第340話 四年目の勇者村釣り大会なのだ

「来たかエンサーツ!」


「今年こそ白黒つけてやるぞブルスト!」


 でかいおっさん二人が、駆け寄りざまに拳と拳を突き合わせ、がっはっはっはっはと笑った。

 めちゃくちゃ仲良しだな!


「勇者村」


「釣り大会ですって」


 ヤシモとバロソンが目を丸くする。

 そう言えば君等はこの伝統を知らなかったな……。


 勇者村では毎年、釣り大会を行うのだ。

 雨季が近づいてきた乾季の後半でやることが多いな。


 俺は毎年ボウズなので、今年こそ単独で釣り上げたいものだ。

 この日ばかりは畑仕事をお休みして、全部ゴーレムたちにお願いする。


 そして村人がこぞって、川に向かっていくのである。

 ちなみに、村に残るのはほんの数名。


 ニーゲル、ポチーナ夫妻と、ゴーレムたちと二等兵、それからガンロックスに山羊とホロロッホー鳥、アリたろう。


 結構たくさん残ってるな。

 だが、これだけいれば不届き者が村に侵入することもあるまい。


 俺とブルストでテキパキと、大きな筏を作る。

 これで渓流を下りながら釣ったりもするし、あちこちの岩場を拠点にして釣ってもいい。


 お昼時に一旦集合して、釣果を使って飯にする。

 今回ばかりは、飯炊き担当は釣りがそこまで得意ではないアキムとか、虎人父であるグーとかなのだ。


 うちの村の婦人会は釣りに強い。


「では!! 第四回、勇者村釣り大会を開催する!!」


 わーっとみんなが拍手をした。

 バインが、訳がわからないながらも真似して拍手してニコニコしている。

 ダリアはきょとんとしてるな。


「まおねー、つりする!!」


「わたしも!」


「マドカとサーラは、ぼくのおてつだいしてね!」


 ほう!

 今年はビン率いる勇者村ちびっこ軍団が参戦か!!

 地上最強の三歳児ビンのお手並みを拝見だ。


 マドカとサーラは長靴を履いて、浅い川でスタンバイ。

 手にはちっちゃいタモ網を持っているな。

 かわいい。


 そしてビン。

 一丁前に子ども用の釣り竿を装備しているのだ。

 なんという風格。


 ふわりと宙に浮き上がり、釣り竿を落としやすい高さや角度を調べている。


「ここだね。えいやー!!」


 ぽちゃん、と釣り竿が水面に落ちた。

 ちびっこ軍団の戦いが今始まるのである!


「さーあ! これ! むしさん!」


「ほんとだ! みずのうえおよいでるねー」


「マドカー! サーラー!」


 おっ! ちびっこ軍団に新たな仲間が参戦だ!

 フォレストマンの女の子、ポラポちゃんだ。サーラのうちにホームステイしてた子も二人やって来たようだ。

 保護者のマレマもいるな。


 ポラポちゃんはざぶざぶ水に入ってきて、女子五人でキャーッと盛り上がった。

 とても賑やかだ!!


 ポカーンとするのはビンである。


「つ、つりしないのー!?」


 がんばれ、ビン!


「ビン、ぼくとつりしよう!!」


 助け舟が入った。

 ここはお兄さんらしいところを見せるカールくん。


「おれはつりうまいぜ!!」


 おっと、さらに兄貴風を吹かせるかルアブ!

 特殊能力が一切ない、アキムの家の次男坊にして今年八歳のルアブだが、勇者村未成年男子組では最年長。


 シュッと釣り竿を振り、早速小魚を一匹引っ掛けてみせたルアブに、ビンとカールくんが尊敬の眼差しを向けた。

 男の凄さは腕っぷしだけではない。

 身に付けた技術や胆力もあるのである!


 それをルアブは教えてくれるな。


 スーリヤは既に釣り師の目をして、釣りのポイントを見定めている。

 今は声を掛けないでおこう……。

 ブルストをして、「最強の弟子」と最近言われ始めている彼女だ。


 カトリナとミーはシャルロッテを連れて、きゃあきゃあ騒ぎながら釣り竿を垂らしている。

 釣りをするよりもお喋りに夢中と言う感じだな。


 特別なシチュエーションでのお喋りは、内容がいつもの話でも、凄く楽しかったりするもんな。

 カトリナとミーはお腹に一人いるのに、元気元気。


「お茶が入ったよー」


 できる夫、フックがご婦人たちにお茶を持っていった。


 さて、ここで女子ばかりが活躍しているような釣り大会だが……。

 頂点対決は格が違った。


 ブルストとエンサーツが、対岸に座りながら釣り糸を垂らしている。

 二人の魚籠には、既に魚が数匹入っているようだ。

 早い……!!


「二人共大したもんだねえ……。うちのブルストは凄いと思ってたけど、同じくらい凄いんだねエンサーツは」


「あいつは凄いぞ。あのガタイで恐ろしく頭が回る。ほれ、釣り竿を動かしているだろ。餌を生きているように見せて、魚のリズムに合わせてるんだ。こいつに合ったやつが思わず食いつくと……」


「よしっ! ねりゃあっ!!」


 気合一閃。

 エンサーツが大物にヒットした。

 抵抗する魚に合わせて、釣り竿を動かす。


 魚は釣り上げられまいと必死に潜ろうとするが、その動きばかりではいられない。

 魚が一息をついた一瞬……。


 エンサーツはそこを見逃さなかった。


「隙あり!!」


 釣り上げられる大物!

 でけえ!

 1mはあるぞ。


 勇者村の一同がこれを見て、大いに沸いた。


「くそう、負けてられんな」


 俺もまた、そろそろみんなを観察するのではなく、自らの釣りに注力するのである!

 釣り糸を垂らして、まずは様子見を……。


 クイクイっと来た!!


「フィーッシュ!! ぬぐはははははははは!! 今年の俺はついてるぜえええええ!! 行くぞ! 今こそ元勇者の全身全霊を使った釣り上げを! ツアーッ!!」


 プッツーンと切れる糸。

 俺が込めた全力が全部俺に帰ってくる!!


「ウグワーッ!?」


 俺はぐるんぐるん回転しながら、熱帯雨林までふっ飛ばされていくのだった。


「今年もショートが自分のパワーでぶっ飛んでるなあ!」


「あれを見ないと、今年も勇者村の釣り大会に来たんだって実感が湧かねえな」


 ブルストとエンサーツ、俺の自爆を風物詩にするな!


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