第346話 稲刈りの季節

 麦とか米を収穫する時期になった。

 今年もなんだかんだとバタバタして、気付けば乾季の終わりが近づいてきているなあ。


 労働人口が増えたために、稲刈りはかなり楽になった。

 そしてあまり重労働させてはいけない奥さんが三人。


 カトリナ、ミー、ポチーナ。

 多分同時期に子どもが産まれてくるんではあるまいか。


 いやいや、ポチーナが多分一番早いな。

 目に見えてお腹が大きく膨らんでいる。


 獣人の妊娠期間は人間よりもちょっと短いらしいのだ。

 基本的に未熟児で生まれてきて、おっぱいを飲んでガンガン育つ。

 複数生まれるのが基本だが、乳幼児死亡率が高いとも聞くな。


 今回はニーゲルの血が混じっているので、普通の獣人とは違うかも知れない。


 そんな大切な命をお腹の中に宿した奥様方だが、彼女たちだって仕事はするのである。

 肉体的重労働ができないなら、軽労働をする。


 つまりお弁当作りだ。

 たくさんの米や麦を炊いて、おにぎりにしたりパンを焼いたり。

 パン焼きは重労働では……?


「ほいっ! ほいっ! ほいっ!!」


 カトリナが軽々と、焼き上がったパンの乗った板を取り出しては並べていく。

 オーガのパワーからすると、これくらいは軽労働になるらしい。


 ミーとポチーナがおにぎり担当だな。

 畑仕事をしている連中は、食べざかりばかりだ。

 幾らお弁当があっても足りない。


 あっという間に山のようなおにぎりが出現し、これを輿に乗せ、ゴーレムたちが運んでいった。


『者どもー! 昼食ですよー!』

『奥様方の』

『愛情たっぷりの』

『お弁当を』

『喰らうがよろしい』


 ドドーンっと登場したお弁当に、畑や田んぼから歓声があがる。

 村人たちは作業を放り出して集まり、がつがつと弁当を食った。


 いやあ、肉体労働の後のおにぎりとパン!

 美味いこと美味いこと。


 今日はちょっと長めに働く日で、昼過ぎまで仕事をする。

 地球で言えば、午後二時くらいまでだな。

 飯を食ってちょっと休憩して、残りの仕事だ。


 大人たちがガンガンに刈っていった稲や麦穂を、子どもたちがぐるぐるに縛って転がす。

 脱穀やら何やらは明日以降だ。


『うおおおおおお任せくださいお任せください』


 二等兵が雄叫びをあげながら、稲や麦穂をまとめていく。

 あの円盤ボディでどういう技術を用いているのか。


 今日はとにかく、勇者村の総力戦なのだ。

 猫の手すら借りて、稲と麦を刈り集める。


「ぬおー辛いですニャア!」


「猫は一生分働きましたニャ!!」


 寿命が無いくせに何を言うか。

 雨季になると仕事は一気に減る。

 乾季と雨季の間になる今頃が、一番いい感じで米も麦も実っており、忙しい季節なのだ。

 さっさとここいらの作業を終えて、次の仕事に取り掛かれるようにしたい。


 今年から勇者村では、宇宙船村で開発された稲刈り道具を使用していた。

 言うなれば、山羊が引くコンバインみたいなのだ。

 中に歯車とかが内蔵されていて、こいつで田畑を練り歩くと根っこから稲と麦が引っこ抜かれる。


 便利便利!

 ここでガラドンが猛威を振るった。


「いけえ、ガラドン!!」


 サイトが叫ぶと、ガラドンが『めええ!!』と応じる。

 二人のコンビネーションはバッチリだ!

 疾走するガラドンの後に、引っこ抜かれた作物が転がる。


 凄まじい作業効率である。

 ガラドンのコントロールはサイトが完璧に行う。

 規模を拡大した田畑だが、お陰で例年よりも収穫が順調なくらいだ。


「圧倒的じゃないか今年の収穫は」


 俺は作業風景を眺めながらそう呟くのだった。

 昼飯を食った後もちょっと働き、おおよその目鼻はついた。


 あっちの日本では、農作業の機械が無かった時代、一日中働いたのだろう。

 こっちでは乾季の日差しが強い関係上、労働時間は半日になる。


 それでも放置された稲穂などは天日がガンガンに乾かしてくれるのである。

 あとは侵入してくるイノシシなどを警戒するだけ……。


「イノシシだ! 行くぞガラドン!」


『めえぇ!』


 サイトとガラドンが、出現したイノシシに飛びかかっていった。


「ブグワーッ!!」


 イノシシたちがふっ飛ばされて宙を舞う。

 あれは今夜のおかずであろう。


 ピアとフーが、お肉にする気満々で道具を担ぎ、現場へと急行した。

 さて、そろそろ本日の労働も終了。


 みんなでわいわいと、日陰のある食堂に移動した。


 村の中心にあるこの施設は、村人の憩いの場なのだ。

 地面から一段上がった所にあるから、雨季でも水が上がってくる心配はなし。

 柱と屋根しか無い構造だから、風通しも抜群。


 みんなで果汁を垂らした水なんぞのみながら、今年の作物の出来具合はどうだとか、どう加工するだとか言う話をする。

 今日明日で穀物をやっつけて、明後日からは野菜の収穫だ。


 穀物ばかりに関わっているわけにもいかないので、夕方には野菜畑の手入れもちょっとだけやらないとな。

 そっちは日本からうちの父親がやって来て手伝うことになっている。


 異国情緒溢れる村で農作業をするのが、楽しくて堪らないらしいうちの父。

 家庭菜園だったものもすっかり村の通常の畑と融合し、時々働きに来る人みたいになっている。


 畑仕事のついでに、勇者村のおっさんたちと飲み会もしているらしいので、父にとっての娯楽にもなっているのだろう。

 酒を飲んでテレビを見ているだけよりも健康的である。


 しかしこう……。

 仕事の後に冷たいものを飲みつつ、のんびりとしていると……。

 眠くなってくるなあ……。


「おとたん、おねむさんだ」


 うとうとする俺の耳に、マドカの声が聞こえるのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る