第351話 約束していた熱帯雨林の王国

「村長、熱帯雨林の王国に行ってみようぜ」


 そろそろ雨季になったなーという頃。

 サイトにそんな話を持ちかけられた。


「そうかー。確かに雨季の始めはちょっと仕事の量も余裕があるしな」


 食料の加工などは、乾季の終わりまでにみんなで済ませてしまうのである。

 雨季になると、外でできる作業がどうしても減る。


 内職みたいなのが増えるんだな。

 そしてこの季節は蒸すものの、日差しがそこまで強くはない。

 雨上がりを狙って、ちょいちょいと畑の手入れをしたりと、仕事もやや不規則になるのだ。


「よし、今も雨が降ってるし、行くか」


「行こうぜ!」


「いこう!」


 そういうことになった。

 あれ?

 一人増えた?


 サイトを連れて空に飛び上がったら、小さいのが横をビューンと飛んでいる。

 ビンである。


「ビンも行くか」


「いくよ! ずうーっとむらにいたもん。ぼくもそとをみたいなあ」


「よしよし。冒険心ってのは大事だもんな」


 三歳児としてはありえないほど利発なビンである。

 俺が見た所、頭脳のレベルは小学校中学年に匹敵する。


 戦闘力で言えばトリマルに次ぐわけで、勇者村の最高戦力の一つに数えられるだろう。

 そんなビンと俺が村を離れて大丈夫かというと、トリマルがいるので大丈夫なのである。

 トリマル一羽でグンジツヨイ帝国より強い。


 ということで、熱帯雨林の上をまったり飛んでいく。

 雲よりも高いところにいるので、雨など関係ないのだ。


「空は寒いな……」


「うむ。勇者村は熱帯だからな。薄着で過ごしてしまうのだが、空を飛ぶとなったらちょっとは厚着の必要がある」


 保温魔法的なのをサイトにかけてやる俺である。

 打ち消すなよ?


 ビンはと言うと、念動力のオーバーコートみたいなのを実体化させており、ぬくぬくだ。

 超能力的なものを実体化させるとか、本当にどうなってるんだろうなあれは。


 俺たちは結構な速度で飛行し、すぐに熱帯雨林を抜けた。

 広大な森ではあるんだよな。

 ハジメーノ王国がまるごと入ってしまうくらいのスケールはある。


 だが、飛んでしまえばそれを突っ切るのも早いのだ。

 そして、森が途切れてすぐに、また鏡写しのようにそっくりな熱帯雨林が出現した。


「あそこだ」


「どこだよ? 俺には同じ森にしか見えないけど……」


「よく見てみろ。明らかに不自然じゃないか? 全く同じ形の森が、左右逆に生えているんだ」


「ほんとだ! あれえだのかずとか、おんなじだよ!」


 ビンも気付いたか。

 近くまで降りていくと、よく分かる。

 それは一見すると熱帯雨林に見えるものの、背後の森と全く同じ姿をしている。


 左右逆だから、まさしく鏡写しなのだ。


「周囲の風景を反射して姿を隠していたんだろうな。サイト、やってくれ」


「ああ、つまり俺がこの魔法を打ち消すってわけか。いいぜ! おらぁ!」


 サイトが拳を握りしめ、鏡写しの森に叩きつけた。

 すると……キュピィーンッとか音がして、森を映し出していた魔法が粉々に砕け散る。


 そこに現れたのは……。

 まさしく、黄金の都だった。


「イヨー」


 俺が挨拶しながら近づいていくと、門番みたいな連中がハッとした。


「この間飛び込んできた男!」


「また来たのか」


「黄金帝国の結界をカジュアルに破るのは止めて欲しいなあ」


 釣り大会の時、自らの勢いでぶっ飛ばされた俺。

 この黄金帝国とか言う国に飛び込んでしまったのである。


 ちなみにこの国なんだが、この間に来歴を聞いたぞ。

 元々は南米にあった、れっきとした地球の国家だったらしい。

 だが、ある時に国ごとこの世界へ転移してしまったのだそうだ。


 俺、現るとの報を受けて、黄金帝国の偉い人が悠然と現れた。

 これ、現れるまでに一時間半掛かってる。


 俺とサイトとビンで、入り口で門番と一緒にとうもろこしのヒゲ茶を飲んで歓談していたところである。

 偉い人が現れると、門番が直立不動の姿勢になった。


「やあやあ」


「外なる神よ、お久しぶりです」


 偉い人が俺に向かってうやうやしく頭を下げた。


「どういうことなの」


 サイトが混乱している。


「ショートがそらとんできたんでしょ。そしたらかみさまだっておもったの」


「ビン、正解。無詠唱で自在に魔法を使う俺を見て神だと思ったようなのだ。だいたい間違ってない」


 偉い人は、俺たちの会話が終わるまでじっと待っており、ちょうど途切れたところで口を開いた。


「皇帝陛下がお待ちです。黄金宮殿までお越しください」


「おう、分かった。この間は急いでたから皇帝に会えなかったもんな」


「どういうことなの」


 サイトよ、混乱するのは後でまとめて行うがいい。

 道すがら、偉い人に黄金帝国の話を聞く。


 この人は大臣の役職にあるらしい。

 同時に祈祷師でもあるとかで、この帝国に張られている結界は、彼の一族が築いてきたものなのだそう。


「破られてもすぐに張り直せます。これで熱帯雨林に潜む怪物どもから帝国を守っているのですよ」


 はっはっは、と笑う偉い人……祈祷師。


「ただ、張り直すにも手間が掛かるので、できれば外側から呼びかけてもらえるとありがたいです」


「それはすまんかった」


 結界をいちいち壊してたら良くないよな!


「ちなみに、かつて黄金帝国が存在していた世界では、魔法は効果を発揮しなかったのです。ですが、こっちの世界ではなんと魔法が使えたのです。祈祷や怪しい呪文がどれも効果を発揮する。我が黄金帝国は、慌ててノウハウを集めました。生贄を捧げる儀式などする必要もない。この世界に満ち満ちるマナを使えば、誰でも奇跡を起こせたのです」


「あー、そんな感じだよな、こっちの世界。ただ、魔法を使うには才能が必要だから、黄金帝国の住人は全員が才能もちだったんだろう。ちなみに俺もお前たちと同じ世界の出身でな」


「なんと神も!!」


 祈祷師と盛り上がってしまう俺なのだった。


────────────

一足先に神様扱いされるショートなのである。

ここより、黄金帝国お世話編!


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