第341話 いいとこ見せるぜ、釣り大会!!

「うおおおおお!! いいところ見せるぜ、フー!!」


「おうよ!! いいところ見せるしか無いぜえええええ!!」


 フーは釣り大会への馴染みが薄いはずだが、すっかり溶け込んでいる。

 そしてアムトと肩を並べて、叫びながら釣り竿を振っているではないか。

 あの有様では魚は逃げるのでは……?


 などと、戻ってきた俺は思うのである。

 いや、俺が言えた義理ではないが!!


 自らの力で吹っ飛び、恐らく数十キロほど空と熱帯雨林を突き進んでしまった。

 途中でなんか知らん古代王国みたいなのに突っ込み、現地の人々にめちゃくちゃ驚かれた気がするが、俺も気が動転していた。

 ペコペコ謝りながら戻ってきたのである。


 ……あの王国、なんだったんだろうなあ。

 凄くインカっぽかった。


 いやまあ、そんなのはどうでもいいか。

 今はアムトだ。フーだ。


「二人とも、釣りに呪われている俺が言うのも何だが……声は静かに、荒ぶるのは心の中だけにして釣るのがいいぞ」


「村長……!!」


「言われてみればその通り!!」


 二人の若者は唸った。

 そしてどしんと尻を下ろして、深呼吸を始めた。


 すると釣り竿がズドンと動くのだ。


「うおーっ!!」


「うおおーっ!!」


 若者たちが吠えた。


「いかんでしょ」


 だが燃え上がる熱情は止まらない。


「くっそーっ!! すげえ引きだあ! フー! 手伝ってくれーっ!!」


「ぬおーっ!! 持っていかれるなよアムトーッ!! こいつは俺たちと魚の勝負だ!! 負けるわけには行かねえ!!」


 二人が叫びながら、暴れる釣り竿と戦っている。


「どうやら大物が水の中でハッスルしているようだな」


「村長ーっ! 釣り竿ごと持っていかれそうだ! っていうかこんなにしなっても折れねえとかなんでできてんだよーっ!」


「鍛冶神様が自ら鍛えた釣り竿なんだ!! ばかでけえ魚でも絶対に折れねえよっ!  あと、村長はだめなんだーっ!! 手伝ったら俺たちの負けが確定する!!」


「なんでだーっ!!」


 それは俺が釣りに呪われているからだ!!

 ということで、俺は二人を後ろから腕組みしつつ眺めているのだ。


 おうおう、必死に引っ張っている。

 そして魚も暴れている。

 だが、いつまでも魚の体力は持つまい。


 何せ、二人は若くて力に溢れているからな。

 ほれ、釣り竿の動きがちょっと落ち着いてきた。


「行くぞおおおおお!!」


「一気に行くぞおおおおお!!」


「「おらあああああああ!!」」


「おっ! 行ったー!!」


 見事、空に舞うどでかい魚。

 なんだろうなあ、あの魚は。

 まあ、焼いて食えば分かるか。


 昼頃、二人がでかい魚をかついで現れたのを見て、勇者村一同は歓声を上げた。


「男を上げたな!」


「これは娘たちも放っておかないだろう」


 アキムやブルストの声。

 みんなチラッとリタとピアを見るのである。


 リタはちょっと頬を赤くしながら、「やるね」とか呟いており。

 ピアはと言うと……。


「おおおーっ!! でっかい魚ーっ!! 捌くのはあたしがやるねーっ! フー、手伝ってーっ!!」


 積極的!

 フーは釣りの戦いに疲れた顔をしていたが、その表情が一瞬で輝きに満ちた。


「おう! 任せろーっ!!」


 どでかい魚を捌くのが、未来の夫婦の最初の共同作業か……。

 俺はニヤニヤしながらこれを眺めるのである。


 おっ、外側でリタとアムトがなんかもじもじしてるぞ。

 俺は二人の背後に近づいた。


「捌いただけじゃ食えねえからな。串の用意を誰かがやらんとな……」


 ハッとする二人。


「ああ、俺が用意するよ」


 アムトの父のアキムが動き始めようとしたところに、スーリヤが現れて素早く首の後ろを叩いた。

 恐ろしく早い手刀だ……。俺でなければ見逃しているね。

 動かなくなったアキムをスーリヤが持っていく。


「あ、ああ! 行こう、リタ!」


「うん!」


 よしよし。

 若人たちの背中を見送るのである。

 いやあ、いいなあこういうの。


 二組のカップルの行方が楽しみで仕方ない。

 世話焼きのおじさんおばさんの気持ちがよく分かるぞ。


 魚が焼き上がるまではのんびりするかと、車座になった他の村人たちのところへ行く。

 すると、エンサーツとブルストが酒を飲み交わしていた。

 カールくんの家の執事、オットーも混じっているが、これは彼の作った酒のお披露目でもあるのだな。


「どうですかな。新作ですよ。丘ヤシではなく、サボテンガーさんがくれた一部を発酵させてですな」


「サボテンガー酒か! こりゃあまた珍味だぜ……」


「ちょっと薬臭いが、癖になる香りだな」


 酒を飲み慣れている男たちが、ぐいぐいやっている。


「おお、ショート! お前もやれ! 新入りは弱くていかんなあ」


「新入り? ああ……」


 完全に理解した。

 サイトが酔いつぶれて転がっている。

 おっさん二人と同じペースで飲んだな?


「私も混ぜてもらっていいですかな」


「おうおう! グーじゃねえか。遠慮せずに加われ!」


 フーの父である虎人、グーである。

 大人しくて、いつも存在感をあまり出してこない。

 だが、この機会に勇者村おじさん会に加わって欲しいものである。


「よーし、俺も混ぜてもらおうじゃないか」


「ショート、飲め飲め!」


「どうせ釣らないんだからどんだけ飲んでもいいよな!」


「なんだとお前らあ! まあそうかも知れんが、俺は酒の節度というのは守れるタイプなんだからな!」


 こうして俺は魚の焼き上がりまで、ちょっと変わったサボテン酒を楽しむことにするのだった。



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