人食いモンスターだからな。

 実際に魔法を使えるようになったとは言え、地球人であった黄金帝国の人々があれを突破できるとは思えない。


 だからこそ、黄金帝国は結界を張って静かに生きてきたのだろう。


「我が黄金帝国は、限られた数の民しか生きられない。そのために、生まれてくる者の数を管理してこれまで生き延びて来たのです。生きることはできても、その先に未来を抱くことができない。そこに現れたのがあなたなのです神よ!」


「俺か。ということは、黄金帝国を外の国とつなげちゃってもよろしい……?」


「できるのですか!? やってくださるのですか!!」


 皇帝や彼の臣下たちが目をきらきら輝かせる。

 これを見て、サイトはポカーンとしていた。


「話がでかくなってきたなあ……」


「ショートはすっごいからね!」


 ビンは自分のことのように得意げである。

 うむうむ。俺の凄いところを見せてやろう。


「よし、それじゃあみんな外に出ろ。熱帯雨林に道を開くぞ。だが、森を貫いたらそこに暮らす奴らがちょっとかわいそうだ。ってことで……」


 俺はフワリっと浮かび上がり、黄金帝国周辺を見回した。

 よし、一番近いのは海だな。


「行くぞ。地震魔法ユラユラ! そして柔らかくなった地盤を結界で固定! これを海まで通す!! うりゃーっ!!」


 空中で俺がポーズを取りながら、複数の魔法を連続使用する。

 すると、帝国の側面の森が激しく揺れ、そして隆起した。


 黄金帝国の民が、わあわあと騒いでいる。

 驚いただろう。

 彼らの目には、巨大なトンネルが出現したのが見えているだろう。


 森の真下を通り、海まで続くトンネルだ。

 ここから海に出て船でも作れば、黄金帝国は別の文化圏と接触することができる。


 トンネルは結界によって形作られているから、壊れることはまず無いしな。


「ワリウィラコチャルナが外へと広がった!!」


「森の外の世界! まだ知らぬ世界!」


 うわーっと盛り上がる帝国の人々なのである。

 彼らはずっと黄金帝国の中に閉じこもらねば生きていけなかったのだ。


「この先は海だ。船を作れ。というか多分帝国の中に古代の船とかない? で、漕ぎ出して色々調べてみるのだ。えっ、船の乗り方が分からない? 仕方ないなあ」


「村長がめちゃくちゃ世話焼いてる。本当に面倒見いいよな」


「情けは人のためならずって言葉が俺の故郷にあってな。こうして人に情けを掛けてると、回り回ってこっちにいいことが返ってくるんだとよ。ま、そんな見返りを望んでるわけじゃないが」


 俺としては、目についた困ってるやつを放っておけないだけだ。

 無理がない範囲で手を貸してやるのは俺の趣味なのだ。


 帝国の人々は、わいわいとはしゃぎながらトンネルをくぐっていった。

 誰もが、初めて見る海である。

 伝承はあったらしい。だが、誰も見たことがない。


 恐る恐る海に近づき、手に触れ、指を付けてから舐めてみて、感触と冷たさと、そして味に驚く。


「伝承の通りだ」


「海だ……!」


 距離にして、ほんの百メートルちょっと。

 それくらいの距離に海はあった。


 ここがちょうど入り江になっていて、帝国に近づいていたのだな。

 だが、熱帯雨林の危険さはたかが百メートルであろうと分け入ることを許さなかったのだ。


 勇者として世界の危機と戦っているときには気付かなかったが、力を持たない人々にとって、この世界は過酷なのだな。

 いやいや、黄金帝国がたまたま、ベリーハードモードな場所に転移してしまっただけな気がするが。

 よくぞ今まで持ち堪えたものだ。


「じゃあ、船なんかを作って、ちょっとずつ世界を広げていってくれ。それと、トンネルの先は結界が関係なくなるからな。十分に注意して活動するようにな。では、健闘を祈る」


 俺は彼らにそう告げ、立ち去ることにした。

 ここからは黄金帝国がどうやって生きていくかの問題であろう。


「かみさまたちいっちゃうの?」


 帝国人のちっちゃい女の子がいて、親に何か聞いている。

 近くにビンがおり、彼と何か話し込んでいたようだ。


「うん、ショートがきめたからね。でもぼく、たすけてほしいっていったらたすけにくるよ」


 むむっ、ビンがヒロイックなことを!


「あの三歳児、なんつうかかっこいいやつだよなあ」


「お前にも分かるかサイト。そうだな、ビンの決意を無駄にはするまい」


 俺は地面から念動魔法で金属を抽出し、重力魔法で押し固めて一つの形にした。

 ブレスレットである。


「三回だけこの国の危機を助けてやる。ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張ってどうにもならなくなったら呼ぶがいい。ビンが助けにくる」


「おお……! 神のお一人が!!」


 ワッと沸く黄金帝国。


「いいの?」


 びっくりした顔をするビンだ。


「お前が決めたことだろ。俺は全力で応援するぞ。ビンができる範囲で、黄金帝国を守ってみよう」


「うん!!」


 ということで、新しい関係性みたいなのを育んだ俺たち。

 今日はひとまず、勇者村へ戻ることにするのだった。

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