第349話 作れ、お漬物

 雨季がもうすぐになると、スコールも増えてくる。

 すると、乾季の間に育った野菜を漬物にする作業が待っているのだ。


 野菜は足が速いからな。

 雨季は湿気で、すぐに食べ物が腐ってしまう。

 なので、塩分とかでギュッと漬け込んで微生物が繁殖できないようにするのだ。


「収穫は終わった……。次は加工作業だ」


 ずらりと並ぶ、勇者村の面々。

 野菜の数は凄い。

 なにせ、一年分の漬物を作る勢いで作業をするのだ。


 テーブルの上に盛られた野菜は山となっている。

 鮮度が落ちない内に、素早く処理せねばならない!


「行くぞ!」


 俺が声をかけると、「おーっ!!」と声が返ってきた。

 作業開始である。


 みんなでガンガンに野菜を切る。

 ぶつ切りでいい。

 なんなら種も取らなくていい。


 片っ端から切って、塩にガンガン漬け込んでいく。

 塩だが、近くに小山があってだな。

 俺が調べた所、それは岩塩の山だった。


 つまり塩は無限にある!!


「詰め込めー!」


「わー!!」


 塩の中に野菜をぎゅっぎゅっと詰めるのはちびっこ軍団の仕事でもある。

 マドカとサーラが、キャッキャとはしゃぎながら野菜に塩を掛けている。

 そしてブルスト謹製の壺につめこんでいくわけだ。


 カールくんとルアブも詰め込み担当。

 こればかりは魔法が役に立たないから、カール君は地道にぎゅうぎゅう野菜を詰めているな。


 魔法が役に立たないと言ったな?

 あれはこの男についてのみ当てはまらない。

 ビンが念動魔法を使い、野菜の切断から詰め込みまでをやってのける。


「やさいをきってー」


 念動魔法が大量の野菜を凄まじい精度で切断する!


「つめてー」


 宙に浮いた野菜が正確な動きで、壺の中に敷き詰められていく!


「おしおかけてー」


 浮いた塩が、壺の隙間を埋め尽くし、蓋をした。


「大したもんだ」


 俺は感心しながら、分身して大量に野菜を切り、切断の衝撃で空に舞い上がったそれを別の分身が壺で受け止め、さらに塩を詰め込んでいる。

 俺ですら念動魔法一つでやれる気はしないな。


 ビンは念動魔法オンリーだからこそ、あの技に特化しているわけだ。

 既に俺以上の使い手だろう。


 他の村人たちは、わいわいとお喋りしながら仕事をしている。

 本来ならば、数日掛かる作業なんだよな。


 だが俺とビンの担当する量がアホほど多い。

 無理してるわけではなく、俺とビンが凝り性でひたすら集中してしまうのだ。


 二人で村人全員を合わせたのの二十倍くらいやったな。

 ということで。


「午前中で終わったな。どうにか村のみんなでもっと楽にやれる方法を考えたい……」


「そうだねー。例えば、野菜を収穫するタイミングをずらして、その時ごとにお漬物にしていくとか?」


 カトリナが今、凄くいいことを言った!


「それだ」


「うんうん。いつまでも、ショートとビンちゃんに頼むわけにもいかないもんね」


 勇者村最強タッグだからな。

 ああ、戦闘力だけならビンの上にトリマルがいるな。

 あいつはそろそろオーバーロードに勝てるだろ。


 漬物の壺は我が家の地下に運び込み、たくさん並べる。

 うちが勇者村で一番でかいからな。


 仕事が終わり、みんなだらだらとしている午後のこと。

 ピアとフーが何やら難しい顔をして、向かい合っていた。


「どうしたんだ」


「村長! あのね、うちね、丘ヤシの皮が漬物にならないかと思って」


「ほう……!?」


「これ、お塩に漬けると柔らかくなるのね。だから、多分食べられるようになる……」


「なんだって!?」


 驚きの発見である。


「ピアがすげえんだよ。どこからでも食えそうなものを見つけてくるんだ! 頼りになる女だぜ!!」


 フーは難しい顔としていたのではなく、ピアのひらめきに感動していたらしい。

 ピアは褒められて、ちょっと照れている。


 俺たちが褒めても喜びこそすれ、照れることは無かったはず……。

 ははーん。


 それはそうとして、スイカの皮だって漬物にしたりするもんな。

 何でも食べられるかどうか工夫するというのは大切なことだ。


「うちさあ、教会で孤児で保護されてたからさ。食べ物がいっつも足りなくて……」


「ああ、そう言えば、みんな痩せてるのにピアだけぷくぷくしてたよな」


「うん! あれねー、いっつも森とかその辺で食べられるもの探してた! あとね、あちこちでお手伝いして、お駄賃の代わりに食べ物もらってた!」


「そうだったのか……。毎日必死に食べ物を確保していたんだな」


 それが勇者村に来て、食べる量よりも体を動かす量が増え、スレンダーになったと。

 蓄えていた脂肪が筋肉に代わり、フー好みのアクティブに動ける女子になったのだ。


「なんでも工夫してみるといい! 成功したらみんなに広めてくれ。生活の知恵は多いほどいいからな!」


「はい!!」


「俺のピアはすげえからな! 期待しててくれよ!」


「俺の……」


 おっ、ピアが赤くなった!!

 食い気ばかりだったピアが、ついに色気に目覚めたか……。

 感慨深いなあ。


 二人を見ていると、仲良くなっていった頃の俺とカトリナを思い出す。

 俺たちももう、二人目作ったからな。


 きっとピアとフーは、色々な意味で勇者村を賑やかにしてくれることだろう。

 丘ヤシの漬物で盛り上がる二人を眺めながら、俺はニヤニヤするのだった。


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