第342話 さらば釣り大会! 今年も元勇者はボウズ!!

 うるせえぞタイトル!!

 まだボウズちゃうわ!!


「ということで、俺も頑張ってみることにした……」


「ショートがよく分からないところに怒りを飛ばしてるなあと思ってた!」


「カトリナは俺のことをよく理解してくれているなあ……」


 うちの奥さんの愛情に目頭が熱くなるのである。


「おとたんつるー? まおもおてつだい!」


「マドカも一緒にやるかー!」


 そういうことになった。

 マレマが子どもたちと釣りをしてるので、その横に腰掛ける。


「ショートか。釣りは楽しいな。このような手段で魚を捕らえることができるとは。知らなかった」


 釣り竿の扱いをそれなりに覚えたマレマ。

 まだ魚は一匹しか釣れていないようだが、楽しそうだった。


「網で捕る方が簡単だろう。だがこれもいい」


「そうか。フォレストマンは水にちょっと入って魚を獲ったりするもんな」


「うむ。あまり深入りすると川の恐ろしい獣が襲ってくるから、速さの勝負だが。だからこそ、このゆっくりした時間がいい」


「ああ。俺も焦りすぎてたのかも知れん……」


 膝の上にマドカを載せて、釣り竿を触るに任せる。


「おさかな! きた!」


「ははは、マドカ、そんな簡単にお魚は来ないぞー」


 ぴょこぴょこ反応する浮き。

 きたあ。


「ほんとだ。ここは俺が気合を入れて……」


「おとたんがんばおー!」


 いかん!

 ここでツアーッとやったらマドカごとぶっ飛んでしまう!

 そんなのは父親失格である。


 ここは魚など逃してもいいので、マドカが楽しめる方を重視してだな。


「マドカのパパがんばれー!」


「がんばれー!」


 フォレストマンの子どもたちが応援してくれる。


「はっはっは、ありがとう。がんばるぞー」


 俺はおおらかな気持ちで、マドカが釣り竿を触るに任せた。

 俺は軽く手を添えて、魚がばしゃばしゃやるのを微笑ましく見守るのだ。


 おうおう、暴れ疲れて魚が動かなくなってきた。


「ちょあー!」


 マドカが気合を入れて竿を引っ張る。

 俺もニコニコしながら一緒に釣り竿を引いた。

 すると……。


 すぽーんと釣れる、魚。


「あれえ?」


「つれたー!!」


 マドカが歓声。

 カトリナがいつの間にかいて、網でスポッと魚をキャッチした。


 彼女の二の腕くらいの太さと大きさがある川魚だ。


「あれえ?」


 俺は現実についていけない。

 い、今、何が起こったと言うんだ……!?


 まるで、魚が釣れてしまったような……。


「おとたん、やったねー!!」


「やったな、ショート!」


「マドカのパパやったー!」


 わーっと祝福される俺。

 えっ、なんで……!?

 俺、何かやっちゃいました……!?


「ショートが魚を釣ったんだよ。おめでとうー!」


「えっ!? ええええっ!?」


 カトリナに言われて、ようやく実感が湧いてくる。

 俺が魚を……!!

 何ということであろうか。


 俺が諦めなかった結果、ついに魚を釣ることに成功したということ?

 いやいや!


 俺の膝の上で、俺を見上げているマドカ。

 目をくりくりさせている。

 うちの子のお陰である!!


 マドカをふっ飛ばさないように、そーっとそーっと優しい気持ちで釣り竿を握っていたのだ。

 それが功を奏したのか。

 釣りに必要なのは、力でもパワーでもストレングスでもなかった。


 愛である!!


「やってしまったかー!! ありがとうなマドカ!」


「ん! まおがんばった!」


 ということで、親子でキャッキャと喜んだ。

 勇者村の一同にもこの話は伝わり、おめでとうおめでとうのコールが相次ぐのだった。


 わっはっは!

 まるでお祭りじゃないか!


「俺は完全に釣りというものを理解したからな。見てろ、また釣ってみせるぞ! ツアーッ!!」


 一人釣り竿を手にした俺が、裂帛の気合とともに釣り針を投じ、早速何か引っかかった。


「うおおおおおっ!! 見よ、俺の釣りをーっ!!」


 叫びながら満身の力を込めて釣り上げる……。


「ショート、それ根がかり……」


 プッツーンッと切れる糸!

 水面から飛び出していく川底の岩!

 己のパワーでふっ飛ばされていく俺!


「ウグワーッ!?」


「やっぱ村長が吹っ飛ばないとしっくりこないもんなあ」


 フックがしみじみと呟く声が聞こえるのだった。


 こうして、第四回勇者村釣り大会はつつがなく終了した。

 俺がまさか魚を釣り上げてしまうというハプニングはあったが……。


 いやいやいやいや!

 ハプニングじゃないから。

 俺も年々成長しているということだから。


 弱点を一つ克服してしまったわけだな。

 ふふふふふ。


「あー! おとたんわらってるー!」


「マドカと一緒にお魚釣れたもんねえ」


「うん!!」


「釣れた魚は大切に食べないとな……。干し魚にしよう」


 そういうことになった。

 マレマもあの後、魚を釣れたようで、ポラポちゃんと子どもたちがわあわあ喜んでいた。

 フォレストマンの環境では、ゆっくり釣りをするのは難しいかも知れないから、たまに遊びに来て釣りを楽しんでもらいたいものだ。


 そして若きカップル候補たちも、距離が縮まったようである。

 これから加工する魚についての話を、ピアとフーがしている。


 道具の後片付けは、リタとアムトだ。

 ごく自然に二人組みになっているじゃあないか。


 勇者村の大人たちは、ニッコニコになってこれを見つめた。

 一人不満げなのがいるが。


「ううーっ!! 兄ちゃんにとられた!!」


 ルアブが飛び跳ねて悔しがっている。

 お前さんはまだ八歳くらいだもんなあ……。


 カールくんよりも一つ上だし、もう田畑に出てばりばり働いているルアブ。

 だが、まだまだ子どもなのだ。


 しかし約束しよう。

 ルアブが大きくなったら、またパートナーの事で相談に乗ってやるからな!

 まあ、その時になったら考えよう……。



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