第348話 ヤツの名はもち米
セントラル帝国に、懇意にしている商人でハオさんというのがいる。
彼からコルセンターで連絡が来た。
「ショートさん、新しいお米手に入れたねー」
「なんだと」
ということで、俺はセントラル帝国に飛んだ。
文字通り飛んだ。
米の話となれば放っておくわけにはいかぬ。
俺は米どころ出身なので米にうるさいのだ。
もちろん、どんな種類の米も美味しく食べるがな!!
果たして、到着した俺を待っていたハオさんは満面の笑みだった。
「よく来たよショートさん! 東の島国で手に入れたお米ね。セントラル帝国でも栽培していたけれど、魔王大戦の時に行方不明になって、記録も散逸してしまっていたよ」
「魔王大戦は稲作文化をも傷つけていたのだな。許せん」
怒りを燃やす俺であった。
「それはそれとして、米を見せてくれんかね……」
「ふっふっふ、ショートさんならそう来ると思って、ワタシお米を既に蒸してあるね」
「すごい。有能」
俺は語彙を失ってハオさんを褒め称えた。
セントラル帝国にあるハオさんの家は、なかなかでかい商家である。
一国一城の主である。
なのに、フットワークも軽く自らの足を使い、東の島国とか南のホホエミ王国まで繰り出すのだから大したものだ。
様々な危険をかいくぐり、自らの目と手と足で、商売のための品物を見つけ出す。
俺が知る限り、ハオさんは最高の冒険商人であった。
使用人が蒸し上がった米を持ってくる。
米の香りがする。
俺はこの匂いが大好きだ。
どれどれ、と盛られた米を箸で摘んで食ってみる。
これは……!!
なんかすごく粘り気を感じる。
「もしや……もち米ではないか」
「アイヤー! ショートさん正解よ! これ、
「うむうむ。そうか、もち米か! ついにもちが食えるのか! 堪らん……。ハオさん、よくぞ……よくぞ手に入れてくれた……!!」
ハオさんと固い握手を交わす俺なのである。
まさか異世界に来て、もちを食える機会に巡り会えるとは。
ところで、セントラル帝国の言葉で米と餅って、ミーとビンになるのな。面白いな!
勇者村にいる二人の顔を思い浮かべるのだ。
早速もちにしようということになり、ハオさんが東国で仕入れてきた臼と杵が準備された。
「なかなか難しいね。何度かやったけれど、向こうで見せてもらった時ほど上手くできないよ」
「ああ。こいつはコツがあってな。見ててくれ。出てこい分身!」
「おう」
「アイヤー!! ショートさんが二人になたよ!!」
「俺と俺で餅つきを披露する。水を入れた桶を持ってきてくれ!」
餅つき開始である。
「ツアーッ!」
「ほいさ!」
「ツアーッ!」
「ほいさ!」
「ツアーッ!」
「ほいさ!」
「ツアーッ!」
「ほいさ!」
もちをつく!
ひっくり返す!
もちをつく!
つけてないところを表にする!
もちをつく!
ひっくり返す!
もちをつく!
つけてないところを表にする!
この繰り返しである。
お米の粒がだんだん分からなくなり、物凄い勢いでもちになっていく。
うおおお! 俺は今モチツキマシーンだ!!
「すごい! すごいよショートさん!! その芸見せてお金取れるよ! ワタシがショートさんのモチツキショーをするからぜひやってよ!」
「いかん! モチツキとは神聖な行為なのだ……。これを見せて金を取ることはできん!!」
「おお……高潔な精神! じゃあショートさんにモチツキしてもらってワタシが近くに出店をたくさん出して米餅を売るのは……」
「それはありだなー」
「おおー!」
ということで、たくさんもち米をもらう事を条件に、俺はハオさんと握手を交わしたのだった。
翌日。
シュンッでセントラル帝国にやって来た俺である。
広場にはたくさんの観客が詰めかけている。
中心には大きな臼と杵。
俺はすっともろ肌を脱ぐと、ねじり鉢巻を装備した。
「行くぞオラー!!」
うわーっと観客が沸く。
「分身だーっ!!」
俺はスッと二人に分かれた。
そして!
俺と俺の分身によるモチツキが始まる!!
「ツアーッ!」
「ほいさ!」
「ツアーッ!」
「ほいさ!」
「ツアーッ!」
「ほいさ!」
「ツアーッ!」
「ほいさ!」
搗かれ、猛烈な勢いでもちになっていくもち米。
これは俺たちの頭上にウツシトールの魔法を応用し、サテライトビジョン化してある。
観客は俺のモチツキショーを楽しみつつ、もちが完成していく様を眺めていられるというわけだ。
そしてついにもちは完成する。
まだ湯気の立っているそいつを、俺はタレだけ付けてパクっと食った。
「うめえ!!」
観客がゴクリと唾を飲んだ。
「た、堪らん!」
「俺にももちをくれえ!」
「あたしにもおくれええ!」
「アイヤー!! 大繁盛だよー!!」
ハオさんの嬉しい悲鳴が聞こえてきた。
いい仕事をしたものである。
世界に広がれ、もち!!
だが、もちを細かく噛み切り、よく噛んで食べるようにな……。
夕方に帰宅し、我が家でこっそりともちを食べた。
砂糖醤油で味付けしたやつを指先くらいのサイズにして、こいつをぱくりと。
「あら美味しい! 不思議な食感~」
「おいしー!! まおこれすきー! おとたん、もっともっと!」
カトリナとマドカには大好評であった。
だが悲しいかな。
俺がもらってきたもち米は、これから苗に育てるためのものである!
「これからおもちを育てることにもなる……。つまりたくさん食べられるのは来年だ……!!」
「がーん!!」
マドカはほっぺたに両手を当てて、ショック!というポーズをしたのだった。
誰から習ったんだろう……。
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