第350話 スコールの日の進展

 本日の午前中はスコールなり。

 労働は午前中だけという勇者村、これは仕方ありませんなあ。

 今日の労働はなし!


 家の中で、カトリナと一緒にマドカの遊びに付き合うのである。


「おにんぎょさんねー」


「ほうほう」


「ふんふん」


「まおがおかたんでねー。おかたんがおとたんでねー。おにんぎょさんがねー、といまう!」


「お人形さんがトリマルかあー。じゃあお父さんはなんなんだい」


「おとたん、あかちゃん!」


「なんだって!」


 こりゃ斬新な設定だ!

 ということで、カトリナとマドカが夫婦の会話をして、俺がバブバブ言っているとである。


「ちーっす。ちょっと入れて欲しいんだけど……って、うおおっ、村長がバブバブ言ってる!」


 現れたサイトがドン引きした。


「おう、どうしたサイト。今は神聖なおままごとの途中だぞ」


「それでバブバブ言ってたのか……。いやさ、ちょっと家を貸したんで俺を入れてくんねえかなと」


「いいぞいいぞ」


「いいよー。ゆっくりしてって」


「どもー」


 サイトがトコトコ入ってきたのを、マドカがじーっとみている。


「さいと!」


「おう、なんだちびすけ」


「さいとねー、といまう!」


「流れるようにサイトをおままごとのメンバーに加えたな。しかもトリマルが二羽とは」


「斬新な設定だねー」


 俺とカトリナでニコニコする。

 サイトは、雨宿りさせてもらうよしみから、おままごとに加わった。

 しばらく、ホロロッホー鳥の鳴き真似などをしていたら、マドカが大変喜んだ。


 そして遊びに満足し、マドカがぷうぷうと寝てしまう。


「それでサイト、なんでこっちに来たんだ? お前は家があるだろ。一人だと暇になったか」


「まあそれもある。俺は暇つぶしの手段とか知らないから、村の中ぶらぶらしてるんだ。スコールだとそれもできないからな。だけど今日は違う」


 何やらただならぬサイトの雰囲気である。


 三人分のお茶を持ったカトリナがスーッとやって来た。


「どうしたのどうしたの」


 新たなゴシップの香りを嗅ぎつけたな。


「実はな、アムトに頭を下げられてよ」


「ほう、アムトが」


「なんかシーツを抱えて現れて、後ろにリタを連れてるじゃねえか」


「ほう」


「おー」


 俺たち夫婦が感嘆した。


「アムトの家は子供部屋は一部屋だしな! それにリタは神聖な教会だし、抵抗があったか。豊穣神の教会なんだけどなあ」


「そういうことで、俺はあいつらに家を貸し、ここにやって来た」


「えらい」


 俺とカトリナで異口同音に褒めるのだった。

 そうか、ついにあの二人も一線を越えるか。

 いや、なんというか衝動的じゃなくて、妙にお行儀がいいんだが。


「私たちの時よりもなんだかちゃんとしてるよね」


「うむ……」


 カトリナも同じことを考えてたか。


「それでサイトくん! あなたはそういうの見て、相手が欲しいなあとか思ったりしないの?」


 おおっ、カトリナの世話焼きおばちゃんパワーだ!

 だが、サイトは全く興味無さそうである。


「いや、なんか全然」


「欲求は満たされてるもんな」


「ああ。なんつーか、こう……家族的なものに憧れがないっつーか」


「あー、お前、生まれ持った力のせいで家に居場所が無かったんだっけ」


「そうそう」


 そんな話をした。

 カトリナも、サイトの何やら複雑そうな生まれの事情を察したようだ。

 世話焼きおばちゃんパワーを封印して、「勇者村の仕事は慣れた?」みたいな極めて当たり障りのない話をしている。


 よくよく考えると、サイトとカトリナは同年代ではないか。

 かたや今の所人生の目標と言うか、目的も一切ない、勇者パーティ永遠の欠番メンバー。

 もう一方は第二子をお腹に宿し、お母さんライフと奥さんライフと世話焼きおばちゃんライフを満喫している女子。


 人生色々である。

 明らかに二人の話も噛み合っていない。

 見てきた人生に違いがあり過ぎるわな。


「よしよし、ここは俺が面白い話をしよう」


 そういうことで、ここは年長者である俺の出番であろう。


「面白い話?」


「どういうお話なの?」


「うむ。釣り大会で俺は、大地を釣り上げて自分ごとぶっ飛ばされたのだが、その時に熱帯雨林を突き抜けてめちゃくちゃな距離を移動してしまってな。で、森の奥に謎の王国があった」


「謎の王国!?」


「そんなのあったの!?」


 食いついてきたな!

 俺としては割とどうでもいい話題なのだが、二人は興味津々なようだ。


 人が暮らせるところなら国もできるだろう。

 熱帯雨林で阻まれていたら、接触だってできないだろう。

 なら、熱帯雨林の奥地に謎の王国を見た! となるのも普通なのだ……!


 だがそういうのも、俺が地球でそういうトンチキな動画とかマンガとかに慣れてしまったせいだろうからな。

 娯楽が少ないこっちの世界の住人にとっては、凄い刺激になる話なんだろう。


「とりあえず文化圏がハジメーノ王国とは違ってたな。俺が上空を飛んだときには見つけられなかったから、魔法的な防御が掛かってて見えなくなってるらしい。今度遊びに行こうじゃないか。とりあえず……雨季の晴れ間にでも」


「いいなあ、行こう行こう」


「その頃は子どもが生まれてそうだなあ……」


 スコールはやがて止み、青空が覗くようになった。

 俺としてはこの話はこれっきりというつもりだったのだが……。


 後々、サイトとしたこの約束を果たさねばならなくなるのだった。


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